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部活

※ ご指摘いただいて沙織先輩のクラスを訂正しました 

 小学校になくて中学校にあるものってなーんだ?

 その答えはいろいろあるけれど、その中でも一番二番に挙げられそうな答えが、『部活』だ。

 入学してから一週間後。いよいよ仮入部が始まった。

「……うーん」

 正直、どこに入っていいかさっぱり。

 体育館で部活動紹介が行われたけれど、やっぱり実際の活動を見て体験してみないと、よく分からない。それに、部活動紹介に参加していない部もあるみたいだし。

「夢月ちゃんはどの部活に入るか決めた?」

 体育館をぞろぞろ出ながら、僕は夢月ちゃんに話しかけた。

「うん。私はテニス部にしようって思ってる」

「サッカーじゃないの?」

 夢月ちゃんは小学校のときからサッカーをやっていて、男子顔負けの腕前(足前?)の持ち主だ。

「バスケとかサッカーとか小学校のときにやってたのじゃ面白くないじゃん。だから、やったことないのを選んでみよっかなって」

「なるほど」

 そういう考え方もあるんだ。

「優希はどうする? 一緒に入る?」

「その、僕は文化部系にしようかと思ってたんだけど……」

 運動能力的には他の女子と大差ないと思い知らされたけれど、まだ女子だけの中での体育には違和感がある。それに、ありえないとは思うけど、もし僕が大会に出て活躍して、ドーピング検査があって、もと男子って反応が出たら大変だし。

 それとこれは偏見かもしれないけど、運動部系って、先輩が怖いっていうイメージがある。女子特有の陰湿ないじめみたいなものもありそうで、ちょっと怖い。

「そっか、残念。優希ってけっこう運動神経いいから楽しみだったのにな」

「ありがとう。せっかく誘ってくれたのに、ごめんね」

 夢月ちゃんがお世辞抜きにそう言ってくれたので、少し申し訳ない気持ちになった。とりあえず他の部を見てみて、よさそうな所がなければ、テニス部にしようかなと思った。

 あ。でもテニス部って、あの短いスカートを穿かないといけないんだよね。

 ……ちょっと無理かも。


 ☆☆☆


「うーん……」

 部活動紹介の冊子を片手に、一人校内を回りながら僕は首をひねった。

 夢月ちゃんと別れた僕は、まず他の親しい友達にも話を聞いてみた。

 彩歌ちゃんは卓球部に入るみたい。ちっちゃいのに台に届くのかなと失礼ながら思ったら、昔、四歳くらいからテレビに出ていた卓球選手がいたから大丈夫って、胸を張っていた。

 香穂莉ちゃんは、バレーボール部。どちらかというと大人しい人だけど、文武両道なところがあるので、少し納得。ちなみに本人曰く、「私だって、たまには思いっきりボールをしばきたくなることもあるんですよ」とのこと。笑顔で言われてしまった。

 柚奈ちゃんは美術部。よくノートにイラスト描いているのを見せてもらっているけど、少女漫画的なキャラクターから洋服のデザインまで、絵が上手いから納得。それに柚奈ちゃんなら、モデルとしてもぴったりだしね。

 ちなみに僕の美術スキルは、小学生のころ漫画家になりたいなぁって思って試しに漫画を描いてみて、即断念したほどの腕前。

「……みんな、もう決めているんだなぁ」

 入学案内に部活のことも記されていたし、地元の先輩から話を聞いているんだろう。女の子としての生活になれるのに精いっぱいだった僕はそこまで余裕がなかったけど。

 というわけで、僕は一人で校内を回りながら、目ぼしい部活を探していた。

 みんなから一緒に入ろう、と誘われたけれど、三年間部活は続くわけだし、やっぱりまずは自分で決めた方がいいかなと思う。

 それに、クラスメイト以外の友達ができるかもしれないしね。


 さて、部活動案内をさっと目を通して思ったんだけど、文化部系って意外と少ないみたい。それに、小説や漫画で見るような奇抜な部活はなくて、シンプルに吹奏楽部とか美術部とかオーソドックスなものが大半である。

