第11話 お片付けは簡単に済ませます。
重機の稼働音はそれなりに響くものである。
ということは、つまり。
「なんだ、誰か来てたんか」
作業を終わらせて重機のエンジン音が消えた室内に、義父の声が響いた。
部屋への入り口にあたる階段のところに、武器を持った男が何人か押し掛けて、何もない空間を壁のように叩いていた。
中には剣で中空のなにかを斬ろうとしている者もいるが、何もないところで剣をはじき返されて、後ろにいた男の頭を切っていた。
「どうやら音を聞いて集まった兵隊みたいですよ」
「なんかコ汚ねえなあ」
体格が良く、脂でテカった顔は薄汚れたままで、服もおよそ清潔とは言えない連中だった。
「まあ、偉いさんだろう彼らがアレですからねえ」
ナオキが顎をしゃくった先には、まとめられて網をかけられている人間たちがいた。
「仕方ねえか。この部屋には入れねえんだな?」
「入口に防壁造りましたんで、入れませんよー」
「魔法でか」
「魔法で、ですね」
「魔法ってのは便利だなあ」
「ここは魔法の効きが良いですからねー」
「だったら部屋の外も防音すりゃよかったんじゃねえのか」
音が漏れなければ、人が集まってくることも無いのは道理だが。
「え、防壁一枚張るほうが楽なんで」
と、ナオキはやる気があんまりなかった。
「お義父さんとオレに害が無ければいいので、防音魔法も個人用を使ってますし。範囲魔法ってあんまり使わないんですよ」
「なんか理由あるのか?」
「日本で範囲魔法って使いにくいんですよ。個人用なら目立たないけど」
「そりゃそうか」
義父も納得した顔でうなずき、それから瓦礫の山に顎をしゃくった。
「ところでよ、これどうする。ここに積んどいて構わねえんか」
「捨てようがないので、積んでおくしかないかなあと。重要部品だけ廃棄すれば、装置も修理できませんし」
「捨てられるんなら、捨てたほうが良いんだな?」
「そうなんですけどねえ」
「さっき、宇宙にポイっと出来るとか言ってなかったか?」
「あ~、それ、緊急投棄として認められてはいるんですが、他の手段で装置の無効化ができちゃう状況でやると叱られるんですよ。」
「ダメか」
「ダメですね」
「残念だなあ」
かなり残念そうに言う義父に、ナオキが少し笑った。
「ま、ダメなもんは仕方ねえな。んで、重要部品はこいつだな」
ひしゃげた金属の筒を、義父が長靴の爪先でつついた。
「どうすんだ、これ」
「再現されないように、部品は溶かします」
「酸か?ここで使って、後始末、大丈夫か」
きょろきょろあたりを見回したところで、強酸を捨てられるような場所があるはずはない。
しかし、
「魔法で出来るんで」
と、ナオキは使い捨て手袋をした手で金属筒を掴みながら答えた。
「便利だなあ」
そう年寄が感心しているうちに、ナオキは若者を送り返す時に使ったシートのうち、小型のものをまた広げて、その上に金属筒を置く。
それから今度は小さな立方体のガラスを四隅に置き、それから立ち上がると、シートを底辺にしたピラミッドのてっぺんに当たる位置で、指をくるっと回した。
ボン、と軽い音がして、金属筒が揺れ、薄く煙が立ち上る。
「おしまいです」
「じゃあ、あとは帰っか。機材は洗ってからにしてえが、水はどっかから持って来れるか?」
「うーん、この近くにあれば。ちょっと探してみますねー」
首をかしげてから両手を使って宙に何かを書く美中年エルフも、その義父も、防壁の向こうで顔を真っ赤にしている連中のことはまったく気にしていなかった。