野々原琴葉「誕プレ探し」
「もぉぉぉぉおおお!!公務疲れた〜!!」
私は誰もいない執務室で叫んだ。
こんにちは、セシリア・フィーリアこと野々原琴葉です!
私は今、クソだるい書類をさばいています。
「領地問題、国の橋建設の許可、隣国との関係の会議結果の確認、城の警備状態、税率計算、建国祭の準備、もぉう!何でユアンはこんなの一人でできてたわけ〜!?」
私は机にうっつっぷした。
ユアンは並列世界から帰ってきて、菜乃葉達が結婚式を挙げた夜に転生するために女神様のところへ行ったらしい。
前は元気に走り回ってたユアンがいないのは正直寂しい。
「ユアン〜、帰ってきてよぉ〜。寂しいよぉ〜」
「嘘こけ、お前は仕事を手伝って欲しいだけだろ」
そんな声が聞こえて私は顔を上げた。
ドアを開けて入ってきたのは伊里也だった。
「あー!珍しい!伊里也が私に会いに来るなんて!ハッ、分かった。私のことを好きなんでしょ〜。でもごめんね、私あなたのこと友達以上には見れないの」
「何で俺はフラれてんだよ。今日は暇だったからきたんだよ。柚木も伊吹も由梨奈も菜乃葉も外交に行ってていないしな」
「あー、何で置いていかれたんだろう」
柚木はなぜか王妃である私を置いて、王弟とその妃である伊吹と由梨奈、そして菜乃葉を連れて外交に行ってしまったのだ。
さて、なぜ置いていかれたのか。
「……解せぬ」
「十分解せるだろ。お前が公務を菜乃葉のところに行って全然やらない上に、外交に連れて行くと城下に抜け出すからだろ。それに、兄弟姉妹だけで旅行だっていいじゃねぇか」
伊里也の鋭い指摘が私のメンタルを切り裂く。
最低限の公務をやるだけでは駄目だったらしい。
それに、前世では深く関われなかったみんなが楽しく過ごせてるのはすごく嬉しい。
私は一人っ子だったからな。
義姉は家族と思ってない。
というか、何で私は伊里也に諭されてるの?
私は王妃なんだけど。
「お前は自称YDKなんだからとっとと終わらせろ。明日までにな」
「え?何で明日?」
「菜乃葉達は一週間外交で帰ってこないだろ?そこを狙うんだよ」
狙うとは?
私は言葉の意味が理解できなかったから、首を傾げた。
伊里也は不敵に笑って言った。
「菜乃葉の誕生日。準備してるだろ?」
「何で知ってるんだよ」
相変わらず伊里也は用心深い上に菜乃葉への愛が重いことで。
◇◆◇
「おぉ〜!なんか賑わってるね〜」
「今日は見切り品セールをやってる日だからな」
伊里也は周りを見て言った。
そういえば今日は月末なんだった。
月日が経つのは早いな。
「王妃様だ!」
一人の子供が私を指さして言った。
ありゃ、バレちゃった。
私は国民に向ける理想の王妃様の顔をした。
「ご機嫌ようみなさま。私、実はお忍びで来ているのです。なので、陛下にはくれぐれも内緒でお願いいたしますね?」
「出たよ猫被り」
呆れたような顔で伊里也が言った。
いいじゃん。
国民の前では理想の王妃様を演じたって。
「王妃様は城下に何をしに来たんですか?」
「友人の誕生日プレゼントを買いに来たのです。何かおすすめのものはありますか?」
「ご友人というのは、ユリィ・グリーファ様ですか?」
よく分かったな。
びっくりだよ。
まぁ、確かに菜乃葉との仲は国民にも知れてるみたいだし。
本まで出したもんな〜。
「ユリィ様は書類を書いたりされますか?」
「ええ、そりゃあ公爵夫人ですもの」
「では、万年筆などどうですか?」
万年筆か……。
そういえば、菜乃葉は最近愛用している万年筆の出が悪くなったと言っていたな。
よし、決めた。
万年筆をあげよう。
「おすすめのお店はありますか?」
「ありますけど、平民のお店ですよ?」
「構いません。貴族のお店のものは装飾品のようなものですから」
これぞ善人スマイルだ。
訳を言うとこうなる。
貴族のお店のものは邪魔くせぇ飾りが多いし実用面にはかなり欠けるから邪魔くせぇ装飾品のない平民のお店の方がいい。
先ほどの文章の二、三倍になるがこうなるのだ。
仕方あるまい。
伊里也は私が言わんとしていることを察したのか鼻で笑った。
「善人のフリが上手いことで」
こいつ殴っていいかなぁ〜?
腹立つんだけど〜?
