第7話
女の子って変なところで変な風にぐるぐる悩んじゃうことってあるよねって話。
「なるほどねぇ」
「それで行けなくなっちゃったんだ」
昼休みになって。結局、沙希は全て白状させられてしまった。
好きになった切っ掛けも、喫茶店に通い詰めていたことも、そこでの様子も、喫茶店に行かなくなってしまった理由も。
二人がかりで細かいところまで根掘り葉掘り聞いてくるものだから、昼休みだけでは足りず授業を挟んで放課後まで尋問は続いた。
「そういうのって一度行くの止めちゃうと、そのままずるずると行けなくなっちゃったりするよね」
沙希もそうなんじゃない? と言われて俯く。図星だ。
行くと迷惑になると思って行くのを止めたけど、今は行くのが怖かった。
毎週来ては長時間居座っていたのに急に音沙汰のなくなった客を、裕哉はどう思っているだろうか。…良く思われているはずがない。
それに、他の女の子と同じことをしたくないという思いも少しある。
「あぁ~、どうしよぉ…」
二人に話したことで今の状況を再確認してしまった沙希は頭を抱えて呻く。
「行けば良いのに」
「そうよ。ケーキ美味しかったわよ」
「それが簡単に出来たらこんなに悩まないです…」
つまるところ自分は我が儘なんだろう、と沙希の冷静な部分が呟いた。
一方的に行かなくなったくせに悪い印象は持ってほしくない、だからといってただの客としか思われていなくてまったく気にされていないのも寂しい。それを確かめるのが怖くて、噂が収まりつつある今でも店に足を向けられないでいる。
いつの間にか、こんなに欲張りになってしまった。裕哉の働くあの店でケーキを食べて彼と少し話して、一緒の空間にいられるだけで幸せだったのに。
ぐるぐると悩んでいる沙希に、香奈子と真由美は顔を見合わせて苦笑した。
端から見れば、そんなこと、というようなことであっても、恋する乙女にすれば一大事。女の子特有の思い込み自己完結もある程度は仕方がない。
「大丈夫よ。店では結構しゃべってたんでしょう?」
「昨日も特に怒ってる風じゃなかったよ?」
「でも…」
優しく言い聞かされても渋る様子の沙希に、二人は特に言い募ることなく肩を竦めた。
「ま、行きたくなったら行けば良いよ」
「行きにくいなら、一緒に付いて行ってあげるから」
「うう、二人ともありがとー」
解決はしていないものの、一応は話に一段落ついて何となくお開きにしようかという空気が流れたとき、沙希がはっとしたように顔を上げた。
「あ、今日部活あったんだった」
「え、本当?時間大丈夫?」
「嫌だ、引き留めちゃっててごめんね」
「大丈夫。いつも部活始まるの遅いし、今日は文化祭に出す作品を決めるだけだし」
去年までは同窓会だった手芸部も、今年から正式な部活となった。今年も去年と同じくこれまで作った作品を売り出すらしい。
「待ってようか?」
「ううん。いつまでかかるか分かんないし」
「そっか。じゃあ、また明日ね」
「部活頑張ってね」
「うん。二人ともバイバイ」
沙希を送り出した後、特に何の部活に入っているわけでもない香奈子と真由美は少しばかり教室に残って話をしていた。
勿論、周囲には誰もいない。
「これからどうするのかねぇ」
「差し当たって言えば、年明けぐらいまではどうにもならないと思うわ」
どちらかが行動を起こせば簡単に解決する話であるとは思う。しかし、二人ともそれぞれの事情やら心情やらで身動きがとれない状態でいるようだから、それも難しそうだ。
まあ、香奈子と真由美にしてみれば、どちらかというと引っ込み思案な性格である沙希が片想い相手と会話が出来るくらいの接点を持っていることの方に驚いている。喫茶店に通うこと、それが沙希の精一杯の勇気だったのだろう。
「余計な手出しも口出しもしない方が良いってことは分かってるんだけどねぇ」
「見ててもどかしいというか、じれったいというか…」
裕哉はともかく、問題は沙希。実際に迷惑をかけていたかどうかはともかく、裕哉目当てで行っていたことは確かだから他の女の子達を見て自分を省みてしまった。沙希のことだから、店で騒いでいたというわけでもないだろうに。
意外に頑固な沙希のこと。無理に引っ張って行くわけにもいかないし、そもそも友人だからと言って恋愛ごとにまで首を突っ込み過ぎるのも良くない。
しかし、今の硬直状態では進展も何もないだろう。
いつまでも沙希の暗い顔を見ていたくもないし、クラスの空気まで暗くされたままでいるのも問題だ。
「お節介覚悟で、ちょっくら介入すべきー?」
「そうねぇ…」
二人して考え込んだとき、からりと教室の扉が開いた。