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人は私を「悪役令嬢」と呼びますが、私よりよほど適任がいましてよ? 『悪役聖女』――貴女のことです。

作者: 久遠れん

 私の人生は、人から罵られ続ける人生だった。


 困っている人に手を差し伸べれば「これ以上何を奪う気だ!」と叫ばれる。


 迷っている人を道案内しようとすれば「お金はありません!」と怯えられる。


 落とし物を拾って届ければ「盗んだのね!」と蔑まれる。


 どうしてやることなすこと裏目に出るのか、私自身にもわからない。


 私の唯一の理解者は、幼い頃からの婚約者のアンドレア様だけ。


 彼だけは人から避けられ傷つく私に寄り添って「フランチェスカは優しいよ」と頭を撫でてくれる。


 そんな生活を、ずっとしてきた。


 それは貴族学院に入ってからも変わらない。


 クラスメイトたちには遠巻きにされ、ひそひそと噂話だけが広まっていく。


 曰く、私は人のものを奪って生活している。


 私が身に着けているアクセサリーはどこかの令嬢から盗ったもの。


 私が使っている教科書も、どこぞの令嬢から取り上げたもの。


(そんなはずがないのに)


 ため息は内心で堪える。


 見えるようにため息を吐けば、さらにひそひそと話されてしまうから。


(でも、いつかきっとわかってもらえる)


 前向きに頑張っていれば、きっと誤解は解ける。


 昔、アンドレア様がそう励ましてくれた。その言葉をずっと心の支えにしているから。


 今日もまた、遠巻きにされる教室で、私は真っすぐに前を向いた。


 視線があった生徒たちがさっと避けていくが、一々傷ついていても仕方ないと思いながら。




▽▲▽▲▽




 聖女様が現れたらしい。


 アオイという名前の平民の方。平民だけれど、聖女だから貴族学院に転院してくるのだと聞いた。


 この国に聖女様が現れるのは数百年ぶりだ。


 人々は熱狂しているし、クラスメイトも嬉しそうにしている。私もそわそわしていた。


 聖女様なら、きっと私とも仲良くしてくれる。そう希望を抱いていていた。


「初めまして! アオイといいます。仲良くしてもらえたら嬉しいです!」


 同じクラスに転院してきたアオイ様ははきはきとした声音でそう口にした。


 教師がアオイ様の紹介を終えて、席を迷っている。


「空いているのは……フランチェスカの隣か……」


 教師が困ったように眉を寄せた。私は教師からも避けられている。


 私の隣が空席なのも、クラスメイトが嫌がるからだ。


 視線を伏せた私の前で、アオイ様がぱちりと瞬きをした。


「なにか問題があるんですか?」

「あ~、フランチェスカは人のものを盗る悪癖があってな……」

「先生! フランチェスカ様の隣は可哀そうです!」

「私が変わります!!」


(盗ったりしないのに)


 アオイ様の疑問に答える教師も、それに呼応して口を開くクラスメイトも。みんな私に冷たい。


 私のことを蔑んでいる。


 私は今までの人生で一度も人の持ち物を奪ったことはない。


 今度こそ隠せずため息を吐きだした私に、前の席の生徒がびくりと肩を揺らす。


 そんな過剰反応をしなくても、別になにもしないのに。


「大丈夫です! あたし聖女ですから! 大抵のことは平気です!」


 アオイ様の言葉に私は視線を上げた。


 アオイ様はにこにこと笑っているが、その言葉に潜む棘に気づかないはずもない。


(アオイ様も、そっち側なんだ)


