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ユアン・デイス・アスクレイン「裏切られた僕」

今回はちょっと残酷描写が含まれます。苦手な方はご遠慮ください。

ユアン・デイス・アスクレイン。

それが僕の名前だった。

姉は、ユリアン・シャール・アスクレインという名前だ。

僕達はユカール王国の伯爵家の子息と令嬢だった。

両親は早くに流行り病で死んだ。

ユリアンは幼いながらに国を脅かす竜を討伐した。

国王は姉に何でも欲しいものを言えと言った。

ユリアンは言った。

国がほしいと。

そうしてできたアスクレイン王国。

ユリアンの功績なのに、僕まで王にされた。


「ユアン、私達で一緒にこの国を守ろうね」


そんな約束をした。

僕らは二人で一緒にこの国を守るんだ。


「ユアン様はよくおできになる」


家庭教師が言った。

僕はユリアンよりも頭脳が優れていた。

だから、本当に王になるべきは僕だと誰もが言った。


「ユリアン様より点数が高いですわ」

「お手本のようなダンスでしたわ」


こうしてユリアンの笑顔は消えていった。

みんな国王には男がなるべきだと思っているんだろう。

たくさん褒められるのは好きだった。

でも……。


「正直、ユアン様の問題はレベルを下げないと高い点数は取れてないのよね」

「本当にどちらも全然ですわ。いいとことを見つけるのが大変よ」


空っぽだった。

僕はそんなことのために偽りの褒め言葉をもらっていたのか。


「ユアン?どうしたの?」


ユリアンが僕のところに来た。

ゆっくりと。

あいつらのせいでユリアンが傷つくなんてやだ。

僕が我慢すれば……。

僕は立ち上がった。


「ユリアン、これからはもっとたくさん仕事持ってきてよ。僕、いろんなことしたいんだ」

「……そう。じゃあ、全部の書類をあなたに持って行くように伝えておくわ。できそうな文だけ取って、私に回してね」

「分かった」


それからしばらく、ユリアンに半分くらい渡していた。

そして僕らは大人になった。

僕は婚約者と結婚し、男児もできた。

一人はちょっとした僕達の補佐をできるくらいまで成長した。

そしてもう一人子供ができた。

女の子だ。

僕は満ち足りた毎日を送った。

ユリアンに渡していた仕事もいつしか渡さなくなった。

それがユリアンのためだと思った。

国のことなんて気にせずに幸せになって欲しかった。

でも、それがユリアンを追い詰めた。


「ユリアン様がフレリア王国の王太子と恋仲になったと情報が……」


耳を疑った。

フレリア王国は敵国だ。

何度も戦争もしてる。

そんな国の王太子と恋仲に?

正気か?


「やはりあやつは反乱分子だったのですよ!今すぐにでも殺したほうが……」

「黙れ!……ユリアンは僕の姉だ。処分は僕が決める。今日は解散だ」


臣下がぞろぞろと部屋から出ていく。


「ユアン……」

「フェルナ……」


妃であるフェルナが最近生まれた長女を抱きながら、心配そうに僕を見てきた。

最近はずっと公務が大変でユリアンと話せていなかった。

間違いだよな?

だって、一緒に国を守ろうって……。


「あ……」


一緒にはできてなかったかもしれない。

でも、僕はユリアンが裏切るなんて思えない。

僕はユリアンを信じることにした。

そんな僕の淡い期待を壊すようにその時は来た。

赤子の泣き声で僕は目を覚ました。


「フェルナ……?どうしたんだ……?」


なぜか立ち尽くすフェルナ。

僕はベッドから降りて、フェルナに近づいた。


「ユ……アン……。に……。逃げて……」


そう言ってフェルナは倒れた。

フェルナと向き合うように立っていたのは。


「ユリ……アン……?」


その手にはナイフがあった。

そのナイフから滴るのは、フェルナの血だ。

フェルナは近くにいた1歳になる娘を抱いて静かに息を引き取った。

娘はまだ生きている。

ユリアンは娘の側に行き、膝をついた。

泣き喚く娘にとどめを刺すように心臓にナイフを刺した。

僕は動けなかった。


「お……。おい……。フェルナ!フェルナ!しっかりしろ!」


フェルナは何も言わない。


「フェルナ!」


口から垂れる血は床に溜まっていく。


「おい!しっかりしろ!」


僕の服にも滲んでいく血。


「ユリアン!何のつもりだ!?」

「ユアン、お願い。死んで」


ユリアンは僕の質問に答えるでもなく、辛そうに言った。

どうしてだ。

ユリアンよりも僕の方が辛いのに。


「どうして……。国を守るんじゃなかったのか!?」

「うるさい!」


ユリアンは叫ぶように言った。

そして僕に襲いかかった。

まずい。

すぐに魔法構成は組めない。

なら……!


