表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
探偵の白猫は推理を語らない  作者: aoi
最後の演繹
43/45

彼女が猫になった“理由”


 9


「さて。感動の再開も済んだことだし、本題と行きましょう」


 伯母の万菜花さんは、最初からすべてを知っていたかのような、淡々とした口調で言った。


「まず最初に、千蔭ちゃんが猫の姿になった理由から話すわね。永田警部補、お願い」


 なぜ今、理由という言葉を強調したんだ?


 そんな俺の疑問を置き去りにして、永田さんは口を開いた。


「……わかりました。これから話すことは、もちろん他言無用で」永田さんは座卓を囲む全員の顔を、1人ずつ見つめた。全員が頷いたのを確認し、彼は言葉を継いだ。


「先日、拘置所で大槻京詩郎に呼ばれ、面会してきた。そのとき、彼はこう言った。千蔭はある追っ手から逃れるために猫になったと。その時は受け入れがたい事実だったが、一輝たちを見て思ったよ。本当のことだとな」


「話の腰を折って申し訳ないんですが」和田緋音さんが言った。「大槻京詩郎といえば、組織的な連続強盗事件の指示役ですよね?千蔭とは、どんな関係があるんですか?」


「……娘だと言っていた」永田さんの言葉に、場が凍りついた。「後から戸籍を洗ったところ、裏が取れた」


「……そうなんですか」和田緋音さんは静かに言った。


「その強盗事件、一輝と千蔭ちゃんのコンビプレイで解決したのよね?」伯母が俺に鋭い視線を向けてきた。会話に参加しろという圧力を感じる。


「いや、俺はただ絵本さんの推理を言っただけで……」


 なるほど、やっとあのときの言葉の意味がわかった。娘に向けられたものだったのか。


 お前の推理じゃないことは分かってる。千蔭によろしくと伝えておいてくれ──。


 逮捕され、刑事たちに連行されていく大槻京詩郎の姿が脳裏に蘇える。なるべくなら、思い出したくはなかったのだが。


 絵本さんが猫になった理由は分かった。だが、新たな謎が増えた。


「永田さん、その追っ手って誰だか分かったの?」


「そこなんだが……拘置所での面会の続きを話すと、大槻から最初に出された話題が絵本千沙都──千蔭さんの母親のことだった。娘は母親の死に関係してないと言ってきてな」


 それで、俺はおかしいと思ったんだ、と永田さん。


「大槻京詩郎は、絵本千沙都の死を一体どこで知ったのか?」


「あの……わたしは、千蔭たちが住んでいるアパートで、野次馬の1人から事件のことを訊きました」


 再び、和田緋音さんが申し訳なさそうに手を挙げて言った。


「和田さん、大槻は母親の死に娘は関係していないと言っていた。死因は心不全なのに。本来なら、殺人を疑う余地すらない。そんな言葉が出るのは、千沙都さんが何者かに殺害されたと知っている人間だけなんだ。そう思わないか?」


「確かにそうですね」


「だから俺はこう仮説を立てた。絵本千沙都を殺害した人物が、千蔭さんを追っている黒幕なのではないかと」


 情報を整理していると、万菜花さんが俺の肩に手を置いた。


「簡単に言うと、大槻に千沙都の死を話した人物がいるっていうこと。それが誰なのかを突き止めればいい。簡単よね?永田警部補」


「ええ……まぁ」いいところを取られたというような表情を浮かべている。「拘置所の面会記録を調べてみたら、俺よりも前に一人だけ、面会に来ていた男がいた。棚垣守という、大槻家の運転手を勤めている男だ」


 その人物から、絵本千沙都の死を知ったのだろう、と永田さんは締め括った。


「棚垣という男は、なぜ千沙都さんの死をわざわざ大槻に報告したのでしょう?」


 和田緋音さんは疑問を呈してきた。


「跡継ぎ問題でしょうね」


 万菜花さんは言った。


「大槻の妻が千沙都なら、娘の千蔭ちゃんは大槻家の正当な後継者。棚垣は大槻に、娘の居所を聞きに来た、そう考えれば辻褄が合う」


 万菜花さんが俺と、絵本さんを帰省させた理由が分かった気がする。俺たちの身の危険を案じてのことだったんだ。平気でお母さんの千沙都さんを殺害してしまう危険性を帯びた、黒幕の存在から、俺たちを遠ざけようとした。


「大槻は、もう魔の手がすぐそこまで迫っていると悟って、俺を頼ったんだろうな」永田さんは腕を組んだ。


「それじゃ、千蔭の身が危ないじゃないですか。捕まえられないんですか?」和田緋音さんが身を乗り出し、永田さんに迫った。


「それが……もうその心配は必要ない。だから、和田さんをここに連れてきたんだ」


「心配はいらないってどういうことですか?」


「一昨日起きた、レストランの爆発事件」万菜花さんが横から入ってきた。「警部補の出番を奪うようで申し訳ないんだけれど、そこで亡くなったのが、棚垣を含めた大槻家の面々なの」


「え?」和田緋音さんは絶句している。


「本当に悪運が強いというか、ご都合主義というか……。警部補とわたしの仮説が正しければ、これで追っ手は消え、魔の手がここまで伸びることはない。だからもう、何の心配もないのよ、千蔭ちゃん」


 万菜花さんは、見透かすような視線を絵本さんに向けた。


「次は千蔭ちゃん、あなたの問題。いつになったら元の姿に戻るのかしら?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