 結局、私は蔑まれる側でしかない。虚しかった。


 少しの期待が打ち砕かれて、泣きそうだった。


「そうか。聖女である貴女がそういうのであれば……フランチェスカの隣に」


 教師の言葉に足取りも軽やかにアオイ様がこちらに歩み寄ってくる。


 その姿を視線で追いかける私の前で、隣の席に着いたアオイ様はにこりと笑った。


「よろしくね! ……あたしのものは、盗らないでね」


 明るく言われた言葉の後に続いたセリフに、私は苦笑を浮かべた。


 どう反応していいのかわからなかったから。


 アオイ様はにこにこと笑っている。着席したアオイ様が小声でぼやく。


「盗られたら倍返しするから、そのつもりでいて」


 他の生徒には聞こえないように言われた言葉に、びっくりした。


 聖女様が口に出すような言葉に思えなかったから。


 目を見開く私に、アオイ様はにこりと笑う。


 その笑みには隠しようのない軽蔑の眼差しが含まれていた。




▽▲▽▲▽




「フランチェスカのクラスに聖女が転院してきたんだろう? どんな方なんだ?」


 昼食のランチを中庭で婚約者のアンドレア様と一緒に食べていた私は、その問いかけの言葉に視線を伏せた。


「あまり……好きな方ではないかもしれません」

「そうか」

「はい」


 サンドウィッチを口に運んでいた手を降ろして、ため息を吐く。


 アオイ様は休憩時間のたびにクラスメイトに囲まれて楽しそうにしていらっしゃるけれど、私のことはいないものとして扱っていた。


 最初の教師の紹介の仕方が悪いのだとは思うけれど、聖女様ならば人の言葉に左右されず、私を見て判断してほしかったとも思う。


 私が聖女という存在に高望みをしすぎているのだろうか。


「大丈夫だ、フランチェスカ。私以外にも、いずれ君の心の美しさをわかってくれる人が現れる」

「……はい」


 アンドレア様は公爵の家柄だ。


 私は伯爵家だったけれど、幼い頃に開かれたパーティーでアンドレア様が「フランチェスカに一目ぼれした」と結ばれた婚約だ。


 言葉の通り、アンドレア様は婚約してからいままでずっと誤解されがちな私を支え続けてくれた。


 今まで私が腐らず折れず前を向けたのは彼の励ましの言葉があったからだ。


 今日も優しく励まされて、私は少しだけ気持ちが上向いた。


 食べかけのサンドウィッチに再び口をつけた私は気づいていなかった。


 私たちを見つめる棘のある視線があったことに。






 アオイ様が転院してきて一週間。変な噂が広まっていた。


「やだ、フランチェスカ様よ」

「また人のものを盗ったらしいわ」

「今度は聖女のアオイ様の持ち物に手を出したとか」


 私がアオイ様に危害をなしている、という噂がまことしやかにささやかれ始めたのだ。


 挙句、私のことを「悪役令嬢」などと呼ぶ人たちまで出始めた。


 聖女であるアオイ様に害をなしているから「悪役」令嬢だというのだ。


(席が隣なだけでなにもしていないのに)


 でも、こういう根も葉もない噂が広まるのは初めてではない。


 静観していれば、そのうち噂は消えると私は信じている。


 こそこそと聞こえるように言われる噂話を無視して、私は真っすぐに廊下を歩き前を向いた。


 教室に着いてドアを開くと、私が姿を見せた瞬間、歓談していた教室が静まり返る。


(ここまで露骨なのは、初めてかもしれないわね)


 アオイ様を取り囲んで盛り上がっていたのだろう。


 女子生徒も男子生徒も私を一瞥すると、すぐにまた歓談に戻る。


 私の存在をまるで見えないかのように扱われる。


 気にしていても仕方ないとわかっていても、ここまであからさまだと少し傷つく。


 けれど、表情には出さずに自身の机に戻った私は、隣でクラスメイトに囲まれて楽しげに笑っているアオイ様をちらりとみた。


(アオイ様はいつも楽しそう。人に囲まれているから、当然なのかな)


 でも、この一週間で私はアオイ様の行動に違和感を覚えている。


 アオイ様はクラスメイトの前ではいい顔をしているけれど、私にはとても冷たいから。


 私のことを「蔑んでいい玩具」だと思っている節がある。


(……心が、折れそう)


 私は真面目に生きているのに蔑まれ続けて。


 アオイ様はただそこにいるだけで賞賛される。


 私たちの違いはなんだろう。ふと、そう思った。


(アオイ様を、観察してみようかしら)


