山本伊里也「薬の扱いには要注意!」
菜乃葉が伊里也にデレデレする話です!
俺は菜乃葉に呼び出されて、学園の調合室に来た。
誰に使うのか知らないけど、自白剤を一緒に作ってほしいとのことだ。
本当に誰に使うのやら。
俺は少し不安を感じながら調合室の扉を開けた。
中にいた菜乃葉は笑顔で俺の方を見た。
「伊里也!」
あ、可愛い。
今日も菜乃葉は可愛い。
いや、いつも可愛い。
俺は冷静を装った。
「自白剤の調合するんだっけ?」
「うん、実は本心を知りたい人がいてね」
菜乃葉は目を逸らした。
俺の脳内で男の可能性が生まれた。
……毒薬にすり替えてやろうかな。
「伊里也って薬草の成績高いでしょ?だから手伝って欲しいの」
「なるほど。毒薬にすり替えるのはあり?」
「……なし。怖いよ伊里也」
うーん、菜乃葉に怖がられるのは嫌だな。
じゃあ暗殺しよう。
「材料はあるのか?」
「あるよ。はい」
菜乃葉は大量の薬草を机に置いた。
あまりに大量すぎて三度見くらいしてしまった。
「菜乃葉……?この大量の薬草はどこから持ってきたんだ?」
俺達はこの世界の金をあまり持ってない。
薬草をこんなにたくさん買えるのは貴族くらいだ。
「えっとね、楓とか藤井くんとかオーリスとか……。あとアルバートとかかな?欲しいって言ったら譲ってくれたの。余ってたらしいよ」
「はぁぁあああ」
藤井はともかく、楓とアルバートは駄目だろ。
「え?え?」
菜乃葉は戸惑っている。
本当に変なところで鈍感なやつだな。
楓は明らかに菜乃葉に気があるだろう。
前世からよく懐いているし、明らかに菜乃葉を異性として見る目をしている。
アルバートもそうだ。
あいつは菜乃葉に一目惚れをしたと話しているのを聞いた。
殺しにかかろうかと思ったけど、伊吹が止めてきてそれは叶わなかった。
「菜乃葉、これからは誰にも欲しいものを言うな。俺と買いに行くぞ」
「何?束縛?」
冗談交じりに菜乃葉が言った。
俺は頷いた。
菜乃葉の顔は赤くなっていく。
「は、早く作るよ!」
照れているのを隠すように菜乃葉は言った。
俺はそんな菜乃葉を愛おしいと思いながら菜乃葉と薬の調合を始めた。
◇◆◇
「できた!」
「液体で良かったのか?」
「固形だと紅茶とかに混ぜれないでょ?」
毒入れるみたいになってるけど……。
まぁ、毒と同じか。
「それじゃあ、ちょっと混ぜてくるね!あっ、そこにあるのは媚薬だから絶対飲まないようにね!触れるだけで効果を発揮する優れ物だから触らないでね!」
んな危険なもんを蓋閉めずに置いておくなよ。
変なところで抜けてる菜乃葉さんであった。
「じゃ、行くね〜!」
「あ、おい走るな!」
転んだりしたらどうするんだ。
菜乃葉は机に足をぶつけて転んだ。
そして、宙に舞った自白剤、こぼれた媚薬。
それらがすべて菜乃葉にかかった。
おい、この媚薬やばい方のやつじゃないだろうな?
「菜乃葉……?」
菜乃葉は俯いている。
「大丈夫か……?」
「い……」
「い?」
「伊里也〜!大好き〜!!」
「ほぁああ!?」
菜乃葉が俺に勢いよく抱きついてきた。
俺はしりもちをついて床に座り込んだ。
俺はかなりテンパってる。
何だ何だ何だ何だ!?
いや、落ち着け落ち着け。
菜乃葉が浴びたのは自白剤と媚薬。
媚薬により俺に対する恋心が増幅してるとする。
そこに自白剤が加わって、自分の気持ちをあまり口に出さない菜乃葉から大量に出てきてるってことか?
