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お風呂

「それにしても、もう、すっかり優希『ちゃん』だね」

 僕の姿を見て、宏和おじさんが目を細めた。絵梨姉ちゃんのお父さん、僕にとっては叔父さんにあたる人だ。

「ありがとうございます」

「はっはっは。堅苦しい言葉はいいよ。これから一緒に住むんだから」

「はい」

 秋山家に戻ると、僕が来るということで仕事を早めに切り上げてきた宏和おじさんがすでに帰ってきていて、僕の歓迎パーティを開いてくれた。宏和おじさんと雪枝さんと絵梨姉ちゃん。建兄ちゃんは東京にいるので、これで全員。僕を入れて四人の食卓である。

 お母さんは、帰ってきた宏和おじさんに、僕のことをよろしくお願いします、と挨拶して、雪枝さんが引き留めようとしたけれど、先に帰ってしまったみたい。

 けれどコタツの上に所狭しと並ぶ料理の中に、僕の大好物である鶏とじゃがいもの煮物があって、とても懐かしい味がした。雪枝さんに聞いたら、お母さんが作ってくれたものだと教えてくれた。優希には言わないで、と口止めされていたみたいだけどね。

「本当に可愛いわぁ。コタツなのが残念……」

 雪枝さんが口惜しそうに机の上を眺める。僕は帰ってきた服装で食事をとっているので、あの短いスカートのまま。それをコタツのおかげで隠せてほっとしている。温かいしね。

 それにしてもスカートでの座り方って難しい。最初は正座していたけど堅苦しいので、今はちょっと崩して横に足を揃えた姿勢にしている。なんか女の子みたいで恥ずかしいんだけど。……って、こんなんだから、絵梨姉ちゃんにつっこみを入れられちゃうんだよね。

「それにしても昔は一緒にお風呂に入ったんだけどな。どうかな。優希『くん』。今夜おじさんと一緒にお風呂でも――って痛っ」

 コタツががたっと揺れた。さすが母娘というか、雪枝さんと絵梨姉ちゃんのツッコミの蹴りが同時に宏和おじさんに炸裂したみたい。

「この変態。優ちゃんは、私と一緒にお風呂に入るのよ」

「えっ?」

 絵梨姉ちゃんの言葉に今度は僕が反応した。

「い、いいよ。子供じゃないし、一人で入れるから」

「何言ってるの。まだ女の子歴数か月なんだから、子供以下でしょ。身体や髪の洗い方とか、いろいろ教えてあげることがあるんだから」

 そう語る絵梨姉ちゃんは、恥ずかしがる僕を見てにやにやするわけでもなく、どうやら本気で言っているみたいだった。

「そうね。そうしてあげなさい」

「うんうん。やっぱり若い子同士がいいよねー」

 雪枝さんと宏和おじさんもあっさりと同意して、逃げることはできそうになかった。


  ☆☆☆


 この家には泊りがけで来たこともあったので、よく建兄ちゃんと一緒にお風呂に入っていたことを思い出した。けど絵梨姉ちゃんとは、小さいときでも入ったことなかったと思う。ついでに言うと、宏和おじさんと一緒に入った記憶もないけどね。

 浴室に面した洗面所で、絵梨姉ちゃんと二人きりになりながら、僕は昔の記憶をたどっていた。

「なにぼんやりしているの。早く脱ぐっ」

 絵梨姉ちゃんにどつかれた。振り返ると、絵梨姉ちゃんはすでに上着を脱いで下着姿になっていた。僕は慌てて顔を逸らした。

「もう。なにをしてるのよ。女同士なんだから。そんなんだと友達と一緒に着替えもできないわよ」

「そうだけど……絵梨姉ちゃんは、僕に見られても気にしないの?」

「ええ。大丈夫よ」

 その返答と、女の子同士着替えもできないという言葉に促されて、僕は思いきって顔を上げた。

 絵梨姉ちゃんはもう裸になっていた。隠そうともしていない。胸が大きくて下の部分には毛が生えていていた。それを見て、僕は小さい頃一緒に入っていたお母さんの身体を思い出した。高校生だけれど、絵梨姉ちゃんも、もう大人の女性といった雰囲気だった。

「どう?」

「えっと、大人っぽいなーって思った」

「ふふ。ありがとう。それにしても優ちゃんったら、私の裸を見て、鼻血出したりしないのね。つまんない」

「は、ははは……」

 確かに、絵梨姉ちゃんの裸を見て綺麗だなーとは思うけど、興奮はしていないかも。それは女の子同士だからなのか、家族みたいな存在だからなのかは分からない。お母さんと一緒の風呂に入るときみたいな、気恥ずかしさはあるけれど。

