プロローグ 〜かつての相棒〜
彼女との出会いは、6年前──中学1年生の秋だった。
父の急な異動で転校してきたわたしは、クラスにまったく馴染めずにいた。
何ヶ月か経てば、また転勤で別の県や市に行くことになる──仲良くなったところで別れるのがつらくなるだけ。
そんな態度を察してか、クラスメイトたちは日が経つにつれ、話しかけてこなくなった。
数日が経ったある日のこと、教科書にノート、ペンケース。忘れ物がないことを確認し、「よし」と指で机を差してから、席を立ったときだった。
正面から芯の強さを感じさせる、女子生徒の声が飛んできた。
「どうしていつもそんなに不機嫌なの?」
「え?」
わたしは眉をひそめた。女子生徒が身につけている制服の胸元に付けられた名札には、『絵本』と印字されていた。
「絵本さんには関係ないでしょ」
そう言って、わたしは教室を足早に出た。教室の時計は10時30分を指している。次の授業の理科室まで5分前には着いておかないと。
すると、彼女はすぐ追いついて来てこう言うのだった。
「わたしの名前を知ってくれているなんて光栄ね」
「……胸元のほうに書いてあったから」
「なるほど……」彼女は落ち着いた声で言った。「それで、和田さん。お父さんとお母さん、どちらが自衛官なの?」
わたしは立ち止まると、目を丸くした。隣にいる彼女は得意げな顔でこちらを見ている。
「えっ?何で……」
父の職業は誰にも言っていないはずなのに。なぜ、彼女は分かった──?
「簡単よ。それより」彼女は歩き出した。「さっさと歩きましょ?5分前に間に合わなくなっちゃうから」
「いや、何で分かったのかを教えてよ。わたしは学校で父のことなんて話したことない」
わたしは彼女に追い付き、隣を歩いた。
「お父さんの方か、合点がいった。所作もすべて、憧れからきているものなのでしょうね」
「別に憧れてなんか……」わたしは声に怒りを込めた。「いいから教えてよ。何で分かったの?」
「椅子から立ち上がったときの指差し確認」彼女は言った。「目で見て、指で確認し、口に出す。安全確認において徹底されてる職業だと分かる」
「それだけ?駅にいる車掌さんも同じようなことすると思うけど?」
「もちろんそれだけじゃないわ」彼女はわたしの胸元に付けられた名札を指差した。「和田さんは、胸元のほう、と言った」
「それが何なの?」
「自衛官がよく使う言葉遣いなの。確かに、一つひとつ弱すぎて決定打にはならない。でも、複雑な要素が組み合わさることによって、真実が導き出されることがよくあるのよ、和田さん。早足で歩くのも、もちろん含まれている」
あと、転勤が多いというのも加味している、と彼女は付け加えた。
わたしは大きく息を吐いた。もちろん、観念したという意味で。
「どう、当たった?わたしの推理。ねぇ、教えて?」
彼女は無邪気な笑みを浮かべ、わたしの顔を覗き込んできた。人のプライベートに土足で踏み込むような図々しさを兼ね備えた、彼女──絵本千蔭との出会いだった。
これから2人で数々の事件を解決していくことになるのだが、それはまた別の機会に。
それよりも、今は、行方不明になった彼女の捜索をしなければ──。