 廊下を歩いていると、部屋の中から女子の賑やかな声が聞こえた。声の方向に目を向けると、家庭科調理室があった。

「えっと、調理部かぁ。って、これはやめておいた方がいいよね」

 いまだに雪枝さんから後片付け以外で台所に立つことを許されていない身としては、吹奏楽部や美術部同様に敷居が高い。それに一人だとなかなか中に入りにくいのもあるし。

 というわけで家庭科調理室を後にしようとしたら、隣の家庭科準備室のドアに、「家庭科部」と書かれているのが目に入った。

「……家庭科部?」

 お隣の調理部とは違うのだろうか。ドアにそっと顔を近づけてみたけれど、中から話し声や物音は聞こえない。留守なのかな、と思ったときだった。

「ん、栗山さんじゃないか。もしかして、入部希望」

「……岡本くん?」

 振り返ると、顔見知りの男子生徒が立っていた。同じ班の岡本耕一郎くんだ。

 眼鏡をかけたいわゆる秀才タイプで物静か。運動部系より文化部系の方が似合っているけれど……家庭科部って印象はない。

「岡本くんって、家庭科部に入るの?」

 家庭科に興味があったとは……意外だ。

「いや、沙織姉さん――この部活の部長が僕の一個上の従姉でね、部員が自分一人しかいないから、幽霊部員でもいいので入部してくれと、頼まれていてね。こちらとしても、塾に行く時間を拘束されないのは好都合なので」

 なるほど。なんか納得。

 岡本くんの話からすると、家庭科部にいるのは二年の先輩が一人だけ。とりあえず来年いきなり部長になることはなさそうだし、一人は少ないけれど、大所帯な部活より入りやすいかな。

 気持ちが傾きかけたのを見て取ったのか、岡本くんが言った。

「聞くだけでも聞いてみたら?」

「うん」

 僕は促されるように中に入った。

 準備室特有の雑多な細長い部屋の奥に、一人の女子生徒が座っていた。背中までかかる長い髪を三つ編みにした大人しげな女子生徒。この人が、岡本くんの従姉の沙織先輩だろうか。

「あの……」

「あ、もしかして入部希望者――っ、きゃぁっ!」

 勢いよく立ち上がって一歩踏み出そうとして、滑って前に倒れ込んだ。

「だ、大丈夫ですかっ」

「え、えぇ。いつものことですから……」

 なんとなくこの人のことが分かった気がする。

「あれ? 耕一郎くん……」

 沙織先輩がようやく、僕の後ろに立つ岡本くんに気づいたみたい。

 そして、僕と岡本くんを見て言った。

「……もしかして、彼女?」

「違います」

 僕がなんかのリアクションを起こす前に、岡本くんが即答した。

 一方僕はというと、言われなれないことを言われて戸惑ってしまった。

 えっと……今のは女の子としてどういうリアクションを起こせばよかったんだろう。

 なんてことを考えていたら、逆に沙織先輩が思いっきりうろたえてしまった。

「あ、ごめんなさいっ。私ったら勘違いして……。その、とにかく、す、座って。お茶……もお菓子もないけど、部活動の説明するから――」

「はっ、はいっ」

 先輩の勢いにつられて、僕は慌てて近くの椅子に座った。

「……二人とも落ち着いたら?」

 そんな中、岡本くんだけは冷静だった。


 沙織先輩の説明によると、家庭科部とはその名の通り、授業で習う家庭科の内容がそのまま活動の中心になっていて、裁縫・調理の他にも保育ボランティア、家庭菜園、茶道、清掃活動などなど、結構色々な活動があるみたい。

「……あの、隣に調理部ってありましたけど、こことは別なんですか?」

「えっと、その。去年までは同じ部活動だったの。けど、みんな料理が好きみたいで、調理のある日は人が集まるのだけど、ボランティアとかさっぱりで。それでちょっとしたいざこざがあって独立したというか、別の部活になって……」

