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ユリィ・セーリア「二人で歩く花の道」

こんにちは、ユリィ・セーリアです!

菜乃葉達が並列世界に帰ってからも、私は幸せな日々を送っています!


「ユリィ」


夫であるギディオンの声が聞こえた。

私は書類を書く手を止めた。

前を見ると、ギディオンが私を見ていた。


「ご機嫌よう、ギディオン」

「あぁ。公務お疲れ様」

「ギディオンもお疲れ様です」

「なぁ、ユリィ、明日お忍びで城下に行かないか?」

「城下ですか……?」


明日城下で花祭りがあるから人が沢山いる。

そんな中城下に何の用があるんだろう。


「なぜお忍びで?」

「お前で二人で花祭りに行きたい」


意外と単純な動機だった。

花祭りには昔行ったことがあったな。

綺麗な花をカゴに入れて、国民達が街を歩きながら花を巻くというものだ。

あれ以来行ってないな。

私は万年筆を置き場に置いて、ギディオンに微笑んだ。


「では、明日行きましょうか。その前に、町娘のような服を用意しなければなりませんね」

「そうだな」


ギディオンは少し嬉しそうに笑った。


◇◆◇


――次の日


私は町娘の服を着て、城下町にギディオンと一緒に来ていた。

花祭りの真っ最中の城下は花びらでいっぱいになっていた。

大人も子供も楽しそうに笑っている。


「賑わってますね」

「花祭りはいつもこんな感じだ。来たことないのか?」

「……一度だけ来た気がします。お父様に連れられたことがあります。あまり興味がなくてすぐ帰ってしまいましたけどね」


その時の私は自己中で人のことを考えていなかったから。

花祭りなんて馬鹿馬鹿しくて、何の意味があるのかと考えたりもしていた。

意味を求めたら祭りなんて全てなくなってしまう。


「ユリィは本当に変わったよな」

「そうですね」

「ナノハのおかげか?」

「そうですね。彼女は私の恩人です」

「……そうか」


ギディオンは何となく、私の中で菜乃葉が大切な存在だと分かっていたのだろう。

菜乃葉はもうこの世界にはいないけれど、あっちの世界で楽しく過ごせているといいな。


「そこのお二人さん」


楽しそうな声に、私とギディオンは振り向いた。

そこにはニコニコの屋台のおじ様がいた。

おじ様の手には花びらが入ったカゴがある。


「花びらを持ってないだろう?持っていきな」


おじ様は笑顔で言った。


「ありがとう。いくらですか?」

「お金はいらないよ。ほら、兄ちゃんも」


おじ様はギディオンにも花びらのカゴを差し出した。


「花祭りを楽しんでな」


人がいいおじ様だな。

カゴの中には溢れそうになるほどの花びらが入っている。

私はその花びらを一掴み取った。

そして、ギディオンに向かって撒いた。


「おわっ!」

「ふふっ、花祭りはこう言うものでしょう?」


私がそう言うと、驚いた顔をしていたギディオンはふっと笑って私に花びらをかけてきた。

特に何もない行動でも、愛する人と一緒にやると楽しいと感じることができる。


「行こう。出店がたくさんあるんだ」

「はい!」


ギディオンは私の手を強く握り、出店がある方へ連れて行った。

知らなかったな。

こんなに城下が活気で溢れているなんて。


「ギディオン、あれは何ですか?」


私が指を指した方向には、雲のようにふわふわなものがあった。

綿とは何か違う。

あれは何だろう。


「食べたいか?」

「あれは食べ物なのですか!?」

「美味いぞ」

「食べてみたいです!」


私が身を乗り出すようにして言うと、ギディオンはくすりと笑いながらそのふわふわの屋台へと向かっていった。

すこし子供っぽかったかな。


「すみません、綿あめをひとつ」

「おう!兄ちゃん!久しいな!!」


出店のおじ様はギディオンにそう言った。

知り合いなのだろうか。

おじ様はもう作ってあった綿あめというものをギディオンに手渡した。


「デートかい?」

「デッ……。いや、デートかもな」

「お熱いねぇ」

「冷やかすなよ。ほら、お代だ」


ギディオンはお金を渡してすぐに立ち去ろうとした。


「待ちな」


おじ様は私達を呼び止めた。

そして、いたずらっ子のように笑って手のひらを見せてきた。

そこにはお金があった。


「ちょうど渡したはずだが……」

「花祭り特典と顔見知り特典だよ。安いだろ?」

「安すぎやしないか?……ありがとう。また来るよ」

「毎度〜」


ギディオンはお釣りを受け取って今度こそその場を立ち去った。

