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目指せ、強欲の悪女! ④

「俺は悪魔だからわかんねえけどさ、親の愛情ってのは、人間からしたらキラキラピカピカしてるんだろ、だから合格って感じ?」

 悪魔は合格の理由を、そう語った。どうやら彼の判断基準は人間のそれとは少し違うらしい。

「それにさ、おねだりの仕方はわかったんじゃない? これからドレスだの宝石だのをじゃんじゃんおねだりしちゃいなよ」

 そう言ってカリプソがエリスを連れてきたのは、彼女のためのドレスが置かれた衣装部屋だった。

 ちなみに本日のカリプソはメイド服を着込んでいるが、なんらかの悪魔の術が効いているらしく、すれ違う人は不思議そうな顔すらしない。

 衣装室にエリスを引き摺り込んだカリプソは、そこに並ぶドレスをゴソゴソと漁りながら悪態をついた。

「だいたいさあ、着るものがなさすぎるんだよ」

 そうぼやくカリプソに、エリスはムッと唇を尖らせた。

「着るものなら、こんなにあるだろう」

 さすがは公爵家の衣装室、部屋にはぎっしりとドレスが下がっているのだが、そのどれもがカリプソのお眼鏡には敵わなかったようである。

「ただ着るだけならそうだろうけどさ、なんていうの、悪女っぽい衣装が一つもないじゃん?」

 確かにエリスの持つドレスは、12歳の少女に似合いのペールグリーンや淡黄色などの、淡くて儚げな色のものばかりだ。

 デザインもチュールやレースをふんだんに使ってふわふわした印象に仕上げてあり、確かに“悪女”っぽくはない。

「例えていうなら“春の妖精”のドレスって感じ?」

「詩人だな、悪魔なのに」

「やだなあ、褒めても何にも出ないよー」

 クネクネと身を捩って照れる軽薄な悪魔を、エリスはスルーした。

「つまり、悪女が着るようなドレスを父にねだればいいのだな?」

「そういうこと」

 エリスは早速、父とのお茶の時間にドレスをねだった。

「お父様、私、新しいドレスが欲しいんですの」

 悪女を意識しすぎてツンとした口調になってしまったのはご愛嬌。

 父アルフレッドは、エリスのおねだりにすぐに応えてくれた。

「いいとも、どんなドレスが欲しいんだい?」

「真っ赤なドレスでね、このへんにびらびらーっとドレープがあって、この辺には大きなレース飾りがついててね、肩はこのくらい出ていて、それに似合う宝石も欲しいわ」

 アルフレッドが、垂れた目尻をさらに下げて苦笑いする。

「それは、ちょっと大人っぽすぎるんじゃないかな、君は夜会にも出られないような年なんだし」

 しかし、わがままを覚えたエリスは引かない。

「でも、どうしても欲しいんだもの! ああそうだ、靴も揃えなくっちゃね!」

 娘に甘いアルフレッドは、早々に白旗を上げた。

「ちょうど来シーズンのドレスを揃えようと思っていたところだ、自分で好きなデザインを選ぶといい」

「ありがとう、お父様!」

 アルフレッドは、浮かれた声を上げる娘に釘を刺すことを忘れない。

「ただし、ドレスにはTPOがあるということを忘れないように。相談相手として家政婦長をつけよう。よく相談して決めなさい」

 早速ドレス商が屋敷に呼ばれた。カリプソはしれっと家政婦長のお仕着せを着てエリスのそばに付き従って……

「お前はなぜ、赤いドレスばかりを選ぶんだ!」

「お言葉が乱れておりましてよ、お嬢様」

「くっ、ちょっとこっちに来い、悪魔!」

 エリスはドレス商に向かっては高貴な少女を装って「おほほ、ちょっとお花をつみに」などと笑いかけて、カリプソを廊下へと連れ出した。

「どういうつもりだ、普段着のドレスも赤、茶会用のドレスも赤、姉妹には冠婚葬祭のドレスも赤など!」

 エリスに怒鳴られたカリプソは、いじけたように唇を尖らせる。

「えー、だってあんた、赤が似合うんだもん」

「それは嫌味か?」

「嫌味なんかじゃないよ、あの処刑台の上で、真っ赤な血に飾られたあんたは、サイコーに綺麗だった」

 カリプソがうっとりと目を細めるから、エリスは気味が悪くなってブルリと身を震わせた。

「さすが悪魔、趣味が悪い」

「ああ、思い出すだけでゾクゾクするぜ、血の海から拾い上げられたあんたは、それでも両の目をカッピラいて、凛々しかった……」

「やめろ、思い出しただけで胸糞悪い」

「あ、そっかー、君にとっては“死の記憶”だもんねー、ねえねえ、死ぬってどんな気分だった?」

「本当に趣味が悪いな、最悪だ」

 たとえ罵られても、悪魔であるカリプソには何も気にならない。ごくマイペースに、彼はきゅっと小首を傾げて、思ったままの疑問をエリスに投げた。

「あれ? そういえばさ、君って冤罪なんだよね? なのになんで処刑されることになったの?」

「聞きたいのか」

「聞きたいな〜、俺って悪魔だからさあ、そういう胸糞悪そうな話って大好きなんだよね」

「私としては、思い出すだけで不快なのだがな」

「ん〜、じゃあこうしよう、それを話してくれたらさあ、ドレス選ぶのに口を出さないから、ピンクでも水色でも何色でも好きなの選んでいいよ〜ってのは、どう?」

「本当に口を出さないんだな?」

「出さない! 悪魔は嘘つきだけど、言葉でした約束は絶対に守るもんなんだよ」

 エリスは心のうちで「長い“お花摘み”になりそうだ」と思った。だがそれで悪魔が黙るのならばやぶさかではないな、とも思った。

 貴族としての常識をきちんとわきまえているエリスには、ところ構わず赤いドレスを着て歩く勇気はなかったのだから。

「ならば話してやろう、あれは王都北部で王属軍と先頭になった時のことだった……」

 こうしてエリスの少し長い話は始まった。


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