表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/12

第1話 お約束な召喚。

別の投稿サイトのコンテストに出そうと思って忘れてたものをサルベージしました。

他サイトにも掲載済み。加筆修正してあります。

 そこは、少し暗い感じはするが部屋全体を見て取るのに十分な光はある、10m四方ほどの部屋だった。


 床には薄青く光る多重円と、円に沿って並ぶ見たことのない文字。

 そして、床の模様の内側に立ってる普通の人が五人に、模様を囲んでいるコスプレのような恰好をした者が十数名。


「なあナオキ君、これ」


 のんびり言ったのは、普通の人の中でも一番年長に見える男性だった。


「うちの子が好きそうなシチュエーションですよねー」


 ナオキ君と呼ばれた中年男性が、緊張感のかけらもない口調で返す。


「異世界ものってやつか、これ?」

「芸の無いファンタジーでよくあるアレですよね」

「お約束通り、かねえ?」


 落ち着いて話している二人の声で、ぽかんとしていた残り三人が驚きから覚めたようだった。


「えっ、なにこれ」

「VRで寝落ちした!?」

「くっさ!臭うんだけど!」


 正気に返ったとたん、部屋の異臭に気が付いたのはご愁傷(しゅうしょう)(さま)である。


「あ~、この人らの臭いだろうねー」


 ナオキが模様の外にいる人間をあごでしゃくって見せた。


「生臭い?なにこれ?くっさぁ!」

「不潔臭だね。鼻、つまんでおくと良いよ」

「吐きそう」

「おえぇぇぇ」

「まともな(わけ)ぇのにゃ(つら)いだろ、これ」


 最高齢男性が、いかにも気の毒そうに言っていた。


「換気口があれば良いんだけどねえ」

「お、あれ空気通るんじゃねえの」


 天井にぽっかり空いた四角い孔を指さした。


「おー、お義父(とう)さんさすが。じゃ、ちょっくら換気しますか」


 ちょっと目をすがめてそちらを見たナオキが、うなずいた。


「そのままで出来るんかい?」

「できないです。擬装(ぎそう)解除(かいじょ)しますねー」


 ぱちりと指を一つ鳴らすと、ナオキが少し姿を変えた。


 短い黒髪は(つや)のある長めの金髪になり、先の尖った笹の葉状の少し長い耳が髪の下からのぞいている。こげ茶色だった瞳は青灰色に戻り、肌の色も少し薄れた。

 美中年であることには変わりないが、彫りの深い面立ちの日本人男性から、エルフ耳のファンタジー種族に変化した。


 ただし、服装は変わらないが。


「は……エルフ?」

「……エルフの作業着」


 驚いて目をかっ(ぴら)いたまま(つぶや)く若者がいるいっぽうで、


「なあ、いつもその色で構わないんじゃねえか?耳はともかくよ」


 お義父さんと呼ばれた男性は、その変化に驚く様子もなかった。


「えー、日本だと目立つじゃないですか?」

「耳さえ変えときゃ白人で通用するだろ。珍しかねぇよ」

「でも白人と間違われて外国語で話しかけられても、オレ判りませんもん。日本人ぽい色のほうが絶対楽ですって」

「そこかい」

「そこ重要です。そんじゃ換気っと」


 人差し指を一本立てて、くるくると回す。

 同時に、模様の外で風が吹き荒れ、立っていた人間を()ぎ倒した。


「なあ、ついでにあいつら洗ってやるわけにいかねぇんか」


 ぽかんと口を開けている若者三人に構わず、義父が倒れた人間を指さしてそんな事を言った。


「そーですねー、どうしようかな」

「あいつら服も体も汚ねぇだろうから、換気しただけじゃあ臭いは消えねぇだろ。今どきの(わけ)ぇ子には、この臭いはちっとつらいんじゃねえか?」


 臭すぎる、という話をもう一度するくらい、本気で臭かった。


「一回の迅速(じんそく)洗浄(せんじょう)で落ちる汚れじゃないですよ、あれ」

「なんだ実感(こも)ってんな?」

「そりゃー、ねえ?文明度の低い世界に呼ばれると、良くある話ですし?」

「長いこと風呂に入ってない奴なんか、珍しくないってか」

「シャワーも風呂も無くて、絞った布で体を拭くか水浴びするだけ、なんてのも割とありますね」

「俺が子供だった頃よりひでえなぁ」

「問答無用で他人を呼びつける連中なんて、民度も文明度も低いもんですよ」

「呼びつける技術はある癖に、風呂は無ぇなんてなあ。おかしなもんだ」

「ほんとそれです。じゃ、この辺で風、止めまーす」


 強風で立つこともできなかった人間の、風でバタバタ吹き飛ばされそうになっていた服が、床に落ちた。


「……なんすか今の!?」


 若者の一人がようやく声を出した。


「ん、魔法」

「は?」

「え?」

「やっぱVRで寝落ちしたってこと?」


 驚くだけの二人と、VRの中だと思いたい一人。

 なかなか、受け入れがたい現実であるようだった。

あるあるな召喚なので、エルフ婿は慣れきっております。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