天津紬「一人で抱える苦しさ」
こんにちは!
アエテルナ・ライトエアーこと天津紬です!
この世界に転生してから約1000年経ちました!
そして先日、菜乃葉様とイアン様が過去へ旅立ちました!
私は変わらずに王宮で菜乃葉様に仕えておりましたが、菜乃葉様が留守の間は国王陛下と王妃様にお支えさせていただくことになっています!
――ガチャッ。
「こんにちは!琴葉様、柚木様!」
私が応接室のドアを開けて挨拶すると、机にうつ伏せている柚木様を発見した。
国王陛下が……。
机で死んでいらっしゃる……。
私は静かにドアを閉めた。
――ガタッ!ダダダダダダ!
「琴葉見てないか!?」
「ギャ――――!!」
◇◆◇
私は応接室で紅茶とお菓子を柚木様と食べながら話を聞いていた。
「……なるほど。つまり、琴葉様がまた行方不明と」
「研究室にもいなかったし、図書室にもいない……。俺の仕事は増えるし、琴葉の分の応接室も俺に回るし、探す手間も……」
「もういいです」
闇が垣間見えたわ。
にしても、琴葉様がいないね。
いないのは日常茶飯事だけど、研究室にも図書室もいないとなると心配なんだろう。
「では私が探してまいりますね」
「大丈夫か?」
「はい。きっと王宮にはいらっしゃるでしょうから」
私は柚木様に笑いかけた。
大丈夫。
だって私は琴葉様の居場所を知っているのだから。
「それでは失礼いたします」
「ああ、頼んだぞ」
私は応接室から出て、すぐに柚木様の執務室へ向かった。
そして、魔法で隠されているドアを開けて、地下に入った。
階段を下り、少し大きなドアを開けたそこには花畑が広がっていた。
少し進むと、案の定菜乃葉様が眠っていた石の上で膝を抱えている琴葉様がいた。
「琴葉様」
「……何?」
「またですか?」
「何か文句でも?」
「ありませんよ」
琴葉様は菜乃葉がいなくなってからずっとこんな調子だ。
よくここへ来て心を落ち着けては、柚木様や伊吹様、由梨奈様の前で無理して笑ってる。
そんなことしないで寂しいと言えばいいのに。
私は琴葉様の隣に座った。
「紬。手、繋いで」
珍しい。
そんなこと言うなんて。
私は差し出された手を優しく握った。
「これは、アエテルナ・ライトエアーではなく、天津紬からの言葉です」
「……」
「琴葉はさ、我慢しすぎなんだよ」
我慢することの辛さは私も痛いほど知っている。
だからこそ、琴葉に寄り添えるんだろうけど、前世があんなだったから余計に寄り添いたいって思うんだよね。
ずっと一人ぼっちで病室にいて、憧れの人にも会えずに……。
なんなら先を越されて。
孤独だった。
「紬……」
「どうしても寂しいなら、柚木とか伊吹に相談すればいいじゃん。一人で抱え込むことないんだよ」
アエテルナとして琴葉を見ていて、紬として思ったことだ。
一人で抱えるとろくなことない。
それは私が一番分かってる。
琴葉にはそんな思いをしてほしくない。
「なんでそんな悲しそうな顔してるの?」
「……なんでかな。いや、分かってる。私の昔話をしてもいい?」
琴葉は頷いた。
ここから話すのは、私の前世の話。
みんなに話した話とは少し違う場面の話。
「見せてあげますよ。私の過去を」
私は琴葉に催眠魔法をかけて、夢の中へいざなった。
◇◆◇
「紬ちゃん、点滴の時間よ」
「……」
私は本を読む手を止めて、腕を差し出した。
今、私が読んでいるのは奇跡の実話と呼ばれる二人の話。
言葉を失った病気の少女と、助かる可能性の少ない手術をしないと助からない少年の話。
タイトルは「思いをつなぐ文字」だ。
お母さんが少しでも私の心を軽くしようと買ってきた本だ。
分かってるんだよ。
助からないことは。
どれだけ調べてもこの病気が治った例はない。
看護師さんが用意した点滴の針が私の腕に埋まっていく。
この痛みにも慣れた。
「紬ちゃん、痛くはない?」
「……大丈夫です」
「そう、点滴が落ちきるときにまた来るわね」
そう言って看護師さんは出ていった。
病室から見える歩道を楽しそうに歩く、同い年くらいの女の子。
羨ましいな。
私も病院から出て、一度でいいから遊んでみたい。
「……」
私は落ちきった点滴を引き抜いて、病室から見つからないように出た。
人に見つからないように。
何とか外へ出ることができた私は、病院から少し離れた公園へと向かった。
葉桜になってるけど桜が綺麗だ。
「ゆっくーん!!ふゆくーん!!こっちこっち!!」
「待ってよ青衣〜!」
「ほら見て!葉桜が桜餅みたいできれい!」
「本当だ!」
小さな女の子たちが桜の周りを走り回って遊んでる。
楽しそう。
女の子が私にぶつかってきた。
あ、この子知ってる。
「花崎青衣……」
「え!私のこと知ってる?嬉しいなぁ!」
着飾れる女の子と着飾れない私。
運命なんてものはどうしようもない。
くだらない。
神様なんていない。
いたら、私を助けてくれるはずだもん。
神様がいれば、不幸な人なんていないはずなのに……。
「……お姉さん、泣いてるの?」
「泣いてないよ」
「嘘。だって、あなたの目は正直者だもん」
「……。わ、私は……」
あれ……?
