オーリス・クレイト「ミスコン(前編)」
元王立魔法学園第三学年Sクラスのオーリス・クレイトでぇす!
今回は俺のお話だ。
俺はその日、公務のために執務室を訪れた。
昨日も執務室に来たけど誰もいなかったんだよな。
「よっ!イアン、いるか?」
俺はノックもせずに勢いよくドアを開けた。
そこにいたのはスカートを履いてる途中のイアンだった。
どこかの学園の制服か?
にしても……。
見てはいけないものを見てしまった。
俺はそっとドアを閉じた。
中からすごい足音が聞こえて、俺が閉めたドアはまた開かれた。
「待てオーリス!話を聞け!」
「いや、安心しろ。お前の趣味は否定しない。ただちょっとキツイから鍵は閉めてやってくれ」
「否定してんじゃねぇか!一回入れ!」
俺はイアンに部屋に無理矢理押し込まれた。
やだ、イアンってば大胆。
「女々しい顔してんじゃねぇよ」
「おい、男女差別。……で、何その格好」
「やりたくてやってるんじゃない」
「だろうな」
さっきから正気を失ったような目をしているイアンは、絶対セシリア達に何か無茶振りさせられたんだろうな。
「黒幕は?」
「琴葉、伊吹、柚木、菜乃葉」
やっぱりセシリアかぁ……。
ん?
ギディオンとイーベル、それに菜乃葉もかぁ……。
俺はこの国の現王族と上位貴族のグリーファ家のご子息とその婚約者が転生者なのは知っている。
菜乃葉は出会った時からこの呼び方だから慣れてるけど、イアン達を前世の名前で呼ぶのには慣れないんだよな。
「で、その服は?」
「これはセーラー服って言って、俺達の世界にあった制服なんだよ」
「なんで着てんの?」
「……から……」
「あ?」
「菜乃葉の一発芸で笑っちゃったからだよ!!」
「ブフッ」
恥ずかしそうに叫ぶ割に、セーラー服とやらを着る理由がしょうもなさすぎて笑っちまった。
菜乃葉は天然だ。
天然サイコパスだ。
だから一発芸に磨きがかかったと考えるのが妥当か。
「セシリア達は?」
「笑ってた」
「ほう。みんなの罰ゲームは?」
「柚木、バニーガール。伊吹、メイド服。琴葉、ゴスロリ」
「ブフッ」
やばい、想像しただけで面白い。
どうせそれ考えたのは菜乃葉だろうな。
「なぁなぁ。お披露目、俺も見ていい?」
「俺はいいけど、菜乃葉に訊いてこい」
「あ、いいんだ」
「俺には失うものはもうない」
「すっげぇ遠い目をしている」
確かにこんな格好を見られたら失うものはなにもないな。
「んじゃ、菜乃葉んとこ行ってくるわ」
俺はそう言って執務室を出た。
どこにいるんだろうな、あいつ。
考え事をしながら曲がり角を曲がったら誰かに衝突した。
「ごめんなさい!オ、オーリス魔道士団長!?」
こいつは確か、菜乃葉の専属メイドのアエテルナ・ライトエアーか。
アエテルナ嬢は急いで姿勢を正して俺に頭を下げた。
「前方不注意でした。大変申し訳ございません」
「いやいや、俺もよそ見してたし。それより菜乃葉を知らないか?」
「菜乃葉様なら自室で舞台準備をしておられます」
舞台?