 名案だと思った。


 アオイ様の動向を追いかければ、私の今後の立ち振る舞いの参考になるのでは、と思ったのだ。


 その日から、私は注意深くアオイ様の行動を追いかけるようになった。


 もちろん、表立ってやればまたいらぬ噂が流れるから、見つからないようにこっそりと。






 それから一週間、私はアオイ様を観察し続けた。


 アオイ様は、なんというか、悪い意味で驚くべき人だった。


 まず、婚約者がいる男子生徒に言い寄っているのを見かけた。


 男子生徒はやんわりと「私には婚約者がいるので」と断っていたけれど、アオイ様は「でもあたし聖女だから」と意味の分からない言葉で押し通そうとしていた。


 次に、女子生徒に意地悪をして楽しんでいた。


 私にそうするように、ありもしない噂をそれらしく流しているのを目撃した。


 私でさえ、嘘だとわかるような噂をアオイ様の取り巻きの人たちはどんどん広げて、対象の女子生徒は不登校になっていると聞いた。


 彼女はアオイ様が言い寄った男子生徒の婚約者だったから、因果関係など火を見るより明らかだ。


 最後に、休みの日にお忍びで出かけた城下町で意図せずアオイ様の姿を見た。


 彼女は元々平民出身なのに、貧しい人に「聖女様、どうかお恵みを」と縋られて「汚いわね」と蹴りつけていた。


 これが、私の中でトドメとなった。


 アオイ様は聖女様などではない。


 私の中に確信が広がって、このことを私はアンドレア様に共有した。


 アンドレア様はしばらく考え込んで「私のほうでも探ってみよう」と請け負ってくださった。


 さらに二週間が経過して、アンドレア様は険しい面持ちで私に告げた。


「たしかにアオイ様は聖女ではないだろう。彼女が聖女として認められた未来を見通す力のカラクリはわからないが、聖女としての自覚に欠ける振る舞いがあまりに多い」


 と断言した。


 アンドレア様もまたアオイ様に酷く言い寄られたらしい。


 曰く「フランチェスカ様なんかより、絶対あたしのほうがアンドレア様に釣り合うと思います!」などと口にしたとか。


 私にベタ惚れのアンドレア様はそれはそれは怒っていた。


 私たちは話し合って、そして、アオイ様の断罪を決意する。


 その頃には私の「悪役令嬢」という呼び名は看過できないほどに広まっていて、私はクラスだけではなく学院の生徒全員から遠巻きにされていた。


 そのことにもアンドレア様は酷く憤ってくださった。


「噂の元はアオイ様だろう。彼女はフランチェスカのなにをみてそう判断したんだ!」


 怒ってくれる人がいるのは、心の救いとなった。


 私だって言われっぱなしは性に合わない。


 元々、私の気性は結構荒いのだ。


 ただ、荒い気性のままだと、誤解されがちな性格と合わさってろくなことにならないから、静かに振る舞っているだけ。


 私とアンドレア様は、アオイ様の断罪を来週開かれる学院のパーティーで行うことに決めた。


 それまでに、協力してくれる生徒を集めようと話し合って、婚約者がアオイ様の取り巻きになっていて泣き寝入りをしている女子生徒や、アオイ様に言い寄ってこっぴどく振られた男子生徒などを中心に声をかけていった。


