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ユリィ・セーリア「私の願い」

ユリィが魔王戦の時まで生き残った話と、菜乃葉達が眠りについた後のユリィ達の行動を書きました!

私は何度も何度も処刑された。

正式な処刑じゃない。

暗殺者による処刑という名の暗殺だ。

焼けるような痛みと苦しみ。

愛されないと知った辛さ。

それは当時の私には耐え難い真実だった。


「もう99回目……。後少しで殺される時期ね……」


私は部屋の窓の外を見ながらつぶやいた。

どれだけ人に優しくしても、私の運命は変わらなかった。

何度か自害もした。

逃亡だってした。

でも、毎回毎回死ぬか殺される。

一回目の人生から私は人に愛されたことがなかったことを知った。

お父様が私の我儘に応えていたのも、面倒だったからだと知った。

我儘な私を愛してくれる人なんていない。

そもそも、私のことを愛してくれる人なんているの?

私は明日死ぬ。

決まっているんだ。

死ぬ日だけは。


「今回はどんな殺され方をするのかしら。楽しみね」


私は壊れていた。

もう、殺されたっていい。

何をしたって無駄なのだから。


◇◆◇


――一週間後


「どうして……。どうしてまだ生きているの……?」


わけが分からなかった。

殺される日はもうとっくに過ぎている。

どうしてまだ生きているのか。

私にはそれが分からなかった。


「みなの者!よく聞け!」


イーベル殿下が全校生徒の前で叫んだ。

今日は月に一度の学園夜会の日。

婚約破棄でも伝えられるのだろうか。


「今より名前を呼ぶ者は前へ!セシリア・フィーリア!カイル・シルコード!ディーア・ベイルド!オーリス・クレイト!イアン・グリーファ!」


聖力を持つセシリア、成績優秀でこの国の賢者と呼ばれるカイル、精霊の愛子のディーア、謎の技術を持つオーリス、剣術に関してはずば抜けているイアン。

彼らを前に呼んで何をするのだろう。


「最後に!ユリィ・セーリア!」

「……は?」


私も呼ばれた?

一体何が始まるのか。

私は分からなかった。

前に出た私は、セシリアに微笑まれた。

少し前なら思い切りぶっていただろう。

そんなことしても愛されないと分かったらそれまでだ。

虫唾が走っていたこの顔も、聖女と認めざるを得ない顔だった。

セシリアは私が死んだ後、何を思ったのだろう。

どうでもいいか。

どうせ済んだことだ。


「このメンバーで我々は復活すると予言が出た魔王を討伐する!」


魔王討伐?

どうして私が選ばれたのだろう。


「殿下。私はどうして選ばれたのですか?」

「お前は魔力量が多い。そのため、討伐メンバーに相応しいと判断した」


私が死んだ後も、こうしてみんなは魔王討伐に行ってたのかな。

生きていたら私も魔王討伐に参加できていたのか。


「報告はこれだけだ!討伐に向かうのは来週だ!来週は王家主催のパーティーとなる!楽しみにしておいてくれ!」


そう言ってイーベル殿下は話を終えた。

すごく大きな拍手と歓声。

初めて見た。

私が我儘を言わなければ、みんな辛そうな顔をしない。

私が繰り返す理由はわからない。

でも、もしかするとこの光景を見るためだったのかもしれない。

固くなっていた表情が綻んだ。

人をいじめるよりも、ずっと楽しくて嬉しい。

私は殿下に深々とお辞儀をした。


「その使命、ありがたく全うさせていただきます」

「励むことだ」


殿下は私に微笑んだ。

今まで見たことがない表情だ。

嫌な気持ちにはならない。

やること一つでこんなに変わるなんて。


――みんなみんな愚かだわ!あんな女に執着するなんて……!


