佐藤伊吹「菜乃葉との出会い」
菜乃葉と伊吹の出会いの話です!
「……うくん。佐藤くん」
俺は女子の声が聞こえて、目を開けた。
居眠りをしてしまっていたらしい。
俺は顔を上げて、女子を見た。
長い黒髪をした顔の綺麗な女子が俺の前にいた。
学級委員の山里菜乃葉だっけ?
「プリント回収だよ。どうせ書けてないんだろうけど、どうするの?」
なんか上から目線だな。
正直俺は真面目ちゃんとは気が合わない。
不真面目な自分とは住む世界が違うからな。
「見せてくれね?」
「寝てた人に見せたくないな」
いちいちイラっとする言い方をしてくる奴だな。
そう言えば謎に嫌われてたっけ?
こう言うところがみんな嫌なんじゃない?
口には出さないけどな。
山里はスマホを取り出して、何か操作し出した。
もう会話しないってことか?
それとも教科書を見て自分でやれって?
意味わかんねぇ。
山里は俺の机にスマホを置いて教卓の方に行った。
俺の机は物置じゃねぇっつうの。
山里は先生とどこかへ歩いて行った。
「よう!伊吹!面白れぇ寝言を言ってたな!『今日のご飯は飛行機?食べれないだろ!』って。はぁー、腹いてぇ」
藤井裕翔が俺の席に笑いながら来て言った。
またやってしまった。
そう、俺はとんでもなく寝言がでかいのだ。
そう言えば飛行機を食べる夢を見たような……。
「山里が笑ってるところ初めて見たわー」
「……なぁ、山里ってどんな奴?」
俺は藤井に聞いた。
藤井は不思議そうな顔をした。
なんとなく聞いただけだけど、そんなにおかしいか?
「山里はしっかり者だよな。あと、謎に嫌われてる。不思議だよなぁ。そこまで嫌われてることしてないと思うけど……」
「人の机を物置にしてるけどな」
藤井は山里のスマホを持ち上げて見た。
「は?これ山里のやつ?さすが優等生。お前のために写真撮ってくれてたんじゃないか?」
「なんの話を……」
俺はスマホを見て変なことを言う藤井からスマホを取り上げた。
そこには綺麗な字で書かれたプリントの写真が写っていた。
評価される欄は編集機能で塗りつぶされていて、その上からテキスト入力で何か書かれていた。
――評価されるからここは頑張って書いてね!
「……」
さっきシャッター音は聞こえなかった。
それに、編集する時間もなかった。
もしかして、集める前に?
「授業中にシャッター音が聞こえたけど、それだったんだな。先生がキレてたけど見つからなかったみたいだな。あいつすぐに成績下げてくるから」
先生に見つかって成績を落とされるリスクを犯してまで、俺にプリントを見せようとしたのか。
勘違いしたことを申し訳なく思いながらも、どうしてあんな言い方をしたのか疑問になった。
「藤井ぃぃぃぃいい!」
「うわ!坂上だ!絶対昨日の後輩ぶん殴った件だ!じゃあな佐藤!俺は逃げるぜ!」
藤井は走って教室から出て行った。
俺は面白そうだと思い、扉から廊下を見た。
顔を出してすぐに、体育教師の坂上が猛ダッシュで藤井を追いかけて行った。
「藤井ぃぃいい!何逃げてんだお前ぇぇえ!」
「先生が怖いんすよ!!俺は絶対に謝りませんよ!喧嘩売ってきたのはあいつなんだから!」
「待てぇぇぇええ!」
そんな会話をしながら、豆粒サイズになった藤井と坂本の後を興味本位で追いかけてみた。
◇◆◇
「見失った……。あっ」
俺は手に山里のスマホを持っていることに気がついた。
あいつ、今頃困ってるかもな。
教室に戻るか。
俺が戻ろうとすると、壁の向こうから声が聞こえた。
「楓ー?楓ー?」
この声は……。
山里?
楓って誰だ?
俺は壁から少しだけ顔を出して、山里の様子を見ることにした。
――ガサッ。
茂みが揺れた。
動物?
