罪滅ぼし
長く、勇者様に仕えてきました。
勇者様はとても偉大な方でした。
魔王と戦い勝利しただけでなく、私のような孤児さえも拾って育ててくれたのですから。
そんな勇者様が今際の際に言いました。
自分が何故魔王に勝てたと思うか、と。
いかに勇者であろうと魔物の王には正面からの戦いでは勝てるはずもない。
それなのに勇者様は勝利した。
その理由を問われました。
「どうしてだと思う?」
勇者様は既に老齢。
近頃では箸を持つことにさえ苦心しておりました。
そして、勇者様に拾われた私も今では五十の坂を過ぎ、良くも悪くも人生の終わりを意識せねばならない年頃です。
勇者様は終わりを迎え、私もまた人生の清算を始めるべき年齢。
そんな折に。
何故、勇者様はこのような質問をしたのでしょう?
何故、黙っておくべき答えを私に聞かせたのでしょう?
「人質を取った」
勇者様は語りました。
「仮に魔王であれど我が子は可愛いものだ。それも、生まれたばかりの赤子であれば――」
*
勇者様が静かに旅立ったあと。
私は今もこうして生きております。
勇者様の墓を守りながら。
勇者様の従者として。
真実を聞いたとて。
今の私に出来ることは多くありません。
既に肉体は全盛期を過ぎており、本来成すべき覇業を実行するにはあまりにも遅すぎました。
ならば、今を生きる『同族』のために知恵を貸そうと思っても勇者様の従者として生きてきた私の言葉を信用するものなどいるはずもなく。
挙句、淡く抱いていた恋心が私に血を残す役目を許してくれません。
「申し訳ありません。お父様」
毎朝。
顔も知らぬ父へ謝罪をし、私は今日も今日とて勇者様の墓を守ります。
勇者様の従者として。
あるいは勇者様に敗北した魔王の娘として――。