「菜乃葉、落ち着け」
「落ち着いてるよ?私は伊里也が好きだからこうなってるんだよ」
「かわっ」
菜乃葉は俺の頬に頬ずりしながら愛を囁いている。
死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!
菜乃葉が俺を殺そうとしてる!
「なの……」
俺の頬に菜乃葉の唇が触れた。
俺は思い切り後ずさった。
頭に壁が直撃した。
「いっつ……」
菜乃葉が近づいてくる。
待て待て!
菜乃葉がこれ以上俺にデレるのは俺が死ぬ!
かと言って割と幸せだったり……。
いやいやいやいやいや!
大丈夫、俺は結婚するまで手を出さないと決めた!
第一、菜乃葉が照れながらデレるのがいいんだろうが!
そんな事を考えていると、菜乃葉が俺の側まで来ていたら。
それに気づかなかった俺は菜乃葉に床ドンされているような形になっていた。
「ほあぁぁぁぁぁあああ!!」
俺が叫び声を上げると、調合室の扉が開けられた。
助かった!
そこにいたのは由梨奈さんだった。
由梨奈さんは目を見開いた後に微笑んで扉を閉めた。
「……お邪魔しました」
「由梨奈さぁぁぁあああん!誤解です!助けてください!」
◇◆◇
「それでこうなったと……」
由梨奈さんに事情を説明し終わった俺は、安堵のため息をついた。
今、菜乃葉は由梨奈さんに甘えてる。
由梨奈さんは満更でもなさそうだ。
「この子がこんなに甘えることないし、独り占めすればよかったのに」
「無理ですよ。俺が死にます」
「そうね」
由梨奈さんは苦笑した。
さっきの状況を見ていたから言えるんだろう。
「でも、困ったわね。私この後用事があって行かないといけないの」
「えぇ!?困りますよ!」
「伊吹にバトンタッチ……」
「それは駄目」
あんなやつと菜乃葉を会わせられるか。
由梨奈さんはそれを理解してくれたらしい。
「あ、もう時間。ごめんね伊里也くん」
「仕方ないですよ……」
由梨奈さんは申し訳無さそうにしながら部屋を出て行った。
菜乃葉は扉の方をじっと見ている。
とりあえず連れて帰るか。
「菜乃葉、寮に戻ろう」
「や!」
「”や!”じゃない!」
「だって寮に戻ったら伊里也いなくなっちゃうもん」
かっっっっっわ!
寂しいからそういう事を言うんだろうな。
穴という穴から血が吹き出すところだったわ。
「じゃあ、一緒にいてやるから帰るぞ」
菜乃葉は渋々俺についてきた。
なんとか寮の菜乃葉の部屋に連れてこられた。
そしてまた始まった。
菜乃葉からの猛攻撃が。
「菜乃葉!落ち着け!」
「落ち着いてるよ」
「あのな、ベットに押し倒すのはアウトなんよ」
普通の菜乃葉なら「え〜?どんな想像してんの〜?いっやらし〜!」って罵ってくるからそんなに恥ずかしくなったりしない。
でも、照れることをせず、顔を少し赤らめる菜乃葉に見つめられたら終わりだ。
菜乃葉の顔がどんどん近づいてくる。
「菜乃葉、ファーストキスがこんなんでいいのか!!」
菜乃葉の顔が本当に近くまで来たところで、菜乃葉は気を失った。
「終わった……」
俺は地獄が終わった事に安心しながら、眠っている菜乃葉の髪に触れた。
「起きたら何も覚えてないとかやめろよ?お前が煽り散らかしたんだからな」
俺はそう言って部屋から出た。
その夜、おそらく目を覚ました菜乃葉がとんでもない悲鳴を寮中に響かせたのと、自白剤は俺に使うつもりだったと言っていたのはまた別のお話。