 ちょっとしたいざこざって……いわゆる女同士の派閥というかグループの骨肉の争いってやつなのかな……ちょっと怖い。

「あ、でも安心して、うちの部活でも、調理実習の日もあるからっ」

 僕の不安げな表情を見て、沙織先輩が言った。

 いや、調理項目が有無が不安ってわけじゃなかったんだけど。むしろあった方が気が重いし……。でもそろそろ本気で料理も覚えないとなぁ。いい加減、目玉焼きの作り方を覚えたいし。

 そう考えると、僕と岡本くんと沙織先輩だけしかいない部活というのもいいかも。怖い女同士の人間関係はなさそうなうえ、優しそうな先輩だし、家庭科ってのも、女子力をアップさせたい僕としてはうってつけだ。ボランティアとか掃除とか人のためになることをするのも嫌いじゃないし。

「それで、その……どうかしら。家庭科部に入ってくれるかしら。えっと……」

 言いにくそうにしている沙織先輩を見て、僕はまだ自己紹介していなかったことに気づいた。

「あ、僕は岡本くんと同じ一年二組の、栗山優希と言います」

 そう言うと、沙織先輩はこくりと可愛らしく小首を傾げて呟いた。

「……僕?」

 あああ。しまったっ。またいつもの癖で!

「そうそう。言い忘れていたけど、栗山さんは自分のことを『僕』って言うんだよ。すっかり慣れていたから、気づかなかった」

 岡本くんが笑いながら説明した。

 それを聞いた沙織先輩は、僕をまっすぐ見て、にっこり微笑んで言った。

「ごめんなさい。ちょっと驚いちゃったけど、いいんじゃないかしら。可愛らしいし、変じゃないと思うわ」

「あ、ありがとうございますっ」

 良かった。やっぱり沙織先輩はいい人だ。

 これで決心がついた。僕は沙織先輩を見据えて言った。

「もし、僕でよかったら入部させてください」

「本当っ。う、嬉しいわ。ありがとうっ」

 僕の言葉に沙織先輩はぱぁっと顔を輝かせた。本当に年上なのに表情豊かで子供みたいな先輩だ。

「私は二年二組の炭谷沙織。よろしくね」

 炭谷?

 あ、そっか。

 岡本くんが沙織姉さんって呼んでいたから、岡本先輩だと思っていたけれど、従姉弟なら苗字は違うよね。僕が栗山優希で、絵梨姉ちゃんが秋山絵梨みたいにね。

 って、え? すみたに……?

 あまり多くない名字だと思うけど、とっても聞き覚えがあるというか。

「あの……。すごく突然思ったというか、深い意味なんて全く持ってないんですけど、その、すみ……沙織先輩って、二十代ぐらいのお姉さんがいたりします?」

「ええ。いるわよ。よくわかったわね」

 …………。

「で、そのお姉さんって、病院に勤めていたりして……」

「すごいすごい。栗山さんってすごいのね」

 ………………。

「そのお姉さんって、家で患者さんの話とかしません……よね?」

「そうねぇ。やっぱり仕事柄、守秘義務ってのがあるみたい」

「で、ですよねっ」

「だけど家にいるときは色々とお話ししてくれるわ」

「だぁぁぁぁ!」

 僕は思わずうなった。

「あの……やっぱり、僕……」

 僕の表情が変わったのに気付いたのだろう。

 沙織先輩が急に泣きそうな顔になった。もし僕が入部を断って席を立ったら、「お願いっ。逃げないでぇっ」って抱き付かれそうな感じだ。

「……」

「……よろしくお願いします」

「は、はいっ。よろこんで。こちらこそ」

 結局、沙織先輩の泣き顔を見たら断れなくなってしまった。

 まだ先輩のお姉さんが、あの炭谷さんだと決まったわけじゃないし、僕のことに気づいている様子もないし……大丈夫、だよね?



すみません。体調を崩していて更新が遅れました。

この後は、また一週間ほどお時間をいただいて、その後は通常通り1~2日で更新できるようにするつもりです。

よろしくお願いします。

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