ディーア・ベイルド「王妃、夏休みを要求」
「夏休みが欲しい」
「…………何寝ぼけたこと言ってるんですか?セシリア様」
はてさて、夏休みとは何か。
僕はそれが知りたい。
どうも、ディーア・ベイルドでーす。
今はセシリア様こと琴葉様と公務をしてまーす。
「な・つ・や・す・み!知らない!?夏の長い休み!」
「存じ上げません。夏の長期休暇をそのように言うのですか?」
「そう!前世では大学生以外の学生にはあったなぁ」
ダイガクセイというものを僕は知らないけど、そういう休みがあることは分かった。
夏にはの長期休暇は学園にあったよな?
なぜセシリア様はそれを要求しているのだろうか。
「足りないんだよ……。圧倒的に休みが足りないんだよ!」
「あなたいつものように休んでますよね!?」
「最近はちゃんとしてるよ!建国祭の準備、城下の視察、貴族達のいざこざ解決、書類整理、釈放許可証の発行、建国際の準備。気が狂いそうな仕事が多いんだから!」
建国祭の準備を二回言ったのは、一番忙しいからだろう。
今までずっとやってきたんだから容易いはずなのに、なぜそんなに嫌がるのか。
「大人に夏休みがないなんて、そんなのブラック企業同然じゃん!!そもそも、伊吹も手伝ってくれればいいのに!」
「それは無理でしょうね。建国祭は国王と王妃が指示を出して民を導くというのがしきたりですから、王弟であるイーベル様は手を出せないかと」
「伊吹と柚木、前世で双子だったんだから入れ替わったりしてくれないかな」
何を言ってるんだろうこの人。
前世の今世は別なのに気づいてないのか?
「ガサツな性格は似てるからいけるよね」
「見た目の問題はどこ行ったんだ」
「そういえば今世は全然似てないね。まぁ、魔法で何とかすれば?」
「そんな魔法ないですよ」
セシリア様は立ち上がった。
そして、両手を自分の頬に当てた。
その瞬間、まばゆい光がセシリア様の顔を包み込んだ。
光が収まると、セシリア様の顔は僕の顔になっていた。
「あるんかい!!」
「私はYDKやぞ?できるに決まってるだろう。お馬鹿なディーアと違って私は頭もいいからね」
クッソォォオオ!
ほんっとにこの人はよく傲岸不遜な態度をとるよな!
腹立つ!
セシリア様は僕の顔で変顔をし始めた。
「やめてくださいよ!僕の顔で変顔するの!」
「え〜、どうしようかな〜?」
「セシリア、やめろ」
「ハイ……」
セシリア様は魔法を解いて自分の顔に戻った。
全く、同級生だからと舐められているのも困る。
「ところで、夏休みというのは学園の長期休暇と同じということでよろしいですか?」
「そうだね。でも、前世の方が一週間くらい長かったかな」
「そんなに長く休みを取ったら国が崩壊しますよ」
「そぉこぉはぁ〜、精霊の愛し子であるディーアくんが何とかしてくれるでしょう?」
そんなこと言われても無理ですよ。
僕にそんな力はありません。
「うわっ、気持ち悪っ。これだからセシリアは」
「君絶対心の声と言ってること逆だよね?」
「何で分かったんですか?」
「否定しろ」
否定するわけがないのに、一体セシリア様は何を言っているんだろう。
正しいことを否定する意味が分からないや。
「で、話を戻すんですけど、僕に夏休みが欲しいと言われても何もできませんよ?」
「じゃあ、誰に言えばいいの?」
「陛下に言ったんですか?」
「言ってくる」
「言ってなかったんですか」
セシリア様は猛ダッシュで部屋から出ていった。
平民や貴族は知らない。
誰にでも分け隔てなく接してくださる王妃様があんなに無鉄砲でちゃらんぽらんだなんて。
いや、分け隔てなくという点では合っているか。
「一体どうなることやら」
◇◆◇
――数日後
今日、僕は陛下と公務をしていた。
「そういえば、セシリア王妃に二週間の夏休みを与えたそうですね」
陛下は思い出したように僕を見てから言った。
そして、いきなり深いため息をついた。
「本当は一ヶ月と言われていたけどな」
「ああ、通りで不服そうな顔をしていたわけですね」
陛下は一度手を止めて、ペンを置いた。
そして、窓から庭園で菜乃葉と戯れるセシリア様を見た。
最初はつまらなそうに見ていた陛下は、一瞬だけフッと笑った。
「あなたは甘いですね」
「何でそうなる?」
「セシリア王妃を心の底から愛していなければ、二週間分の公務を代わりにやったりなんてしませんよ」
陛下は長い沈黙の末に、静かに言った。
「そうかもな」




