山里菜乃葉「楽しい遊び」
「「叩いて被ってじゃんけんぽん!」」
「うら!」
「いった!何すんの!?」
私と伊里也は叩いて被ってじゃんけんぽんをしていた。
私が勝ったはずなのに、伊里也は私を殴ってきたのだ。
しかも、まとまった方で。
極悪人だろ。
「いや、咄嗟に……。正当防衛!!」
「んなわけあるか!」
私は伊里也の手首を掴んだ。
そして、魔力を吸い取ってやった。
「あだだだだだだ!痛い痛い!魔力を吸うな!!」
この世界では人から魔力を吸い取ることが可能だが、道具を経由しないと吸われる側の体がびっくりして激痛が走る。
「まいりましたと言え」
「へっ、誰が言うがぁぁぁぁあああ!まいった!まいったから!」
しばらく吸い取り続けよ。
廊下からバタバタと足音が聞こえてきた。
「おめえら!うるせえよ!!」
勢いよく入ってきたのは伊吹と柚木だった。
悲鳴を上げる伊里也、殺意丸出しの私、またかと呆れる柚木、苦笑いの伊吹。
フルカオス。
柚木が呆れたような顔で聞いた。
「…………何があった?いや、いい。言うな。聞かなくてもわかる」
「だずげろぉぉぉぉおおおお!!」
「……菜乃葉?」
私は柚木から目を逸らして、伊里也から手を離した。
肉体強化の魔法のかかった私の手で少し持ち上げられていた伊里也は地面に勢いよくぶつかった。
「がっ!」
「違うよ、これは、正当防衛!」
「はい」
伊吹が私に空間魔法で取り出した分厚い本を渡してきた。
「何?これ」
「国語辞典」
「は?」
「正当防衛の意味引いてみ」
「……」
バカにされてる。
私わかる。
こいつ、バカにしてる。
私はまだ肉体強化がかかってる手で、辞典を持ち、伊吹の顔面に思い切りぶつけてやった。
「いらねぇよ!!」
伊吹は辞典が勢いよくぶつかったことにより、倒れた。
起き上がる気配がない。
「伊吹?」
私は伊吹の顔を覗き込んだ。
「うわっ」
伊吹は泡を吹いて倒れてた。
「これから伊吹の名前は泡吹にしよう」
「そうだな。……って言ってる場合か!!」
◇◆◇
「で、伊吹を回復させるために私が呼ばれたと?」
柚木が言葉を呼んできた。
琴葉は不機嫌そうな顔で伊吹を一瞥してからため息をついた。
「ほっとこ?」
「いや駄目だろ。仮にも王弟だし」
「えー、元々死んでるじゃん」
確かに一回死んでるけどね?
それは琴葉も同じじゃない?
言わないけど。
「菜乃葉?」
背筋が凍るほどの冷たい気配を感じて私は振り向いた。
そこには笑顔だけど笑顔じゃないお姉ちゃんがいた。
終わった……。
「私の夫に何をしたのかしら?」
「えっと……。あ、これは伊吹が――」
私の頬スレスレで氷の塊が横切り、壁で弾けた。
当たった壁にはクレーターが……。
私達はそれを青い顔で見つめて冷や汗をかいた。
そうだった……。
お姉ちゃんは怒ると怖いんだ……。
「菜乃葉?言い訳や建前はいいの。あったことを素直に、正直に、話しなさい!」
「えっと、まず、伊里也とじゃんけんして騒いでて……。乗り込んできた伊吹に国語辞典渡されて、鼻で笑われ――」
「え?鼻で笑ってなんか」
「やめい!」
クソ、柚木の野郎!
余計なこと言うな!
「で……」
「柚木、続けて?」
「ちょっ!」
「菜乃葉?」
「ハイ……」
怖いよぉ……。
「伊吹は鼻で笑ってません」
おい柚木。
楽しそうだな。
覚えとけ。
「菜乃葉、手」
「ぐぅ……」
私はお姉様が差し伸べる手に自分の手を重ねた。
「痛い痛い痛い痛い」
「痛い痛い痛い痛い」
隣から柚木の声が聞こえてきた。
痛みで閉じそうになる目をこじ開けて声の方向を見ると、柚木がのたうち回ってた。
……え?
なんで?
「なんで俺までぇ!!」
「昨日伊吹をハリセンで殴ったよね?」
「いつもは見逃すくせにぃぃぃいい!理不尽だぁぁぁあああああ!」
お姉ちゃんからの激痛に開放された私は柚木に軽蔑の瞳を向けた。
えぇ……。
そんな幼稚なことしてたの?
「おいやめろ。軽蔑の瞳で俺を見るな」
「ぎょめん」
私と柚木の会話を見ていたお姉ちゃんは笑顔で圧をかけてきた。
さっさと琴葉と直せとな。
琴葉も素直に聞くつもりだろう。
さてと、ジゼルの姿になるかな。
私が意識すると、髪は白髪から金髪になり、目は青色から赤色に変わった。
ちなみにみんなは私がジゼルだと分かっているから驚かれる心配もない。
「琴葉、やるよ」
「あいよ」
「「回復魔法」」
私達が伊吹に向けて手のひらを向けて光魔法を使うと、伊吹の顔色はよくなっていた。
すっかり治った伊吹を起こすために、私達はハリセンを持った。
お姉ちゃんはソファーで紅茶を飲み始めた。
みんなで一斉に振り上げてハリセンで伊吹を起こした。
「起きてー」
「起きろぉぉぉおおお!」
「馬鹿野郎ぉぉぉおお!」
「喰らえぇぇぇぇええ!」
「うおぉぉぉぉぉおおお!」
「痛っ!痛い痛い痛い痛い!何何何何!?俺怪我人!!」
◇◆◇
「はぁ、はぁ、はぁ……。死ぬかと思った……」
「ハリセンごときで死ぬか馬鹿野郎」
「何のために凶器があると思ってんだ馬鹿野郎」
「ハリセンで人が殺せたらおもちゃ屋何かに置かねぇよ馬鹿野郎」
「うわぁ、琴葉も柚木も伊里也もひでぇ」
伊吹は疲れた表情でベッドから降りて、お姉ちゃんを睨んだ。
「てか……。止めろよ!」
「一応怒ったからいいじゃない。煽った伊吹も悪い」
「理不尽!」
「何か?」
「ナンデモアリマセン」
この中で一番権力持ってんのお姉ちゃんだよね。
そうだ。
「ねぇ、みんなで叩いて被ってじゃんけんぽんやろうよ」
「「「「「いいよ」」」」」
みんなは笑顔で頷いた。
円を作って叩きやすいように正座。
元々みんなでやりたかったから、ハリセンを六本用意してたんだよね。
さて、やるかな。
「「「「「「叩いて被ってじゃんけんぽん!」」」」」」
結果は伊吹の一人勝ち。
私は……。
いや、他のみんなも秒単位でハリセンを掴んで伊吹をぶん殴った。
「なんでだよっ!!!!」




