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探偵の白猫は推理を語らない  作者: aoi
猫と狸の化かし合い編
34/44

化かし合いの終わり、そして……



 16


 絵本さんと別れるころには、辺りは花火大会の見物客で賑わっていた。


 なぜ見物客だと分かるかというと、これ見よがしに、浴衣や甚平に着飾った若者たちがいたからだった。


 めこま橋を渡って図書館に行くまで、多くのカップルであろう男女とすれ違った。坪内さんと歩いていたら、こう見られてしまうのか──。彼女に迷惑をかけないように、一緒に歩くときは堂々としていよう。


 そう心に決めたときだった。


 ポケットに入っていたスマートフォンが振動とともに着信を告げた。網代万菜花と表示されている。


 応答をタップし、耳に当てる。


「もしもし」


『も……もし一輝?』


「ごめん、聞き取れないから、ちょっと人混みから離れる」


 人の波から外れて、図書館の敷地内に併設されている公園に入った。ここは人が少ない。


『一輝?』


「もう大丈夫。静かなところに来たから」俺は端末を持ち変えた。「どうしたの?なんかあった?」


『ううん』電話口の伯母は穏やかな声だった。『可愛い甥っ子の初デートだから、伯母としては、緊張をほぐすのが責務だと思ってね』


「だから、そんなんじゃないって」


『まったく、照れないの。男なんだから、しっかりリードしなさい。友達だとしても、女性なんだから』


「……分かった」


『それでよろしい、ところで一輝』と伯母は言った。『今日は朝から外に出ていたようだけれど、首尾はどうだったの?』


 えっと──。


 俺は端的に今日あったことを話した。


 (つかさ)くんの自宅に赴き、自分の過去を告白したこと。


 そして、佰くんが失踪した原因であろう、水難事故について絵本さんと協力して通報者を特定し、警察に事件が起きたときの様子を供述してきてほしいと頼んだこと。


『もうそこまで……。やっぱり一輝と千蔭ちゃんは良いコンビね。頼んで良かった。水難事故の件は、もう警察に任せなさい。もう貴方たちの管轄外だから』


 伯母は間を置いて続けた。


『よくやった、誇りに思う』


「あっ……うん」


 伯母に誉められるなんて、何年振りだろうか。前のは……覚えてないな。


『褒めたんだから、素直に喜びなさい』


「ありがとう」


 通話口から満足げな吐息が聞こえた。


『それで、今日あったこと繋がりで訊くけれど、佰くんと向き合ってみてどうだった?過去を告白したんでしょ?』


「正直、よく分からない。俺が過去を告白した後、すぐに佰くんとは、水難事故の件について話したから、あの子とは、これからもっと仲良くなりたいと思ってる」


 ふと、俺はあの言葉を思い出す──。


「ねぇ、万菜花さん。俺、今日佰くんに同じこと言ったんだ。ずっと前に万菜花さんから言われた言葉」


『……何て言ったの?』伯母は優しく訊いてきた。


「自分を責めることなんてない。悪いのは犯人なんだから、佰くんが気に病むことじゃないって。何かうまく言えないけど言ったとき、俺、心が軽くなったような気がして」


『……そう』伯母は鼻を啜った。『自分でそう言葉に出して言えるなら、もう心配なさそうね。今度はちゃんとひとりでお墓参りに行ってきなさい』

 

「はい」


 完全に過去を吹っ切ったわけではない、俺は過去を背負って前を向こうと決めた。


  17


 車窓は、俺が住んでいるS町の景色を映し出していた。


 景色にどこか馴染みを覚えるのも、俺がこの町に溶け込んでいるということなのだろう。


 水難事故の件はその後、警察が動き、上級生たちが事情聴取で出頭した。そして少年法ではあるが刑に処されたらしい。


 あのときの佰くんの安堵した表情が印象的だった。


 

 電車がホームに停車しドアが開くと、乗客が次々と降りていく。


 俺は向かいのシートで寝ている彼女に声を掛ける。


「絵本さん、もう到着しましたよ。起きてください」


「あと5分寝かせて……」


「ちょっと! 5分経ったら電車出ちゃいますって」俺は彼女の体を揺すった。


「分かったから。起きるから」絵本さんは目を擦りながら言った。「うーん、まだ慣れない」


 何とか起こして俺と絵本さんは電車を降りる。


 


 彼女は口をへの字にして歩き出す──カツカツとヒールの足音を立てながら。



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