夜空
気がつくとそこは夜空であった。いきなり夜空が広がっていた。いや、いきなりというのもおかしいだろうか。そもそも私は先程布団に入って、夜に眠り始めたのだから、いきなり夜というのもしっくりこない。だがそれでもやはり「いきなり」といった表現でしか、今の私の語彙力ではほかに合点のいく伝え方はない。そんな感じである。所謂、満天の夜空である。今は丁度六月になって間もない、雨の日が続く時期のはずであるが、何となくこの空は七夕あたり、あるいは八月の夏の空のように思える。だがそれでいて、何となく九月の月見の時期の空のような少し寒いというか、涼しげな感じもあり、どうこの空を伝えて良いかよく分からない。おお、そう言えば満月である。これはおかしい。私が床につく前にベランダから見た空は、確かに曇っていた。月はおろか、星さえ殆ど見えていなかった。にもかかわらず、何故にこんなにもキレイな空なのだろう。
どこからともなく、ホトトギスの鳴き声が聞こえてきた。彼等は不思議と夜も鳴く。私はかつて何と下手くそな鳴き方をするウグイスなのだろうなどと思ったことがあり、その後ホトトギスが鳴き方が由来の名であることを知って、あれはウグイスの泣き損ないではなく、ホトトギスであったのかと気づいて笑ってしまったことがあった。確かにホトゥトゥ、ギスと鳴いて聞こえる。ホトトギスが鳴いているということは、うちの近所で良いのだろうか。正直こんな場所は見覚えがない。うちの前の畑などではなく、ここはどこかの丘のようだ。一面キレイな芝で、夜露もなく雨での泥濘もなく、虫が嫌いで服が汚れるのも嫌がる私が、特に躊躇なくこの芝の上に直に座っていられるというのも非常に不思議な状況だ。まるでそこは、絵画の中のような不純物のない世界であった。
よくマンガなどでこれは夢か、自身で気づく描写が見られるが、私はいまだかつてそのような経験は一度もない。この夢においても例外ではなく、私は夢か現実かなどという瑣末なことは考えることなく、ただただ、そのキレイな夜空をひたすらに眺めていたのであった。