愚かなのは私の方だったんだ。


◇◆◇


すごく嬉しくて、楽しい夜会だった。

魔王なんて、みんなで倒せる。

みんな強いんだから。

人の力を肯定したのは初めてだった。

そして、最初で最後となった。

私達、魔王討伐チームは、魔王に敗北したのだ。


◇◆◇


「おはようございます、お嬢様」


アエテルナの声が聞こえて、目を覚ました。

私は体を起こして自分の体を見た。


「また5歳からやり直し……。これで100回目……」


虚しいような、悲しいような。

よく分からない複雑な感情が私の中に湧いた。


「あはは……。あはははは……」


笑いたいはずなのに、笑い飛ばしたいはずなのに、涙が止まらない。

どれだけ足掻いても私は死んでしまう。

神様、これは罰なのですか?

我儘な私に対する罰なのですか?

もう、自由に行きたい。

自由に、幸せに、みんなと一緒に……。


「それではお嬢様。私は下がらせていただきますね」


私に服などを着せたアエテルナは出て行った。

一人残された私は、ベッドの上に座った。


「もっと生きたいよ……」

「その願い、僕が叶えてあげるよ」

「……え?」


同い年くらいの男の子の声が聞こえた。

銀髪にくすんだ金色の男の子。

金目はアスクレイン王国の王族の印だ。

どうしてこの子がその印を持っているのか。

そんなことよりも、どうして二階にあるこの部屋の中にいるのか。


「願いを叶える?どういうこと?」

「そのまんまの意味さ。僕はユアン。よろしくね、ユリィ」


ユアンと名乗る少年は私に手を差し出した。

彼は微笑んでいる。

微笑んでいるはずなのに、どこか寂しげで、どこか無理をしているように見える。


「僕と手を組もう」

「どうして私の名前を知ってるの?それに、ファミリーネームを名乗ってもらえるかしら?」

「私を助ける?どうやって?そもそも私の状況を君は知らないでしょう?」

「そうだね、僕は何も知らない」


ユアンは笑いながら言った。

おかしい。

何がおかしいかというと、顔は笑っているはずなのになぜか怖い。

そうだ、目だ。

目が笑っていないんだ。


「でも、どうなるかもわからないのに逃げるのは良くないと思うけど?」

「……ループしてるの。同じ人生を……。何度も何度も殺される人生を……。殺されたときの痛み、苦しみ、虚しさ……。何度も味わってるの」


私の目から、涙が出てきた。

何で?

あぁ、そうか。

私は……。

私は自分の話を誰かに聞いてほしかったのか。


「辛かったね」

「信じてくれるの?」

「嘘には聞こえないから」


初めて出会った自分をわかってくれる人。

何度も何度も誰かに話して、病気だと言われた私の言葉。

信じてくれる人はちゃんといたんだ。

そこから私は、ユアンと作戦会議をした。


「まずは君が死ぬんだ。そこに異世界人の魂を入れる。それで君は自由だ。殺人がバレることもない」

「そうだね」

「十人の命乞いで願えばいいんだよ。『この地獄から助けてくれ』ってね」


私を何度も無実の罪で殺したやつらに復習ができると思っていたんだ。

でも、私の中ではまだ抵抗があったんだ。

私がしっかりと短剣を握っていれば……。

いや、覚悟ができていれば、私の願いは叶ったのかな?

そんな自己中な考え方しかできなかった私を許してくれたバカがいた。


――慣れちゃ駄目なんだよ。その痛みを忘れてしまうから。その気持ちに慣れるときは、きっと心が壊れたときだ。あなたが生き続ける限り、その痛みは、苦しみは、悲しみはついてくる。でも……。それでも心が壊れないように大事にして。たとえ禁忌を犯したあなたでも、ちゃんと心を持ってる。ちゃんと私達と同じ人間だ。その心を大切にして。壊さないように大事にして。いつかちゃんと報われる。


私は彼女に救われた。

報われた。

そのためなら、ユアンが眠りの時間を縮める魔法の犠牲者になっても構わない。

それはイーベル殿下もセシリアも、みんな同じ思いだった。


「おやすみ、菜乃葉。良い夢を見てね」

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