episode5 ハクサツ
「どうしてわかった?」
コート姿の男の頬から血が滲みでてくる。
銃を撃ったのはコート姿の男ではなく、先程ハンドガンを取り出すためにカウンターの下に視線を向けたランドであったのだ。
「足音が不自然なほどに静かなんだよ君は。」
「あぁ、そうか。日頃の癖なんだ。」
お互いに銃を向けながら話をする。
「流石、凄腕の銃士なだけわあるなランデ・トルーパー。噂以上だ。」
「君は殺し屋だろ?どこに雇われた?」
鋭い眼光でコート姿の男を睨みつける。
「あぁ、すまん。まだ自己紹介をしていなかったな。殺し屋のハクサツだ。残念ながら、雇い主は言えない。信用に関わるもんでね。」
「君がハクサツなのか。」
「おぉ、俺のことを知っているのか。」
「裏では有名だよ。凄腕の殺し屋だって。」
ランデは会話で相手の気を逸らしながら左手で後ろにある椅子に手をのばす。
「凄腕か、嬉しいもんだね。凄腕対決ってところかな。ところで、その左手でどうするつもりだい?バレないとでも思ったのかい?そうだとしたら心外だな。」
「どうやら俺は君のことをあまく見ていたようだ。」
椅子に向かっていた左手を元に戻す。
「相手をこの俺だ。小細工なんて意味が無い。」
「どうして、それほどの男が俺のことを狙うんだい?俺は、武器屋の店主として、銃を売っているだけなのに。どこかで恨みでもかったかな?」
その問いに少しの間をあけて、コート姿の男が答える。
「ランデはFor Moneyの一員だろ?」
その一言でランデは理解する。
「なるほど、仲間が君の雇い主の怒りをかったわけだ。」
「その通り。主の女に手を出したんだってさ。それで、主は怒り心頭。そいつとそいつの所属している組織を壊滅させるために俺らを雇ったってわけ。」
それを聞いたランデは納得したと同時に1つの疑問が頭をよぎる。
「ただ、1つわからないことがあるんだ。」
「何だい?」
「なぜ雇い主は君程の男をその怒らせたやつじゃなくて、俺のほうによこしたのかだ。憶測にはなるが、集められた殺し屋の中で君が1番腕がたつでしょ。」
「あぁ、それは、やつが主を怒らせたあと、姿を隠してね。見つからないんだ。俺は殺しのプロであって捜索のプロじゃない。捜索はその道のプロにませるさ。何より、For Moneyの中で1番戦闘能力が高く、凄腕の銃士と呼ばれているランデを俺以外に任せられないしね。」
「成程、そこまで評価されているのか、ありがたい。」
そこから、少しの静寂が店をつつんだ。
「まぁ、そんな訳だから、ここでランデを始末する。寂しいが、お別れだ。」
「そうだな。さようならだ。」
2人は互いに銃を突きつけ合い、静かに見つめ合っている。無音が2人を包む。まさにそれは音が無い真空がひろがっているようであった。
バンッ。
最初に引き金を引いたのはランデ・トルーパーであった。だが、その弾丸はハクサツの頬をかするだけであった。
ハクサツはランデの銃のおこりを見極め、弾丸を避けてみせたのだ。それは、人外の所業であった。
バンッ。
次に引き金を引いたのはハクサツ。だが、先程ハクサツが避けたようにランデもおこりをよんで避け、頬を掠めるほどしかできなかった。
2人とも人外の所業である。2人のよみと銃の腕は拮抗していると言っていいだろう。だが、かたや銃士かたや殺し屋。2人の銃の腕前が同じだとするならば、どちらが優勢かは、いわずともわかるであろう。
再び2人の間に静寂が生まれる。先程までの銃声はなかったかのように静かな店で先に動いたのはハクサツである、
ババンッ。
「ぐぅっ。」
銃を撃ったはずのハクサツが唸り声をあげた。
ハクサツの右手、銃を持っているその手から血が出ている。対するランデは無傷であった。
ランデは、ハクサツが撃つ瞬間、ハクサツの右手めがけて銃弾を撃ち込んだのだ。その不意打ちにハクラムは対応することができず右手を撃たれてしまい、そのせいで照準が狂い弾はランデとは別の方向にとんでいったのであった。
だが、ハクサツもタダで右手を撃たれた訳では無い。ランデの右肩に小型のナイフが突き刺さっていた。そう、ハクサツは銃を撃つ瞬間と同時にランデめがけて左手に隠し持っていた小型ナイフを投げたのであった。
ランデは右肩をハクサツは右手を負傷。
「やっぱり、強いなランデは、」
目の前の右肩を負傷している男に声をかける。
「正攻法では難しい。だから、奥の手を使わせてもらおう。」
プシュー。
ハクサツの足元から白い煙幕がモクモクと出てくる。
バンッバンッ。
ランデは煙幕に隠れられる前にと銃を撃ったが、その銃弾は空を切る。
たちまち店内は白い煙に包まれてしまった。
「どうして俺がハクサツと呼ばれているか知っているかい?」
バンッ。
声の方向に向けて弾を放つが、壁を傷つけるだけであった。
「白い煙の中で殺すからさ。この空間は俺の領域。何者も俺にはかなわない。ランデ、君でもだ。」
ランデの視界いには白しかうつらない。そこら中にあるはずの菓子もすべてが白く塗りつぶされたかのようである。
「これは、まずいな。」
耳をすませるが、足音すら聞こえない。白しか見えず音も聞こえない八方塞がりである。
「俺も奥の手を使うしかないな。」
ランデは静かに呼吸を整え、銃を両手で握る。そして、言葉にだす。自身のギフトの名を。
『銃の痕跡』
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