視界がぼやけてきた……。
まずい……。
めまいもする。
私は倒れてしまった。
意識が飛びそう。
馬鹿なことをしたな、病院を抜け出すなんて。
「青衣!!もう!どこ行ってたのよ!」
「お母さん!お姉さんが……!」
「え?……っ!大丈夫ですか!?」
「和人!救急車を呼んで!」
「華恋?どうしたんだい?君!大丈夫か!?」
「和人!早くして!」
「分かった!」
少しずつ薄れていく意識の中、その人達の声が響いて聞こえた。
◇◆◇
病院で聞き慣れた心電図が波を打つ音。
私は目を開けた。
見慣れた天井。
「紬!!」
お母さんが私の顔を覗き込んできた。
怒ってる……?
手が温かいものに包まれている気がして、そちらに目を向けた。
お母さんが私の手を握っていた。
私は体を起こした。
「紬!なんで病院を抜け出したりなんて……」
「……」
「紬!!言いなさい!!」
「……っ!だ、だって私……っ!外に行きたかったの!!ずっとずっと病院で過ごして、外に友達もいない!……寂しかったの。お母さんは毎日お見舞いに来てくれるけど、物足りないの。誰かと遊びたかったの。勝手だって分かってる。だけど、何もできないまま死にたく……ないよ」
私が言うと、お母さんは目を見開いた。
「紬……知ってたの……?」
私は頷いた。
ずーっと前から知ってた。
この病気が治らないことも、全部知ってた。
だから、動き回ったら倒れて、最悪死ぬことも覚悟で病院を抜け出した。
「ごめんね、苦しんでるのに気づいてあげられなくて……」
お母さんは私を抱きしめた。
「言ってくれれば、先生にも相談したのに……。これからは素直になんでもいいなさいね」
「……うん、ごめんなさい。お母さん」
◇◆◇
「紬、準備できた?」
「うん、バッチリ!」
私は車椅子に座った。
今日は初めて学校に行く許可が降りた。
酸欠になったときのためにキャリーケースのような人工呼吸器を側に置くことで、発作が起きても大事にはならないだろうと先生が判断したからだ。
◇◆◇
一人で抱え込むと、できることもできなくなるし、人とも通じ合えない。
通じ合えないということは、その人を信頼してないのと同義。
それは相手も傷つくし、自分も傷つく。
自分の身や精神を犠牲にしてまでそんな事をする必要はない。
その時、そう思った。
「んっ……。紬……?」
「あ、起きましたか?ね、ろくな事にならないでしょ?」
琴葉様が体を起こして頭を抑えた。
「あれは……?」
「私の過去です」
「紬」
「はい?」
「…………何でもない」
私には分かりません。
どうして琴葉様は私を見て微笑んだのでしょう。
いいえ、本当は分かります。
あなたは、私にお礼を伝えたかったのでしょう。
――アエテ……紬!
――なんですか?
――…………何でもない!
本当にあなたたちは似ている。
琴葉様も、菜乃葉様も、本当に不器用な方々だ。
「琴葉!こんなとこにいたのか!」
「げっ!」
「愛する旦那様に『げっ!』とは何だ!さっさと公務を始めろ、このすっとこどっこいが!」
「ひっどぉい!」
「行くぞ」
「あっ!待ってよ〜!」
さてさて、琴葉様は無事に柚木様に本心を言えるのでしょうか。
私が知っているのはここまでです。
どうか、このまま幸せそうなみな様が見られますように。