「楓、ここにいたの?」
茂みから出てきたのは白猫だった。
「楓、ひっつき虫だらけじゃない」
山里は猫のひっつき虫を丁寧に取り始めた。
「ねぇ楓、聞いて。クラスの人と仲良くなれるチャンスだったのに、またキツくあたっちゃったの。友達の作り方も忘れちゃったよ」
山里……。
俺は山里と話すことに決めた。
壁から出ようと足を踏み出したら、それを察知した猫は逃げた。
「あっ、楓!楓!待って!」
猫は柵をすり抜けて道路に飛び出した。
猫は道路の真ん中で立ち止まって振り向いた。
まずい。
車が近づいている。
俺は走って柵を飛び越えて、道路の猫を抱えて間一髪で、俺も猫も無事だった。
山里は校内で涙目で俺を見ていた。
先生にバレる前に敷地内に入った。
そして、猫を山里に手渡した。
「悪かったな。俺が動いたから」
「ううん。ありがとう」
山里はそう言って笑った。
猫は山里の腕の中で、ほっとしたように目を閉じた。
「いつから聞いてたの?」
「猫を呼ぶところから」
「すっごく最初じゃん。……追いかけてきたの?」
こいつは俺のことをなんだと思ってるんだ。
「俺は藤井と坂上を追ってただけだ」
「あー、さっきいた気がする。びっくりして楓が逃げちゃったんだよね」
山里は猫を撫でながら言った。
膝の上で寝ている猫は、山里にだいぶ懐いているらしい。
楓……。
「なぁ、楓ってその猫の名前?」
「うん。目の色が紅葉の色に似てるから」
そう言って山里はポケットを触った。
そして、何かを探し出した。
もしかしてスマホだろうか。
「これ?」
俺は山里にスマホを差し出した。
「あ、写せたの?」
「まだ」
山里は渋い顔をしながらスマホを受け取った。
そして、何か操作をして俺の顔に向けて来た。
そこには楓という猫が写っていた。
確かに紅葉の色だ。
「紅葉ってありきたりかなって思って、楓にしたの。……何?」
山里は俺の視線に気がついて、眉をひそめて聞いた。
「意外と話すんだなって」
「そりゃあ、私だって喋るよ。いつもは喋れないっていうか……。分からないんだ」
何が分からないのかは言わなかったけど、山里はまるで、これ以上踏み込むなと言うような雰囲気を出している。
それを無理に追求するほど俺は腐ってない。
そっとしておこう。
「なぁ、山里。俺と友達にならねぇか?」
「え?」
困惑を隠しきれないような顔をした山里はどこか嬉しそうだ。
そうして俺達は、友達になった。
◇◆◇
「いっくんいっくん。テストどうだった?」
菜乃葉が俺にニヤニヤしながら聞いて来た。
菜乃葉はどうせ満点なんだろうな。
俺は……。
俺はチラッと自分のテストを見た。
42点……。
「私今回悪かったんだよねぇ……」
「よし、せーので見せよう」
「「せーの!」」
俺と菜乃葉は答案を机に叩きつけた。
菜乃葉は82点。
俺は42点。
「どぉこが悪いってぇ?」
「えー、いつも満点なのに今日は20点も落ちちゃったんだよー?十分悪いよー」
俺は菜乃葉にデコピンをしようとした。
しかし、見事に避けられてしまった。
「おい待て菜乃葉!」
「嫌だねー!いっくんのデコピン痛いもん!」
「だから制裁加えるためにやってんだろうが!グーパンじゃないだけさマシだと思え!」
俺と菜乃葉は許される速度で追いかけっこをよくしている。
走っていない手前、先生達も何も言わない。
俺といる時は、菜乃葉はすごく楽しそうだ。
それを見て、周りがゴチャゴチャ言ってるけど、俺は気にしない。
こうやって笑えてる時間が楽しいから。
◇◆◇
「最近さ、楓が来ないんだよね」
そんな相談を受けた時、菜乃葉はすでに泣きそうな顔をしていた。
その頬にはガーゼが貼られていた。
もうすぐ進学なのに、顔に傷を作って大丈夫なのか?
「ねぇ、聞いた?」
「何?」
「三丁目の公園に猫の死体があるらしいよ。しかも結構グロいらしい」
「えー。やだー。保健所は?」
「さぁ、誰かが呼ぶんじゃない?」
そんな会話をしながら教室に入ってくる女子達がいた。
今その会話はダメだろう。
タイミングが悪すぎるその会話を聞いた菜乃葉の顔色は悪かった。
そして、
「菜乃葉!」
菜乃葉は走り出した。
あの馬鹿!
三丁目にいくつ公園があると思ってるんだ!
俺はできる限り菜乃葉を見失わないように走った。
しかし、菜乃葉は運動神経抜群だ。
すぐに見失ってしまった。
死に物狂いで三丁目の公園を回っていくと、小さい公園で地面に座り込む学生がいることに気がついた。
「菜乃葉!!」
俺は菜乃葉に近づいた。
菜乃葉はこちらを見ない。
膝の上には血だらけの白猫がいた。
まさかな……。
「菜乃葉……。その……。猫は……?」
息も絶え絶えになりながらも、俺は菜乃葉に聞いた。
菜乃葉は顔を上げた。
菜乃葉は大粒の涙を流していた。
「楓」
「……っ!」
俺はもう一度菜乃葉を見た。
菜乃葉は……。
笑ってた。
「偉いねぇ……。楓は精一杯生きたんだよねぇ……。こんなになるまで他の子達と戦ったんだねぇ……」
「菜乃葉……」
菜乃葉はスカートに血が染み込むのも気にせずに、ずっと楓を褒め続けた。
「偉いね」「頑張ったね」を繰り返して、公園に二人で穴を掘って楓を埋めた。
菜乃葉は一言も話さなかったけど、悲しいはずだ。
「菜乃葉」
「いらないよ」
俺が話しかけると菜乃葉はそう言った。
「同情はいらない。楓はただ、先に行ってしまっただけだから……。だからね、笑って送ってあげよう」
泣き腫らした目を細めて、菜乃葉は笑った。
俺はそれに答えるように菜乃葉に微笑みかけた。
「そうだな。楓に暗い雰囲気は似合わないからな」
俺達は楓が旅立った空を見上げた。
雲一つない青空。
楓は、こんな空に飛び立ったのか。
「戻るか」
「そうだね」
菜乃葉は制服を脱ぎながら言った。
その下には体操服を着ていたようだ。
俺達が歩き出そうとすると、背中側から風が吹いた。
さっきまで吹いていなかったのに。
「楓からの感謝?」
「そうかもね」
みなさんこんにちは春咲菜花です!今回は伊吹視点です!最悪な出会いをしたけど、結局は心を開く菜乃葉はなんだかんだ優しいですね!次は誰視点にしよう……?みなさん予想してみてくださいね!