千蔭の行方
5
永田刑事から電話があったのは、警察署で話してから1週間後のことだった。
8月も半ばを過ぎ、千蔭が行方不明になってから、まもなく2カ月が経とうとしてる。
わたしは刑事からの連絡を、ただ座って待っているような人間ではない。
親友とよく行った喫茶店を訪ね、悩みを打ち明け合った公園にも足を運んだ。けれど、この1週間で得られたことは、千蔭がどこにもいないという、厳しい現実だけだった。
だから、端末の液晶に『永田刑事』と文字が映し出されたとき、わたしは飛びついた。
「もしもしっ」
『待たせてしまって大変申し訳ない……今から署まで来てくれるか』
「はい、すぐに向かいます」
わたしは手際よく支度を整え、自宅を飛び出した。
警察署に到着すると、玄関前で永田刑事が仁王立ちして待っていた。半袖のポロシャツから覗く腕には、引き締まった筋肉が浮き出ている。
「すみません、お待たせしました」わたしは刑事の元に駆け寄ると、呼吸を整えた。
「いやこちらこそ、急に呼び出してすまない。一刻も早く知らせるべきだと思ったんだ」
「ありがとうございます」
頭を下げるわたしに刑事は、「早速出かけよう」と言って、駐車場へ促した。
案内されたのは、手入れの行き届いた紺色の乗用車だった。わたしはすぐ永田刑事の自家用車だと察した。乗り込む前にわたしはたまらず訊いた。
「どちらに向かうんですか?」
「狸で有名な街だ」男性刑事は勢いよく運転席側のドアを開けた。「田舎のほうだから、長旅になるぞ」
狸?どこだ──。
心当たりはなかったが、わたしは急かされるように助手席に乗り込んだ。彼の運転は荒々しかったが、早く千蔭に会いたい──その気持ちで一杯だった。
車窓から流れる景色は、デパートなどの賑やかな市街地から、どこまでも続く田園へと変わっていく。
「和田さん」
永田刑事は、視線を前方に向けながら言った。
「千蔭さんに会うにあたって、知っておいてほしいことがある」
「何ですか?」
「千蔭さんは今、友人と一緒にいると言っただろ?実は俺の友人でもあるんだ」
友人の名は、網代一輝。まだ高校生で、わたしたちが向かっていることを知らないらしい。
初めて聞く名前に、わたしの中で疑惑が深まった。千蔭に高校生の友人がいるなんて、聞いたことがなかったからだ。
「……その網代さんという方は、千蔭と、どのような接点があるんですか?」
「すまない、それは俺にも分からないんだ」
永田は人差し指でメガネを押し上げた。
「彼曰く、今から約2ヶ月前に会ったらしい。詳しいことは直接聞いてみてくれ」
「分かりました」
2ヶ月前──まさに、千蔭が姿を消した時期と重なる。彼女は失踪した先で、網代という人物に会ったということか。
「まぁ、見れば分かるさ」
永田刑事はそう言って、ハンドルを強く握りしめた。
彼の緊張が車内に伝わってくるようだった。わたしは、これから何が起こるのだろうと、思わず息を呑んだ。