楽しそうに話していたけど、一体どんな関係なんだろう。

普段からよく城を無断で抜け出しているらしいし、城下で遊んでいたのだろうか。

少し離れたところで、私はギディオンから受け取ったふわふわの綿あめをじっと見つめた。

見た目はまるで雲のかたまりのよう。

手に持つと意外に軽い。

試しに少しだけちぎって口に運ぶ。


「……あまい」


綿あめは口の中でふわっと溶けて、口の中に甘さだけが残った。


「気に入ったか?」


ギディオンが少し笑って聞いてくる。


「はい。これは不思議な食べ物ですね。噛む間もなく消えてしまいます」

「子供に人気なんだ」

「たしかに人気の出そうなお菓子ですね」


私はあまりの美味しさに感銘を受けて、何度も綿あめを口に運んだ。

気がつくと綿あめはもうなくなっていた。

ギディオンは少し笑って「早く食べ過ぎだ」と言った。

ふたりで歩く花祭りの道。

通りの両端には出店が並んでいる。

焼き菓子、甘い果実酒、手作りの花飾り。

どれも手に取りたくなるものばかりだった。


「ギディオン、あれは?」


私が指を差した先には金属製の輪を使った投げ輪のゲーム屋台があった。

景品にはかわいらしいぬいぐるみや、手彫りの木細工が並んでいる。


「やってみるか?」

「私がですか?」

「案外、向いてるかもしれんぞ?」

「……それなら勝負しませんか?」

「勝負?」

「どちらが多く輪を入れられるか。負けた方が勝った方のお願いを一つ聞く……とか?」


私が言うと、ギディオンは目を細めた。

あっ、これ言わないほうが良かったかも。


「その勝負、乗った」


◇◆◇


結果は私の全敗だった。


「ま、全く入らないなんて……!」

「まさか一個も入らないとはな。これは、俺の圧勝だな」

「くっ……!」


悔しいけど事実だから仕方がない。

お願いを聞き入れるしかないか。


「あの、お願いって……?」

「また後でな。今は花祭りを楽しもう」


◇◆◇


日が傾き始め、空がだんだんと茜色に染まっていく。

割と長い間楽しんでいたからな。

花びらの舞う風景も、夕陽を受けて金色に輝いて見えた。

ギディオンと私は出店で甘いお菓子や飲み物を買いながら、のんびりと祭りを巡っていた。


「そろそろいい時間だな。少し人の少ないところに行かないか?」

「……もしかして、お願い事、ですか?」


ギディオンは少しだけ照れくさそうに目を逸らした。


「そうだな。ちょっと付き合ってくれ」


ギディオンは来るときに馬を預けていたお店から馬を引き取り、私を乗せて城下の少し遠くまで連れて行った。

そこは城下を見下ろせる、小高い丘だった。

辺りには他に誰もいない。

風が少しだけ吹いて私の髪を揺らす。

もう夜だから肌寒いな。

そんな事を思っていると、ギディオンは上着を脱いで私の肩にそっとかけてくれた。


「ありがとうございます」

「夜は冷えるからな」


丘から見える城下はランプの明かりでぽつぽつと照らされていて、まるで星のようだった。

祭りの音楽と笑い声が遠くから聞こえてくる。


「綺麗ですね……。まるで夜空を見ているみたい」

「ユリィ。お願い……。そろそろ言ってもいいか?」

「……はい。何でしょう?」


ギディオンは真剣な顔で私の方を向いた。

目を逸らさず、真っ直ぐに。


「これからも、毎年この花祭りを一緒に過ごしてほしい。花祭りだけじゃない。来年も、その先も、ずっと俺の側にいてほしい」


私は驚いた。

けれど、すぐに心が温かくなった。

私はギディオンの手を取った。


「もちろんです、ギディオン!ずっとずっと、未来永劫一緒です!」


私は笑顔でギディオンに言った。

ギディオンは少し照れたように笑いながら、私の手を強く握り返してくれた。

空を見上げるとすっかり日が暮れ、一つ、また一つと星が瞬き始めた。

城下の明かりも、花びらの香りも、すべてがやさしく包み込んでくれる。

花びらが風に舞い、私達の間をふわりと通り抜けていった。


「来年もその先も、きっと楽しいですね」

「そうだな。だけど今日は、まだ終わってない」

「……え?」

「出店、まだ開いているらしいぞ。今度は俺が負ける番かもしれないしな?」

「ふふ、それなら全力で勝ちに行きますよ?」

「手加減はしませんよ?お姫様?」

「望むところです」


私は笑ってその手を取った。

手を繋いで歩く道。

それは、きっと明るい未来へと続く花の道だった。

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