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第8話 魔法にもある〇場猫。

「うちの子と同じこと言うんだもんなー」


 ぼやく作業服姿のエルフを見て、


「……エルフ耳って、垂れるんだ」


 と、若者の一人が(つぶや)いた。


「オレは片親が人間だから、耳はあんまり動かないんだけどねー」


 そして律儀(りちぎ)に答える中年である。


「さあて、と。骨董品(こっとうひん)は動かなくなったから、これで安心して現代版を使えるね」


 今度は(ふた)つきコンテナを開けて、何かを取り出した。


「……ブルーシート?」

「……と、缶?」


 ガサガサ広げたブルーシートには、何かの回路を印刷した大きなフィルムが貼り付けてあった。


「なんかめっちゃ現代的」

「今はこれが主流。ブルーシートは日本のホムセンで調達した奴だけど」


 ブルーシートの四つ角に重石(おもし)を置き、それから少し離れたところに小さな真四角のシートを広げて、そちらの()(すみ)には缶を置く。


「じゃ、この小さいシートの上に、順番に一人ずつ立ってくれるかな」

「え、そっちじゃないの?」


 一人が指さしたのはブルーシートだった。そしてもう一人も


「魔法陣の上に立つんじゃないの?」


 と、首をかしげていた。


「ああ、魔法陣の中心に立つそれ、昔ちょっとだけ流行(はや)った方法なんだけどねえ……事故が起きまくったんで、使わなくなったんだよね」

「事故?」

「サークルの中に人を立たせるのって、外の干渉(かんしょう)から中の人を守るためなんだけどね。転送陣と一緒にしちゃったら、転送失敗した時に救助できなくて、死んじゃったんだよ」

「えっ」


 全く普通の調子で話すナオキと対照的(たいしょうてき)に、若者の顔色が悪くなった。

 しかしそこで話をやめないのが中年である。


「転送先の世界だけ指定するような雑な陣だとさ、転送ゲートが開く先に空気があるとは限らないんだよねー」

「は?」

「日本がある世界を考えてほしいんだけどさ。日本って、地球上にあるよね?」

「はあ」

「で、地球って太陽の周りをまわってる」

「はい」

「さらに言うと、太陽も銀河系の中を動いてる」

「……」

「その銀河系も、すごいスピードで動いてるわけで」

「……」

「その、すごいスピードで動いてる銀河系の中で回ってる太陽系の、さらにその周りを動いてる地球の上の、日本の特定の場所に偶然転送出来る確率って、考えたことある?」


 ナオキは作業しながら世間話のように話しているが、突っ立っている若者の表情はそれぞれ、無と恐怖とドン引きだった。


「……魔法でどうにかできるとかじゃ」


 これは無になっている若者。


「ちゃんと座標設定してあればできるけど、雑に『元居た世界』って指定した場合は、ねえ。宇宙のどこに行くかわからないんだよ」

「……もしかして、その場合って、宇宙空間に放り出されるとか」


 と、これは恐怖で顔が引きつってる若者。


「あたり。ついでに言うとサークル内には他の魔法を持ち込めないから、転送される人を保護する魔法はかけられないんだ。宇宙空間に吸い出されていく人を指をくわえて見ているしかなかったんだな、これが」

「うわぁ」

「こわっ」

「そういう失敗がいっぱいあって、今の安全な転送陣ができてるんだよ。で、回路のサークル内には立たせないっていうのが、安全な転送陣の基本になったんだねー」

「さらっと言ってるけど、どんだけ犠牲(ぎせい)(しゃ)出たんですかそれ……」


 と、これはドン引きしている若者が(つぶや)いた。


「軽く三桁はいたらしいね。でもほら、()()()ニュ()()()()()()()()()()()()()()()()でしょ?」

「なんですかそれ、こわっ」

「エルフの感覚って怖くね?」

「日本でも同じですからねー?安全マニュアル無視しちゃだめですよ?オレの仕事でも、マニュアル無視したら普通に感電したりするからねー」


 HAHAHA。

 笑って見せるナオキに引いている若者三人に、


「まあなんでも同じだわな。マニュアル無視して機械ン中に手ぇ突っ込んだら手が飛んじまった、なんてこともあるから、気ぃつけろよ」


 と、真顔の義父がとどめを刺した。

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