第5話 老朽設備は取り壊そう。
「なんかアワアワしてますけど」
言葉は出せないままだが、ザリオの顔色が明らかに悪くなっているのを、若者の一人が指摘した。
「まあそりゃーねー?」
ナオキの答えは軽かった。
「神官とか言ってたし、祭壇の主が潰されりゃ、そうなるわな」
と、義父。
「妖怪に騙されてたって理解したら、もっと衝撃が強そうですけどね」
「でも召喚ができるほど強ぇ妖怪なんだろ?」
「あ、この召喚陣はあれの力で作動してたわけじゃないですよ」
「えっ?」
声を上げたのは若者三人だった。
「なんだ、あいつ何の役にも立ってなかったんか」
年寄は極めて落ち着いたものである。
「あれの役目は、召喚に必要なエネルギーを取り出すための補助ってとこですかねえ。いてもいなくても、オレにとってはあんまり変わらないですね」
「て事ぁ、あいつらにとっては意味があったのか」
「多分?魔法回路を見る限りは、ですけどねー」
ナオキの目は床に向けられていた。
「この回路は異空間をちょっと引き込んで、引き込んだ空間そのものを壊してエネルギーに変えて、そのエネルギーで召喚を賄うタイプなんですけど、あの妖怪は最初の異空間を引き込む時に働いてたみたいですね」
「つまり、妖怪は車のスターターみてぇなもんか」
「イグニッションキー程度かな、でもまあそんなとこです。同じことができる仕組みがあれば、別にアレいらないんですよ」
さくっと潰したナニカについて、あっさりと不用品扱いする物言いである。そして
「あの妖怪がいなくても、召喚したり帰したりできるってことか?」
と、義父のほうも祭壇の主の扱いは軽かった。
「これで還すのは無理ですよ。この回路は目標座標を決める機能付いてないんで、還す先が指定できないです」
「ええええぇ!?」
若者のうち二人が叫んだ。
「還れないんですか!?」
「あ、この骨董品を使わなければ還れるから、大丈夫だよ」
「脅かさないでくださいよ!」
へたり込んだのは、安心したせいだろう。そんな若者には視線もくれず、
「あ、悪い悪い。さすがに型式が古すぎて、これは使う気にならないなー」
と、ナオキはへらりと笑いながら返した。
「知ってるんか?」
驚く様子もないのが義父である。
「はい。祖父さんの手伝いしてた頃に、祖父さんが古臭いとか何とか言ってたタイプですね。車で言うなら、T型フォードみたいな感じ?」
「初期の量産型ってことか」
「ですね。昔々、同族が大挙して世界を渡り始めた時期の代物……の、劣化コピーです、これ」
「なんでぇ、パチもんかい」
義父はつまらなさそうにフンと鼻を鳴らし,
「パチモンですねえ。改造したつもりなんだろうけど、性能下がってますねー」
アホの所業ですね、と言っているナオキのエルフ耳がピクピクしていた。
「でも召喚できるんだろ、有害じゃねえのかい」
「有害です。再生不能なレベルまで壊しておかないと、拙いですね」
「どうやって壊すんだ」
「バックホーでもあれば一発なんですけどねえ」
「なんだ、床の石をかっ剥いでおきゃ間に合うのか?」
「その下も含めて、できれば一部は粉砕したいですね」
そこまで言ってからようやく、ナオキが目を上げた。