――キィン。


僕は護身用の短剣を急いで取り出した。


「くっ……」


悔しそうな声を出したユリアンの力は、流石と言ってもいいほど強い。

でも、僕も負けてない。

僕は炎魔法+風魔法の混合魔法をユリアンにぶつけた。

殺す気で。

しかし、効いてなかった。

僕はこのままじゃ殺されると思い、すぐに部屋から逃げた。


「衛兵!衛兵!」


誰もいない。

王宮には深夜の見回りももちろんいる。

それすらいない。

とにかく走った。

ユリアンに捕まらないように。

走り回った。


「また明日」


そう言ってユリアンは消えた。


◇◆◇


僕は部屋でビクビクしながら膝を抱えていた。

そんな僕の前に転移してきた同い年くらいの男。

フレリア王国の王太子。

ディートリヒ・エルーザ・フレリアだ。

彼は僕に言った。


「あの姉に復習したいだろう?ならば我が国に伝わる”賢者の命乞い”を行え。さすれば願いが一つ叶うだろう」

「どういう風の吹き回しだ?お前がユリアンを仕向けてきたのではないのか?」

「俺が何でお前らを殺せと命令するんだ?メリットがないだろう?お前らが死ねば、この国は元あった国の支配下に戻るだけだし、こちらにメリットはない。ま、やるかやらないかはお前次第だ」


そう言って消えた。

僕は意を決した。


「叔父上と、留学中である隣国の王太子、大神官、ミーナ、騎士団長、愛子、賢者、牢にいる暗殺者、宮廷闇魔法師、そして、君もこの部屋に来てくれ」


メイドは俺を不思議そうに首を傾げた。

そうして、彼女は僕の言葉通り、全員を早急に僕の部屋に集めた。


「叔父上からお話があります」


叔父上は力強く頷いた。

僕は部屋から叔父上と一緒に出て、部屋に結界を張った。


「随分と城の雰囲気が暗くなったな。ユリアンがいなくなったからか?」

「……」

「フェルナはどうした?お前にいつもついて回っていたのに……」

「叔父上」


僕は叔父上に話しかけた。

魔法陣がでかでかと描いてある広間に。

叔父上は息を呑んだ。

僕は剣を鞘から抜いた。


「ユアン?」


僕は叔父上に剣先を向けた。

そして、叔父上の腹部を刺した。


「グフッ……」


叔父上の口から血が出た。

その血は僕にはかからなかった。


「ユアン……。何のつもりだ……?」

「叔父上、国のためです。諦めて死んでください」

「血迷ったか!これのどこが国のためなんだ!!」


僕はもう一度叔父上を刺した。

ごめんなさい、ごめんなさい。

他の人もそうやって殺した。

そして僕は魔王になりかけた。

復習をしたいと願ったら、魔物を操る力を手に入れた。

僕の息子や他の使用人は王城から逃げた。

僕は本当の一人になった。

そして僕の前に再び現れたディートリヒ。

彼は僕を殺した。


◇◆◇


目を覚ましたらそこは王城のベッドだった。

誰かが運んでくれたのだろうか。

僕は上半身を起こした。

窓の方に一つの影があることに気づいて、僕は窓を見た。

ユリアンがいた。

僕は近くにあったナイフを手に取り、ユリアンに刃先を向けた。

ユリアンは僕の剣の鞘で自分を守った。


「どの面下げて……!王妃と……!王妃と娘を返せ!」

「私が憎い?」

「……殺す!」

「王妃が生き返るわよ」


何を言い出すのかと思えば、王妃が生き返る?

そんな訳あるか。

死んだ人間は生き返らない。

もう、フェルナは帰ってこないんだ。


「……あれからアスクレイン王国は千年経ってるわ。千年経ってるなら、王妃を生き返らせる技術くらいはあるんじゃないかしら?」


その言葉を僕は真に受けまた人を殺した。

人を騙して。

汚いと思うよ。

もう僕はこうするしかないんだ。

国への愛情もなくなった。

だからイアンにあんな事を言った。


――誇り……?誇りなんてとっくの昔に捨てたよ!!裏切られたあの日に!あの瞬間に!ユリアンに愛していた王妃を殺された時に!


限界だったんだ。

そうして魔力暴走を起こした僕は、菜乃葉に夢の中で会った。

ずっと誰かに聞いて欲しかったことを聞いてくれた。

心が軽くなったんだ。

でも、僕のせいで菜乃葉の親友は死んだ。


「嫌だ嫌だ嫌だ!どうして!?何で!?まだ何も言えてないのに!まだごめんねって言えてないのに!どうして……?どうして私を置いていくの……?」


その言葉を聞いて、僕は王妃が死んだ日のことを思い出した。

分かるよ。

受け入れたくないよね。

僕は菜乃葉に歩み寄って、死者蘇生の本を渡した。

王妃に試そうと思ったけど、王妃の体はもうこの世にない。

だから無駄だったんだ。

菜乃葉は死者蘇生を行った。


◇◆◇


「琴葉!僕なら菜乃葉達の眠る時間を短くできる!千年は短くできる!」


僕はそう琴葉に申し出た。

幸せになってほしかった。

僕を幸せにしようとしてくれた菜乃葉達に。

後悔なんてしない。

これは僕がやりたくてやったことだ。

ねぇ、菜乃葉。

僕の人生をあげるから、幸せになってよ。

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