episode1 金好きな男
フラウスは世界有数の発展国である。だが、その分貧困の格差が大きいという問題を抱えていた。フラウスは大きくわけて3つに区分けできる。リート、ツトラ、アンデル。主要都市であるリートは栄えており、安全だが、そこから離れた場所に行けば行くほど危険になっていく。特にリートから1番離れた場所にあるアンデルはとても危険な場所として有名であった。
そんなフラウスの主要都市リートに存在している。リート国際航空は今日も色々な人々で溢れかえっていた。
肌の色も話す言語すらも違う人々の中に異様な空気をまとっている19歳の少年が人混みを掻き分け歩いている。
その少年の髪色は黒、瞳の色も黒、どこにでも居そうな装いをしていて、何も入っていない空の鞄を持っている。どこにでも居そうな少年。だが、少年のまとっている空気だけが異様であった。
その少年は歩いている。ただ、歩いている。どこか目的地がある訳でもない。ただ、人混みの中を歩いている。
だが、1つだけ他のもの達と違うことをしていた。
その少年は、前方向から歩いてきた女性と交差する時、カバンの中から、大胆に財布を抜き取る。普通ならば、絶対にバレるであろうその行為は何故か、誰にも気づかずにいた。
その後も少年は、財布を盗みまくる。
中年から、ヤンキーから、年寄りまでもから、少年が空港を出る時には、空だった鞄は盗んだ財布でいっぱいであった。
「大量だな。」
財布でいっぱいの鞄を見た少年は頬をあげる。
そして、少年は近場でタクシーをひろう。
「お客さん。どこまででしょうか?」
制帽を被った中年の男性がハンドルを握ったまま、少年に問いかけた。
「ツトラのサードランドまで。」
それを聞いたタクシー運転手は目を見開く。
「お客さん。あそこは危険ですよ。リートと隣り合わせのツトラのファーストランドと中央のセカンドランドまでなら、まだ大丈夫ですけど、荒くれ者たちが住んでいるアンデルと隣り合わせのサードランドは本当に危険ですよ。本当にいいんですか?」
ハンドルから手を離し、後部座席に座っている少年の目をみながら確認する。
「そこが目的地だから、問題ないさ。」
「本当に大丈夫なんですか?」
タクシー運転手が念をおすようにもう一度問いかける。
「問題ない。」
「わかりました。」
タクシー運転手はそう言うと、再びハンドルを握り、アクセルをふんだ。
タクシーはどんどんと進んでいく。初めは窓から人集りが見えていたが、進むにつれて、段々と人は少なくなっていった。
その間、タクシー運転手と少年の間には会話と呼ばれるものは発生しなかった。
タクシーが発進してから、2時間以上経った頃、タクシーが止まった。
「お客さん。ここが目的地のサードランドです。」
そう言って後ろを振り向いて見ると、そこには少年の姿は無かった。
「なっ!?」
タクシー運転手は何が起こったのか、わからなかった。
少年を乗せたリートからサードランドまで、どこか寄り道することなく、一直線でここまで来たのだ。降りれるはずがない。
唯一止まる瞬間があるとすれば、それは信号が赤の時だけだ。だが、そこで降りることは不可能のはずである。何故ならば、後部座席のドアは運転席にあるボタンを押して解除しなければ、ロックされたままであり、このボタン以外でロックを解除する術はないのだから。
運転手は1回タクシーを降り、後部座席のドアを開いて、後部座席をくまなく探したが、少年の髪の毛すらも見つけることはできなかったが、ただ1つ不思議な球状のようなものが浮いていた。だが、それに運転手が気づくことはなかった。
気味悪がった運転手は逃げるかのようにその場をタクシーで走り去っていく。
◆
ガチャ。
サードランドに1番近いアンデルであるアンデル-1に建っているボロい家のドアが開く。
扉の先にはソファーに座って、テレビを見ている金髪の男が待っていた。
「どうだった。ジョシュア。」
金髪の男は扉を開いた男に一瞥もせずに言葉を発する。
扉を開けたのは、財布を盗み、タクシーに乗っていたあの少年であった。
「知ってるだろ?」
鞄を開き、盗んだ財布を手に持つ。
「大量さ。」
そう笑いながら言う者の名は、ジョシュア・アンテロール。この物語の主人公にして、金が大好きな男である。
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