あぁ、イアン達のために準備をしているってことか。
いい性格してるよな。
「その布は?」
アエテルナは大量の布を抱えていた。
「これは舞台に必要だそうで……」
アエテルナ自身も何に使うか分かっていないようだ。
俺はアエテルナについて行くことにした。
菜乃葉の部屋のドアを開けると、そこには大量の精霊がいた。
「うおっ!なんだコレ!?」
「あれ?アエテルナ、おかえり〜!布は精霊に渡して〜」
菜乃葉はユリィではなくジゼルの姿をしていた。
精霊をこき使っている……。
ディーアですらそんな使い方しないのに……。
「菜乃葉〜!俺もお披露目見てもいいか〜?」
「え?オーリスもいるの?もてなせなくてごめんね〜!お披露目は見てもいいよ〜!」
菜乃葉はあっさりオッケーしてくれた。
アエテルナは精霊に布を渡している。
精霊によって菜乃葉が用意した舞台がおしゃれに飾られていく。
花の精霊、水の精霊、光の精霊、炎の精霊、土の精霊。
ほぼ全部の精霊を使うとかやばすぎるだろ。
「……本気だな、菜乃葉」
「えへへ〜。伊里也のセーラー服があまりに似合ってたからつい盛り上がっちゃって!」
「似合ってたんだ……」
「うん、ちょっとした学園の“転校生の女装少年”って感じだったよね!実はポスターも作ったの!王立学園の宣伝で使わない?」
「やめてやれ……」
「ちなみにみんなのコスは魔法写真で撮って、来月のアリスティア様とレイチェル様の国交パーティーで映像を流そうと思って!」
嬉しそうにそう言う菜乃葉は、さすが天然サイコパスとしかいいようがなかった。
◇◆◇
そうして舞台準備が終わってから、俺は菜乃葉に頼まれて部屋の隅にあるソファーを舞台の目の前に持ってきた。
もう他の四人は舞台裏で待機しているようだ。
「菜乃葉、ここでいいのか?」
「あら、オーリス魔道士団長じゃない」
ん?
俺はいつの間にか増えていた声に反応して顔を上げた。
「リリア!」
部屋にはリリアがいた。
なんでいるんだ?
菜乃葉がニコニコ……。
いやニヤニヤしている。
つまりこいつが連れてきたんだな。
夫のイーベルも出るから呼んだんだろう。
可哀想に。
「みんな座って!始めるよ」
俺達はソファーに座った。
精霊達が花を撒き散らしたり、光の粉を撒いたりした。
ガチのやつだ……。
「さて、じゃあエントリーナンバーワン!柚木〜!!」
バニーガール姿で、短い髪でツインテールにうさ耳、黒タイツという攻めた格好だった
ちなみに顔は真っ赤だ。
「グフッ……」
全員が吹き出しそうになるのを堪えている。
死ぬほど似合ってない。
菜乃葉は爆笑している。
「ゆ、ゆず……。柚木……。何でツインテール……?」
「……アエテルナがツインがいいって」
「ゴキブリじゃん……」
「ブフッ」
菜乃葉の爆弾投下によって全員が爆笑し始めた。
ギディオンは耐え難そうな顔をしている。
「んだよ!言い出しっぺが笑うなよ!」
「君はその言い出しっぺに負けたんだよ?それにしても……。最高に似合ってないね」
菜乃葉は再び爆弾を投下した。
ギディオンはゲッソリした様子で舞台裏に帰っていこうとしたけど、菜乃葉が止めた。
「最後にバニーガールになりきってね」
「…………」
ギディオンは長い沈黙のゆえ、覚悟を決めたように両手を頭の上に持ってきた。
全員が思っきし吹き出した。
やべぇ、このイベント楽しい。
「それでは続きまして〜! エントリーナンバーツー、伊吹〜!!」
メイド服を着たイーベルは軽い足取りで舞台に出てきた。
そして、両手でハートを作ってウインクをした。
「おかえりなさいませ!ご主人様!紅茶に美味しくなるおまじないをかけますね!美味しくなぁれ!萌え萌えキュン」
「………………」
長い沈黙が続いた。
最初に口を開いたのは菜乃葉だった。
「チェンジで」
「待てこら」
イーベルが真顔で菜乃葉に言った。
いや、俺も菜乃葉の言いたいことが分かる。
「「そんなにノリノリでやられても面白みがない」」
俺と菜乃葉の声がハモった。
どうやら同じ事を考えていたという予想は当たったようだ。
菜乃葉はイーベルの足元を見た。
「ねぇ、仮にも王族何だからさ、すね毛くらい何とかしたら?」
「付け毛でぇす」
イーベルが死ぬほどうざい顔をしたからリリア達ははドン引きしている。
もちろん俺もだ。
リリアは一歩距離を取った。
菜乃葉はそっと顔を逸らした。
俺とアエテルナは冷たい視線を向けている。
「ごめんて」
イーベルはトボトボ舞台裏に帰っていった。
みなさんこんにちは春咲菜花です!「オーリス視点の物語がみたい!」というコメントが来ていたので書かせていただきました!遅くなってごめんなさい!さて、皆さんどうでしたか?菜乃葉がサイコパスすぎる事に驚いたでしょうか?笑っていただけていると嬉しいです!




