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探偵の白猫は推理を語らない  作者: aoi
絵本千蔭編
18/45

永田警部補の苦悩


 8 永田兆治郎 捜査一課 警部補


 警察署に戻ると、係長は眉間に皺を寄せながら、書類にペンを走らせていた。


「ただいま帰りました」永田は言った。


「ご苦労」係長は視線を落としたまま訊いた。「それで、大槻とはどんな話をした?」


「絵本千沙都の話をしました」


 係長はデスクの上にある無数の書類から、1枚を取り出した。


「この件は病死として処理したはずだが?それに、なぜ大槻が絵本千沙都のことを知っている?」係長はペンを置き、永田を真っ直ぐに見据えた。


「わたしは絵本千沙都が何者かに殺害されたと考えています」永田は落ち着いた口調で答えた。「大槻が彼女を知っていたことについては、今裏を取っているところです」


「情報を整理させてくれ。なぜ殺人だと思った?」


「アパートの管理人に来てもらって、被害者の部屋を調べたところ、窓ガラスや壁紙に結露の痕がありました。掃除が行き届いている部屋で結露が起きるのはおかしいと思ったんです」


「うん、それで?」


「調べている最中にエアコンをつけたところ、冷房の設定温度が18度になっていました。絵本千沙都が亡くなった日、外の気温は30度を超えていました。火照った体の彼女が部屋に入れば急激な温度の変化に身体が耐えられず、心不全を起こす可能性があります。設定温度の18度はあまりにも低すぎます。誰かが故意に温度を設定したのなら、殺人です」


「うーん。鍵は内側から閉まっていた……と」係長は唸りながら再び書類に視線を落とし読んだ後、永田に戻した。「永田の推理が正しければ、同居していた娘が怪しいな。彼女なら合鍵も持っていただろうし」


「その件ですが、娘にアリバイがあります。先月から友人のところにいたみたいで、犯行自体、不可能です。その友人からも裏が取れました」


 数時間前、網代から得た情報を加工して話した。まさか娘の千蔭が猫になったなんて言えるわけがない。


「そうか」係長は整えられた顎髭を撫でた。「この書類によれば、被害者が所持していたバッグの中に部屋の鍵があった。そして内側から施錠されていた。部屋には争った形跡もなし、との報告もある。永田よ、これは事故だ」


「そうなんですが……」永田は口を結んだ。


「あと、永田。大槻が絵本千沙都をなぜ知っているのか裏を取っていると言っていたが、大槻はお前に何と言ったんだ?」


「彼女とは夫婦だと言ってました。裏を取ったところで、何の進展もありませんけど」永田は力なく答えた。夫婦だから何だというのだ。それが証明されたとしても、彼女が殺害された証拠にはならない。今になって佐久間に頼んだことを後悔した。


 

 その日の夜、永田のスマートフォンが着信を告げた。画面には網代一輝と表示されていた。応答をタップし耳に当てた。


「もしもし、突然すみません」


「大丈夫だ。どうした?」


 網代の声の後ろで風の音が聞こえる。屋外からかけてきているのか──。


「今から言う場所に来てくれませんか?N町の2丁目12番地の……」


 永田は眉間に皺を寄せ、彼の言葉を遮った。「そこってもしかして絵本千沙都が亡くなった……」


 殺害されたのではなく、亡くなったと言い換えている自分に力不足を感じた。


「そうです。今から来れますか?」


「ああ」永田は腕時計に視線を落とした。「今、署にいるからそんなにかからない。すぐに向かう」と言って席を立ち、階段を駆け下りた。


「ありがとうございます。絵本さんが話したいことがあるそうで」


「絵本さんって、千蔭さん?」


 慌てていたので、初歩的な質問をしてしまった。永田は車に乗り込みエンジンをかけた。


「そうです。絵本さんのお母さんを殺した犯人が分かったそうです」


 永田は思わず、アクセルを踏もうとした足を止めた。


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