私は万年筆を買うことを提案してきた国民に連れられて、文房具店に出向いた。
――カランカラン
お店のドアによくついている、音が出るやつがぶら下がっている。
「いらっしゃーい。……って王妃様!?それにグリーファ公爵まで!?」
「プレゼント用の万年筆が買いたいそうだ」
「それは構いませんが、平民なんかのものでいいのですか?」
「私は構いません。プレゼントする相手も貴族の使う華美なものは好きませんから」
伊里也が笑うのを堪えているのを横目に、私は万年筆を見た。
そこまで華美なものはなく、貴族があまり好まなそうなデザインだ。
菜乃葉は花が好きだからな。
万年筆と造花を箱に入れてあげようかな。
「琴葉、これとかどうだ?」
伊里也が指差した万年筆を見る。
金で花が描かれている。
「あー、いいね。菜乃葉はこう言うちょっと地味で可愛いのが好きだからね。これください」
私は店主に言った。
店主は「こんなんでいいのか?」という顔をしていたけど、無理に貴族社会にあった万年筆を押し付けたくない。
文句は言わないだろうけど、やっぱり私はそういうのが好きではない。
「包みましょうか?」
「プレゼント用の箱とかありますか?」
「ありますよ」
店主は何も描かれていない無地の木箱を持ってきた。
木箱か。
「触っても?」
「どうぞ」
私は木箱を持ち上げて、コンコンと叩いたり、蓋を開けてみた。
木が木に当たる心地いい音が響く。
「これでお願いします」
「木彫りはいかがされますか?」
「では、こことここに花を掘っていただけますか?」
私は木箱の右斜め上と左斜め下を指差した。
店主は頷いて、手慣れた手つきで木を掘り始めた。
掘り終えたら魔法でワックスをかけてくれた。
「お上手ですね」
「王妃様に褒められるとは光栄ですね」
「ところで、造花を売っているお店はありますか?」
店主は悩んで、私達を連れてきた人に目をやった。
その人も眉をひそめた。
「造花はあまり取り扱いがないからな……」
「そうですか……。ドライフラワーはありますか?」
「それなら、向かいの花屋で取り扱っていた気がします」
私達は花屋に赴き、ドライフラワーを木箱に詰めてもらって王宮に帰った。
◇◆◇
――数日後
「菜乃葉ぁぁぁぁぁあああ!!お誕生日!おめでとぉぉぉおおお!!」
私は帰ってきたら菜乃葉にクラッカーを浴びせて元気に言った。
菜乃葉達はポカンとしている。
そして、菜乃葉がジトッとした目で私を見た。
「……公務は?」
「全部終わってますけど〜?」
「本当に?」
菜乃葉は伊里也を見た。
どんだけ信用されてないんだよ。
伊里也は頷いた。
「おー!すごい!琴葉、よく頑張ったね!」
菜乃葉は私の頭を撫でて言った。
私はYDKだからね!
「はい、誕生日プレゼント!」
私は誕プレを菜乃葉に渡した。
菜乃葉は嬉しそうにリボンを解いて箱を開けた。
「わぁ、花がいっぱい!ありがとう琴葉!」
「私達からも誕プレがあるわよ」
由梨奈が言った。
そして、伊吹も柚木も由梨奈も菜乃葉に誕プレを差し出した。
伊里也も菜乃葉の元へ行き、菜乃葉にプレゼントを渡した。
「みんなありがとう!」
菜乃葉は嬉しそうだ。
「それにしても、琴葉がちゃんと公務を終わらせてたなんてな」
「ねー」
「じゃあ、ハリアレート海に船を出すという会議もちゃんと結論が出てるんだな?」
「ん?」
何それ。
え?
ハリアレート海?
船を出す?
ん?
そんな会議やってないけど。
あれ?
そんなのやれって言われたっけ?
「え?俺行く時に言ったよな?『ハリアレート海に船を出すかどうか会議して検討しておいてほしい』って」
「あっ」
まずい。
私は思いっきり目を逸らした。
そぉいえばいわれたよぉ〜な。
冷や汗をかいて目を逸らす私を見て、柚木は察したようだ。
「おい、お前まさか」
「聞いてませんでした……」
「クッソが!寝ぼけてたから『聞いてたか?』って聞いたら『大丈夫。任せといて』っつたよな?」
いやいや、寝ぼけてる時に言った柚木さんが悪いじゃん。
と言ってももう遅いよね。
私は菜乃葉を出迎えた部屋の奥の方に逃げた。
柚木はすぐに追ってきた。
「あっ!おい!逃げるな!」
「嫌だよ!怒られるのはごめんだからね!」
「お前の責任だろうが!!」
菜乃葉達は「やれやれ」みたいな顔をしてたけど、同じ場所をぐるぐる回る私達を微笑ましそうに見ていた。
「琴葉〜!!」
「痛い!痛いよ柚木!暴力反対!DV夫は訴えてやる!!」
「誰がDV夫だ!これは制裁だ。王妃と国王、どちらが立場が上か考えろ」
「柚木のバーカ!たまに女々しくなるアホー!」
私は柚木に頭をぶん殴られた。
野々原琴葉、前世では不幸でしたが今幸せです!
今日も楽しく生活してます!