 絵梨姉ちゃんを見習って、僕も服を脱いでいく。脱いだ服を折りたたみながら脱衣かごに入れていくと、絵梨姉ちゃんが微笑みながら言った。

「優ちゃんも可愛いね」

「へ、変じゃない……?」

 お母さんにも女の子になってからの裸は見てもらったことがないので、恥ずかしいけど女性の先輩として、絵梨姉ちゃんの意見が聞きたかった。

「変もなにも……どこからどう見ても普通の女の子よ」

 その一言に、僕はほっとした。

「胸だけじゃなく、腰からお尻へのラインも丸みを帯びて綺麗だし。最新の技術はすごいわね」

「えっと。その辺は手術じゃなくて普通に成長というか……。ホルモン治療と整体みたいのもしたけど」

「へぇ。そうなんだ。じゃあ手術って、切り取って開けただけ?」

「……う、うん。まぁ」

 ぶっちゃけて言えばそうだけど。

「じゃあ、その手術したところも見ていい?」

「うん……」

 絵梨姉ちゃんの顔が、僕の下半身、女の子の部分に近づいてくる。恥ずかしいけど、一番感想が聞きたい部分でもあるので、隠せない。

「ど、どう……?」

 おずおずと僕が尋ねると、絵梨姉ちゃんは全く別の話をした。

「優ちゃんは覚えていないかもしれないけど、小さい頃、一緒にお風呂入ったことがあるのよ。そのとき、優ちゃんの可愛らしいゾウさんを見たことあるんだけどね」

「そうなんだ」

 いつの話だろう。記憶にないけど。

「だから驚いているの。前までアレが付いていたとは思えないくらい、自然だから」

「よかった……」

「まぁちょっとまだ幼い気もするけど、小六・中一くらいでは、私もこんなだったかなー」

「あの……もういいかな」

 ほっとしたら、急に恥ずかしくなってきた。

「あ、ごめんごめん。さ、お風呂に入りましょ。冷えちゃうわよ」

 絵梨姉ちゃんは笑って、浴室の扉を開けた。


 病院にもお風呂はあったけど、入る日が限られていたし、やっぱり病院の中だなって感じがあった。だから、普通の家庭のお風呂に浸かるとほっとする。

 お湯の中に入ると、男の子のときにあった股間のぷらぷら感がなくなっていて、今まで付いていたものがなくなっているというのが改めて実感させられる。そのうち胸が、ぷらぷら~ってなるのだろうか。まだ「おっぱい」というより単に膨らんでいるだけなので、あまり男の子のときと変わらないけど。

「いい? いきなりシャンプーを付けるんじゃなくて、まずは髪の毛をしっかりお湯で濡らして、汚れを取り除くこと」

 僕が湯船につかっている間に、絵梨姉ちゃんが髪の洗い方を教えてくれた。

「で、これがシャンプーで、こっちがコンディショナー、これはトリートメント。しっかり使い方を覚えなくちゃだめよ」

「うぇぇ」

 男の子のときはシャンプーでササッと洗って終わり、だったのに。

 女の子のさらりと艶やかで、ふわりと漂うシャンプーの香りには、裏でこんな努力があったのだと初めて知った。

「ムダ毛処理の方は、優ちゃんにはまだ必要なさそうだけど、一応見ておきなさい」

 そう言って、実演してくれる絵梨姉ちゃんを見て、思わず僕はつぶやいた。

「なんか、いろいろと大変そうだね……」

 お風呂って、いままで僕は、ぼけーっと入ってくつろぐだったけど、これじゃあまりゆったりできそうにない。

「そう大変よ。でも、優ちゃんももう立派な女の子なんだから、さぼっちゃだめよ」

「う、うん」

 僕は湯船に浸かりながら、絵梨姉ちゃんの身体の手入れを眺めていた。大変、と言っている割には、絵梨姉ちゃんの表情に辛そうな感じはなく、自分の身体を優しく労わっている感じが伝わってきて、とても女性っぽく見えた。

 そんな絵梨姉ちゃんを見ながら、僕はぽつりとつぶやいた。

「それにしても不思議な感じ」

「え?」

「僕、子供の頃――って今も似たようなものだけど。建兄ちゃんみたいになりたいなぁって、大きくなったら、僕も建兄ちゃんみたいになるのかなぁって思っていたんだ」

「……それはあまり感心しないわね」

 絵梨姉ちゃんが顔をしかめる。

 建兄ちゃんと絵梨姉ちゃんって、兄妹仲は悪くはないんだけど、こういうところがある。好き放題言い合っているって感じかな。

「――でも、今日一日、絵梨姉ちゃんを見てきていろいろ教わって、今は、絵梨姉ちゃんみたいになりたい、って思うようになったんだ」

「ふふ。ありがと」

 そう微笑む絵梨姉ちゃんはとても綺麗で、従姉で女の子同士(一応)だけれど、ドキッとしてしまった。



 そのあと、お風呂から上がって髪の毛の乾かし方で何度も絵梨姉ちゃんにダメ出しされて、やっぱり女の子って面倒くさいと思った。



皆様のご意見を参考に一部文章を修正しました。

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