カイル・シルコード「そのドレスは誰のため?」
「……」
「……」
俺は目の前で倒れているイアンをスルーしようとした。
イアンは意識があったのか、俺の服の裾を引っ張った。
「触んな」
俺はイアンを蹴った。
◇◆◇
「酷くね?仮にも学友だった人蹴るとか」
俺はイアンに応接室に連れて行かれた。
本当に何なんだこいつは。
「何の用だ。俺は忙しくない」
「賢者の称号を持つカイルこの知恵を借りたい」
イアンが俺の知恵を欲してる?
よほどのことがあったのか?
俺は話を聞くだけ聞くことにした。
「菜乃葉と……。菜乃葉と仲直りする方法を教えてくれ」
俺は立ち上がって、ドアの方に行った。
「待ってくれよ!賢者にしか頼めないんだよ!!」
「他にもいるだろ。そういうのは陛下に聞け」
「柚木は今日琴葉とデートでいないの!頼む!」
どうせくだらん理由で痴話喧嘩しただけだろう。
しかも、あの寛容な菜乃葉がキレるって、大体イアンが悪いだろ。
俺を巻き込まないでほしい。
「で、何?」
「菜乃葉が明後日の夜会で俺の色を着ないっていうんだ」
「おっけ帰るわ」
ガチでしょーもなかった。
そしてイアンが百パー悪い。
菜乃葉がどんな色を着ようと勝手だろうが。
「のぉぉぉおおおおん!!」
「何だよ!そういうのは菜乃葉と話し合って決めろ」
賢者であろうが賢者じゃなかろうが、こいつは俺に話を聞いて欲しかっただけじゃないのか?
イアンはキリッとした顔つきで言った。
「カイル・シルコード、グリーファ公爵からの命令だぞ」
「イアン、お前昔はそんなやつじゃなかったよな?イメチェンが過ぎるぞ」
「あのなぁ、この世界のイアンと俺は違うんだよ。この世界のイアン・グリーファは山本伊里也にすり替えられてるんだからな」
「ああ、そう言ってたな。てっきり菜乃葉に毒されたものだと」
「失礼な」
そう思うのも仕方ないだろう。
菜乃葉と出会ってから、イアンはかなり行動的になった。
菜乃葉菜乃葉と騒ぐようになったし、俺達ともあまり連まなくなった。
昔はこんな……。
こんな馬鹿じゃなかったんだけどな。
「で、菜乃葉が自分の色を着ないと言い出して、お前は何が気に入らないんだ?」
「…………」
答えないか。
聞き方が悪かったか?
「じゃあ、菜乃葉が着ようとしてるのは何色だ?」
「…………」
「……話す気あんのか?」
「ある!あるある!あるから殺気を出すな!」
イアンは苛立った俺に言った。
俺にはあるように見えなかったが?
「で、菜乃葉は何色を着るって?」
「……金」
「セシリアか」
「正解」
この国で金色は王家を表す色とされている。
王家の血を継ぐ者は金色の瞳を持つ。
セシリアは国王陛下である、ギディオン・アスクレインの妃である。
そして現在王室にいる、イーベル・アスクレインとギディオン・アスクレインは菜乃葉達の前世からの知り合いで、仲が良かったと聞く。
多分伊里也よりも。
婚約者の色をまとうのは「この人とは特別な関係です」という意味を持つ。
王家の色を身にまとうのは正直重罪と言っても過言ではない。
しかし、セシリアの名前が出てくるなら話は別だ。
「つまり、セシリアが菜乃葉と同じドレスを着てほしいと駄々をこねて、菜乃葉が渋々それを受けたんだな?」
「大っ正解。『俺と琴葉、どっちが大事なの!?』って聞いたら、琴葉って言われて」
確かにそれは菜乃葉も悪いとも言える。
しかし、こいつはいつも独占欲丸出しすぎるから、ある意味いい機会かもしれない。
俺は立ち上がった。
「これを機に、少しは菜乃葉離れしな」
「そんなぁぁああああ!!」
◇◆◇
「ねぇ、ユリィ様のあのドレス見た?」
「ええ、見たわ。王家の色を自分のドレスに入れるなんて」
「やっぱりあの噂は本当なのかしら」
「そうとしか考えられないわよね」
夜会では小声で菜乃葉のドレスの話をしている人が多かった。
これは予想できていた。
そりゃあ、王家の色をドレスに入れたとなれば、批判する声くらい――
「やっぱりユリィ様とセシリア王妃はとても仲がいいのですわね!!」
「陛下とイーベル様との仲も良好らしいですし、羨ましいですわぁ!!」
え、何で?
思ってたんと違う。
何でそんなにいい感じの噂しかないの?
「あー、どうせセシリア様のわがままなんだろうな」
「ディーアか。久しいな」
「おひさ。菜乃葉のドレス、見たか?」
「まだだ。ディーアは見たのか?」
「見たよ。イアンの独占欲丸出しなドレスをな」
ディーアはどうやら見に行ったようだ。
「あっちにいるから見に行ってみろよ」
「あ、ああ……」
俺は人混みをかき分けながら、菜乃葉達がいるという場所へ向かった。
イアンの独占欲丸出しなドレス……な。
俺は思わず笑いそうになった。
「あ〜!カイルだ!やっほ〜!」
菜乃葉の声が聞こえて先を見ると、菜乃葉が笑顔で俺に手を振っていた。
イアンと一緒にいる菜乃葉のドレスは紺色で、裾の辺りに金色の糸で刺繍が施されていた。
王家の金色の中に、イアンを象徴する色がある。
「……なるほどな」
完璧だった。
誰が見ても、表面上はイアンの独占欲丸出しのドレス。
しかし、その中に王家の色を入れることでイアンの尊厳も守ったということか。
◇◆◇
「お前、泣きそうな顔してるな」
俺は菜乃葉が令嬢達に連れて行かれたあとで、イアンに言った。
「は?してねぇよ」
強がりでそんな事を言うイアンの目は潤んでいる。
セシリアだけでなく、自分のことも考えてくれたことが嬉しいのだろう。
本当に、こいつらは面倒くさいけど目が離せない。
「それより、絶対お前が裏で手引きしただろ」
「別に?紺色と金色は相性がいいんじゃないかと菜乃葉に言っただけ。まぁ、迷惑ならもう言わないけど?」
「なんでもないです!!ありがとうございましたぁ!!」
イアンは勢いよく俺に頭を下げた。
「感謝するなら二度と俺を巻き込むな」
「えー、次またケンカしたらお願いする予定なんだけど」
「やめろ」
平和だな。
馬鹿みたいに遠回りして、面倒くさいやつらだ。
でも、滅多に話さないし、少しくらい巻き込まれてやってもいいかもしれない。
「あ〜!!カイルが笑った!!」
「笑ってないけど」
「嘘だ!絶対笑った!菜乃葉に報告しよーっと!」
イアンが菜乃葉の方に走り出した。
本当に幸せそうなやつらだな。