 そして、その日はやってくる。




▽▲▽▲▽




 煌びやかな空気が学院の広間に広がっている。


 私はアンドレア様にエスコートされて入場したパーティー会場でアンドレア様と共に壁際で周囲の様子を伺っていた。


 教師たちはアオイ様にうつつを抜かしていてあてにならない。けれど、アンドレア様が手配した警備の騎士たちはこちらの味方だ。


 ことを起こせば、彼らが私たちを守ってくれる。


「フランチェスカ、大丈夫かい?」

「はい。将来の公爵夫人として、害ある方は排除しなければ」


 ひそやかに交わす会話で、私はずっと隠し続けてきた生来の気の強さを発揮していた。


 にこりと笑った私に、アンドレア様が笑み崩れる。本当に彼は私に甘い。


「一曲どうかな?」

「喜んで」


 差し出された手を取って、私たちは軽やかな足取りでダンスを踊りに中央に出た。


 幼い頃から叩き込まれているステップを踏んで、危なげなくダンスを踊る。


 密着した身体は、お互いの熱を伝えてくるようでドキドキする。


 一曲を踊り終わって、私たちがまた壁際に捌けようとしたとき、甘ったるくて甲高い声がアンドレア様を呼び止めた。


「アンドレア様~、あたしとも踊ってください!」


 私の存在をまるっと無視してアオイ様が華美なドレスを身にまとって姿を現した。


 貴族の流行など全て無視した、ひたすらに宝石を飾り付けた派手なドレスに私は少しだけ眉を寄せる。


「遠慮する」

「ええー! どうしてですか?!」


 きっぱりと断ったアンドレア様に、アオイ様が頬を膨らませる。


 その姿はアオイ様の本性を知らなければ可愛らしいと評せたかもしれないが、私たちには響かない。


「フランチェスカ様と踊るより、きっと楽しいです!」


 自信満々に言い切ったアオイ様に、アンドレア様が道端のゴミを見るより酷い眼差し向けた。


 絶対零度の、私には決して向けられることのない冷たい瞳。


「……君の踊りはあまりに無様だ。一緒に踊りたくはない」

「はっ?」


 アンドレア様の直截な言葉に、アオイ様が間の抜けた声を上げる。


 こんな風に断られるとは予想もしていなかったのだろう。


 私は可笑しくて笑いだしたいのを必死にこらえながら、アンドレア様を嗜める。


「アンドレア様、そのくらいに。少し前までアオイ様は平民だったのです。ダンスの教養がないのは仕方ありません」

「っ!!」


 私の庇っているようで庇っていない言葉に、アオイ様の頬に朱が上る。


 私はいい機会だから、と一歩前に進み出た。


「アオイ様、貴方は聖女様でいらっしゃいますね?」

「そうだけど」


 私の確認に不貞腐れたようにアオイ様が答える。私は笑みを深くする。


 きっと、学院ではみせたことのない、気の強い笑み。


 ずっと隠し続けた牙を剥く。


「では、どうして婚約者のいる男子生徒に言い寄ったり、ありもしない女子生徒の噂を流して休学に追い込んだりされるのですか? 果てに困窮する貧民を足蹴にしているところも目撃しましたが」


