海水浴2
「悪かったな。押しかけたみたいで……」
「ううん。全然いいよ。稔くんたちが一緒の方が、僕も楽しいし」
買い出しを任された僕と稔くんは、みんなの飲み物持ちながら並んで海水浴場を歩く。稔くんが一緒だと心強い。僕一人だと迷子になりそうだからね。
「それに、何だかんだ言ってるけれど、稔くんたちが来て、お父さんも意外と楽しそうだし」
「ああ。面白い人だよな」
気のせいか、夢月ちゃんたちと一緒にいるときよりはしゃいでいる気がする。やっぱり同性の方が、若い女の子より接しやすいのかな。あまり柚奈ちゃんたちと楽しそうにしていると、お母さんの目も怖いからね。
「それより僕の方こそごめんね。さっき、思いっきりぶつかっちゃって……」
「い、いや……別に……」
海とはいえはしゃぎ過ぎて、前も見ずに走ってしまったのは反省している。もしぶつかったのが稔くんじゃなくて、足腰の弱ったお年寄りや小さい子どもだったら大変だった。
その点、稔くんにはがっしりしていて、びくともしなかった。さすが体育会系男子と言うべきか。筋肉の付き方とか肩幅とか、僕とは大違いだ。僕も男の子のままだったら、稔くんのようになることが出来たのかなぁ。
「えっと、その栗山、あのさ……」
「ん? なに」
「いや、その水着――」
「あ、水着といったら、稔くんたちも学校の水着じゃないんだね。僕なんか、去年まで学校の水着だったのに」
もちろん、去年のことなので、女子用のじゃなくて男子用の海パンのことだけど。
稔くんと義明くんは、膝近くまで裾の伸びたトランクス型の水着姿だ。海のような藍色で格好いい。義明くんは派手な柄で性格が出ている感じ。水着の下にアレが隠されている場所なので、なかなかじろじろと見ることできないけれど、二人とも洒落ていると思う。
「学校のって。栗山らしいな」
稔くんが笑う。稔くんが想像しているのは女子用のものなんだろうけれど、話の意味は通るし、ま、いっか。
「でも、その水着もよく似……」
「おーい。優希。遅いっ」
稔くんが何かを言いかけたとき、向こうから夢月ちゃんの声が聞こえた。
夢月ちゃんがビーチバレーのコートの前で、大きく手を振りながら、僕を呼んでいる。
僕たちはビーチバレーのコートを借りて遊んでいるところなんだけど、現在は、香穂莉ちゃん・お母さんペアが、義明くん・お父さんペアを圧倒したところみたい。女子バレー部の香穂莉ちゃんはともかく、お母さんも昔はバレーボール部だったりする。
「香穂莉。次は私と優希の黄金タッグが相手だからねっ」
「あら? 夢月ちゃん、優希と組むの? それじゃあ、ハンデが必要かしら」
お母さんが髪をかき上げながら、余裕しゃくしゃくで言う。
――むっ。僕に似てあまり背が高くないのに。
「よしっ。夢月ちゃん、やるよ!」
「おおっ」
後ろで、なぜか稔くんの溜息が聞こえた。
結局、試合は香穂莉ちゃんお母さんペアに完敗だった。
それでも、久しぶりにスポーツで熱中できて楽しかった。夢月ちゃんは悔しそうだったけど。
☆☆☆
「ねぇねぇ、くりゅ。一緒に泳がない?」
海の家でみんなで食事をとった後、柚奈ちゃんが僕に向って言った。
夢月ちゃんと彩ちゃんは、お父さんと一緒に岩場の方の『探検』に行っている。香穂莉ちゃんはお母さんと一緒に、パラソルの下でのんびり日光浴中だ。
「うん。いいね」
せっかく海に来たのに、海で泳がないのはもったいないよね。
僕たちは並ぶようにして波に向かって走り、海の中に入った。波打ち際は人がいっぱいで溢れているけれど、少し沖に行くと人もまばらで泳ぐには問題なかった。けれど、塩辛いのと波のせいで、意外とまっすぐ泳ぐのは大変。
「やっぱり、プールの方が泳ぎやすいね」
波に揺られながら僕が言うと、柚奈ちゃんがしみじみと答えた。
「まぁねぇ。けど、海に浸かっていれば変なの寄ってこなくて助かるんだよねぇ」
「ははは」
「いや、笑い事じゃないから。嫌味でもなんでもなく、正直くりゅが羨ましいもん。こんなんだと可愛い水着も限られちゃうし」
「へぇ。そうなんだ」
スタイルが良ければよいで、色々大変みたい。
確かに不特定多数の人から変な目で見られるのは嫌だよね。僕も夏祭りのとき一度だけナンパ(?)されたときは、怖かったし。稔くんがいてくれて本当に助かった。って――
波の下で足をばたつかせながら、僕はふと気づいた。
「そういえば、『変なの除け』の義明くんたちは、どこに行ったのかなぁ」
稔くんも含めて、さっきから姿が見えないけど。
すると柚奈ちゃんが波打ち際を見ながら苦笑して言った。
「もぉ。くりゅが変なこと言うから、変なのに見つかっちゃったわよ」
僕は柚奈ちゃんの視線の先に目をやると、男子二人組が僕たちに向かって手を振っているのが見えた。義明くんと稔くんだ。
「おーい。二人とも。今、あっちの貸ボートで、二人乗りのボートが二つ借りられるんだけど、一緒に乗らないか?」
義明くんが、海の家の方を指さしながら叫んだ。
僕と柚奈ちゃんは顔を見合わせた。
「どうする?」
「まぁ、見るくらいならいいんじゃない?」
僕たちはいったん海から出て義明くんたちと合流して、その海の家に行ってみた。軒先にはしっかりとしたゴムボートが置いてあった。オールも付いていて本格的だ。
「どうだ? 面白そうだろ」
「いいねっ。柚奈ちゃん、一緒に乗ろうよ」
「ちょっと待て。栗山と柚奈が一緒に乗ったら、俺たちはどうすればいいんだよ」
僕が隣の柚奈ちゃんに言うと、義明くんがなぜか慌てた様子を見せた。
えーと。僕が柚奈ちゃんで乗ると、残りは義明くんと稔くんになるわけで。
「え? 稔くんと一緒でいいんじゃないの?」
「あのなぁ。何が悲しくて、ボートに男の稔と二人っきりにならなくちゃいけないんだよ」
「そーなの?」
僕は別に稔くんと一緒でも、柚奈ちゃんと一緒でも楽しいのになぁ。
「じゃあどうすんのよ?」
と問う柚奈ちゃんに、義明くんが右手をずいっと突き出してた。
「くじ引きで決める」
少し短いですが、間が開いてしまったのと、つなげると長くなるので、切って投稿しました。




