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dear for me  作者: 八尾文月
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第1話

一人称にするか三人称にするか迷って、このようになりました…。



『三崎裕哉が喫茶店で働いているらしい』


そんな噂が女子の間で広がったのは、夏休みが終わってすぐの九月のことだった。



◆◇◆



「ぶぐふっ!」


昼休み、仲の良い友人二人とご飯を食べていた沙希は、雑談の一つとして聞かされた話に飲んでいたお茶を噴き出しそうになった。

寸でのところで堪えたが、代わりに変なところに入ってしまって咳き込む。こういうのは、なかなか治まらないから大変だ。


「ちょっ、沙希!?」

「大丈夫!?」


友人達は慌てて沙希の背中を撫で、クラスメート達も心配したように近付いてくる。


「何、どうしたの!?」

「大丈夫?さっちゃん」

「はい、ハンカチ」

「保健室行く?」

「ああ、返事は慌ててしなくていいから」

「まずは落ち着いて」


次々と言われる、優しい言葉。


「だ、大丈夫…。ごめんね、ありがと」


落ち着いてきたのか、目尻に涙を浮かべながらもお礼を言う沙希に、周囲はひとまず安堵する。それでもクラスメート達はクラスのマスコットが無事なことをしっかり確認し、それぞれ散っていった。

(沙希に関して、この一連の流れは大体いつものことである)







「はー、びっくりした」

「いきなりどうしたのよ」


沙希の友人である真由美と香奈子の二人は、いくらおっちょこちょいで抜けている沙希とはいえ常にない失敗に怪訝そうな顔をしている。


「…えっと、くしゃみが出そうになって」

「ああ」

「なるほどね」


それでも、この言い訳が通るのだから沙希は微妙な気分になった。

二人が納得する理由が、常の自分の言動のせいだと分かってはいるので何も言えないが。


「そ、それで?」

「ん?」

「噂って…」


恐る恐る尋ねるのは、沙希が涙ぐむまで咳き込むことになった原因の話題である。


「…ああ。三崎裕哉が喫茶店でバイトしてるのを見かけた子がいるんだってさ。あくまで、らしいって話だけど」


曖昧なのは、信憑性が低いからである。

件の喫茶店へ足を運ぶ者は多いらしいが、噂の元となった目撃証言以外で裕哉が喫茶店で働いているところは確認されていないそうだ。

本人に確認に行った勇者も何人かいたそうだが、黙殺されて答えは返ってこないらしい。

だから、所詮は噂でしかないのだ。


「たかがバイトしてるって噂だけでこんだけ大騒ぎになるんだから、人気者ってのは大変だよ」


ケラケラと笑いながら真由美が言った。


「そうだね…」


それが事実であることを知っている身では笑えないのだが、自分が裕哉のバイト先の常連と化していることを二人に話していない沙希は乾いた笑いを浮かべる。


「ま、私らには関係ない話だけど」

「関わりないものね」

「…まゆちゃんもかなちゃんも、三崎君にあんまり興味ないよね」


三崎君に関わらず、この学校が誇る人気者集団に対しても興味がなさそうな態度だ。

せっかく美人なのに勿体ない。いや別に悪いわけじゃないけど。


「あー、うん。まぁね。私、年上が好きだし」

「私は純粋にタイプじゃないからだけど」


香奈子が頷き、真由子がさらりと言った。

そして、二人してにっこりと微笑む。


「何、沙希。さっきからいやに食いついてるけど」

「もしかして気になるの?」

「何だったら行ってみる? 誰かしらに聞けば場所も分かるだろうし」

「そうよね。喫茶店だって話だし、三人でお茶でも飲みに行きましょうか」


たたみかけるように言われて、沙希は言葉に詰まる。


「あ、いや…」


沙希が裕哉に片想い中であることも、友人達は知らない。好きな人がいると友人達に告げるのが恥ずかしくて、なかなか言い出せないでいるからだ。

だけど、こうして沙希が気にしていることに気付いて提案してくれるのだから、彼女達は敏くて優しい。が、こういうときに誤魔化しきれないので困る。


「えー…とぉ…」


親切心から言ってくれているのは分かるので、無碍に断るのも悪い気がする。だからといって、誘いに乗って店に行ってしまえば常連だとバレてしまいそうだ。


ぐるぐると悩んでいる沙希に、ふと気付いたように香奈子が声をかけた。


「ね、沙希。今日の日直って沙希じゃない?」

「あ」


小さく声をあげる沙希は、自分が日直であることを忘れていたらしい。その頭を、真由美が突っついた。


「教科連絡、聞きに行ってきな」


教科連絡とは、授業前に担当の教師のところへ連絡事項を聞きに行くことだ。場合によっては、授業で使う教材を運んだりもする。


「うん」

「五時間目は数学だから、水野先生よ」

「ありがとう、かなちゃん。じゃあ、ちょっと行ってきます!」


「「いってらっしゃい」」


直前の会話を忘れたように職員室へと駆けていく沙希は、教室に残った二人が顔を見合わせて苦笑したのに気付いてはいなかった。




(その後、友人二人の会話)

「やっさしいの」

「だって沙紀、本気で困ってたんだもの。からかうのは面白いけど、泣かしたいわけじゃないでしょ」

「まぁね」

「だから、この話はもうおしまい」

「りょーかい」

「ふふ」

「それにしても今日の沙紀、いつにもまして挙動不審だったなー」

「そうね。沙紀が三崎君のことを好きだなんてとっくの昔にバレてるんだから、隠してもしょうがないのにねぇ」

「…まだ隠してるつもりだったのか」




※※※


・有坂真由美

沙希の友人。ざっくばらんな姉御肌。


・和田香奈子

沙希の友人。泰然自若で大人びている。


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