第10話 重機はどこでもお役立ち。
若者三人を順当に送り返したところで、ナオキは立ち上がり、ぐうっと腰を伸ばした。
「大丈夫か」
「何がです?」
「体力使うんじゃねえのか、それ」
腰をひねってゴキゴキ鳴らしているナオキに義父が声をかけたが、
「あ、起動魔力しか使ってないんで大丈夫です」
と、ナオキは平然としていた。
「あの妖怪がやってたこととほとんど同じ程度なんで、疲れるほどじゃないんですよ」
「ならいいけどな。あ、あいつら騒ぎそうだったから、ちっと静かにさせといた」
義父が顎をしゃくった先にいるのは、片隅にまとめられていたこの世界の人間たちだった。
五人ほどは口元にガムテープが貼られ、その中でも三人は手足に結束バンドで固定されている。後の者は呻いているか、意識を飛ばしているようだった。
「ありがとうございます。じゃ、バックホー呼びますか」
「おう」
ブルーシートを畳んでコンテナに収めた後、代わりに取り出したのはA4サイズの紙に印刷した何かだった。
「ちょっと低いんで、上も拡張しますねー」
「できるんか」
「バックホーが引っ掛からない高さが欲しいですし」
「それもそうだな」
風を起こして紙を天井に貼り付け、そこで風圧を上げる。
天井に貼りついていたはずの紙がふわりと上昇し、宙を舞った。
「器用なもんだな。あの紙に書いてあんのが、天井ぶち抜く回路か」
「天井はそのままですけど、ちょっと空間をゆがめてます」
「なんだ、えれぇことやってんな。これ、どのくらいもつんだ」
「一日くらいはこのままです。作業に支障は無いかなと」
「上をかっ剥ぐだけなら、半日もかかんねえわな」
「じゃ、転送しますね」
ぶわっと風が吹き荒れたあとの床の上には、国産メーカー製のミニ油圧シャベル機があった。
ミニと言っても、アームを自在に動かそうと思ったら、最初の天井の高さではどうにもならない程度のサイズがあるのだが、まあ良くある農家のバックホーである。
「そういや、この地下室でエンジン回して大丈夫か」
「大丈夫にするんで問題ないです」
「魔法さまさまだなあ」
「欲を言えば、バックホー自体も魔力で動くようにできると良かったんですけど」
「できねえんか」
「オレの腕じゃ無理ですねー。勿体ないけど軽油使うしかないです」
「燃料はうちの持ち出しだなあ」
喋りながら義父はさっさと座席に上がり、つけっぱなしになっていたキーを回していた。
「燃料代くらい貰っていきたいですね」
ディーゼルエンジンの轟きを聞きながら、ナオキがぼやく。
「あとで考えりゃいいさ。で、ナオキ君、この模様の付いた石とその下をかっ剥げばいいんだな?」
「あ、はい。できれば回路を再現できないように、一部は砕いてくれるとありがたいです」
「砕いても良いけどよ、いっそのこと、石の一部をうちに持ち帰っちゃどうだ?ようはそいつらが同じモンを作れないようにできりゃ、それで良いんだろ?」
「その手がありましたね。……いや、やめときましょう。何がくっついてるか分らないですし」
「ああ、そういや汚かったもんな」
ガン、とバケットが床に当たる音が響いた。
「ああそうだ、音を聞きつけて誰か来るかわかんねえから、警戒しててくれ」
「了解でーす、ついでに防音魔法もかけときますねー」
「耳栓がわりか、助かる。ここは狭くてうるせえからなあ」
部屋に転がっている現地人が排気ガスを浴びていようが騒音に悩まされようが気にしない、雑なエルフとその義父だった。
地下室で重機を動かすのもどうなのかと。