 私の言葉に、私たちを遠巻きに取り囲んで事の推移を見守っていた生徒たちがざわりと騒ぐ。


「そんなことはしてないわ! 貴女の妄想よ!」

「そうですか? では、あれを持ってきていただきましょう」


 私がすっと手を上げると、待機していた騎士の一人が恭しく一つの魔法道具を持ってきた。


 渡されたそれを手にして、怪訝そうにしているアオイ様の前でスイッチを押す。


『ロベルト様ぁ、あんな女を捨ててあたしといいことしましょうよぉ』

『あの女、婚約者だからって目障りだわ。そうだ! ありもしない噂を流して蹴落としてしまおう!』

『貧民が触らないで! 汚らわしい!! あっちにいって!!』


 再生されるのはアオイ様の声。どれも汚い彼女の本性だ。


「?!」


 驚愕に目を見開いたアオイ様の前で、私は優雅に笑う。


 すでにこの場の空気は私が支配している。


 広間に集まっている生徒も教師も私たちに釘付けだ。


「これはアンドレア様のご実家、アルジェント公爵家直下の魔法研究所でつい最近開発された魔法具です。対象の声を録音することができます」

「そんなの聞いたことない! でたらめよ!!」

「まだ陛下に献上したばかりの品だが、効果は国により認められている」


 喚きだしたアオイ様の言葉を封じるようにアンドレア様が口を開く。


 歯を食いしばったアオイ様の前で、私は笑う。


 優雅に、上から目線で、抑えつけるように。


「貴女は私に対して『悪役令嬢』という噂話を流しましたが、私は思うのです。貴女の方がよほどお似合いだと。これからは『悪役聖女』そのように名乗られては?」

「うるさいうるさいうるさい! 悪役令嬢のくせに! アンタなんて」

「私が、なんでしょうか?」


 威圧的に笑う。私のかつてない笑みにアオイ様が息を飲んだ。


「貴女があくまで聖女だと言い張るのでしたら、いまから証明をしていただきます」

「証明?」

「ええ。あれをもってきてください」


 再び騎士を呼びつける。合図を受けて騎士が台車に乗せて持ってきたソレは異臭を放っていた。


 生徒たちが怯えた様子でさらに遠ざかる。


 中身を隠している布を騎士がとると、女子生徒を中心に悲鳴が上がった。


 そこには、忌まわしき魔物の亡骸があったからだ。


「アオイ様、貴女は自身を聖女だと仰る。ならば、この魔物が放つ瘴気を浄化してみてください」


 これは、一つの賭けだった。


 アオイ様に聖女としての力はない、そう判断する材料が集まり切らなかったから。


 聖女らしくない言動の証拠は山ほど集まったけれど、未来を予知するカラクリは最後まで分からなかった。


 けれど、貧民すら「汚れている」と遠ざける彼女が、魔物の浄化を行えるのか、私たちは出来ないと判断した。


 案の定、アオイ様は目の前に出された魔物を前に立ちすくんでいる。


 怯えた様子はないが、なにもできず棒立ちになっている姿は、到底聖女とは呼べない。


「ほら、やっぱりできない。貴女は聖女などではないのです」


 勝ちを確信して、私は今までの人生で一番綺麗に笑った。




▽▲▽▲▽




 あの後、アオイ様は偽の聖女として王宮に突き出されたと聞く。


 私とアンドレア様も事情を聞かれたので、素直に全てを話して、アオイ様の言動を記憶した魔法具を国に提出した。


 パーティーの最中に騒ぎを起こしたことは学院長から苦言を呈されたけれど、いままでの言動から水面下で話を進めるのが困難だと判断したと伝えたら苦い顔で黙り込んだ。


 アオイ様は国を謀った偽の聖女として処刑が決まったと聞いた。


 私はすでに興味を失っていたから、そうなのですね、と適当に聞き流して今日も学院で過ごしている。


「フランチェスカ様、これ、差し入れです!」

「あら、ありがとう」


 顔を真っ赤にして私にお菓子が入っているだろう小箱を差し出すのは、最近入学した一年生だ。


 学院で被っていた猫を脱いだ私は、なぜかいまは「フランチェスカ様ファンクラブ」というものが出来上がっていた。


 なんでも、聖女を名乗る不届きものを前に大立ち回りをしたのが人気なのだとか。


 下級生を中心にファンクラブは相当な人数が所属していると、アンドレア様が少し面白くなさそうにしながらも教えてくださった。


 アンドレア様との仲もいい感じだ。


 先の騒動でいっそう仲を深めた私たちは、おしどり夫婦として学院でも認められている。


 私を遠巻きにしていたクラスメイト達の態度も、少しずつ変わっていた。


「フランチェスカ、ランチに行こう」

「はい。アンドレア様」


 最近ではアンドレア様は周囲への牽制なのか、私のクラスまでやってくるようになった。


 アンドレア様曰く「最近のフランチェスカに惹かれる人が多いから」だそう。


「もうちょっと猫を被っていてくれても良かったんだけどな」

「そうですか? 私は毎日がなんだかちょっとだけ楽しくなりました」

「うーん、フランチェスカの魅力を知っているのは私だけでよかったのに」


 拗ねた子供のようなことを口にするアンドレア様が愛おしい。


 にこりと笑った私に、アンドレア様は私の手を取って、微笑み返してくれる。


「まあ、学院を卒業すればフランチェスカは私だけのものだ。いまくらいは、少しだけ他に魅力を伝えてもいいだろう」

「心が広いのですね」

「いや、狭いよ。だってフランチェスカが学院を卒業したら、公爵夫人として閉じ込める気満々だからね!」


 その瞳に宿る焦げ付くような執着が心地いい。


 私はにこりと笑って「もちろんです、旦那様」と口にした。


 途端、真っ赤になる初心なアンドレア様にころころと笑うと、からかわれたと理解したらしいアンドレア様が唇を尖らせる。


 その頬にキスをして、機嫌をとるのも忘れない。


 偽の聖女のおかげで、被っていた猫が取れて、学院では過ごしやすくなったし、なんだか色々と吹っ切れた。


 誤解されがちなフランチェスカは、誤解されても別にいい、に進化したのだ。


「アンドレア様」

「なんだい、フランチェスカ」

「前の私のほうが好きでしたか?」


 気が弱いようにみせている、誤解されてしょんぼりと肩を落とす大人しい令嬢。


 私の問いかけに、アンドレア様は間髪入れずに答えてくれた。


「どちらも好きだよ、私のフランチェスカ」


 ああ、やっぱり。


 アンドレア様の愛だけは変わらない。私はそれを確認して、笑み崩れた。





読んでいただき、ありがとうございます!


『人は私を「悪役令嬢」と呼びますが、私よりよほど適任がいましてよ? 『悪役聖女』――貴女のことです。』のほうは楽しんでいただけたでしょうか?


面白い! 続きが読みたい!! と思っていただけた方は、ぜひとも


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聖女が来る前の元々の誤解と悪評は独り占めしたい婚約者の仕業なのかと戦々恐々としながら読み進めていきましたが、そんな裏はない…のかな? じゃあなんでだろう?有望な婚約者がいる嫉妬から悪評を流されて、悪評…
結局昔から人に嫌われてる理由って何かなってなりました。落し物拾ったり道案内しただけで罵倒されるって見た目が化け物とか……?って思ったけどそうでもないみたいだし。
次期公爵夫人の主人公があらゆる人間から嫌われてるというか舐められてる理由が分かりませんね。 聖女が転生者で未来予知がゲーム知識だとすると主人公を悪役令嬢とするシナリオの強制力でしょうか? そうするとア…
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