5.渡航先でのきみたちのポストを用意してある-連れて行く人間を間引くことも出来るな-
全42話予定です
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「ところで、今後のあたしたちはどうするの? 研究はまだ道半ばだけど」
データの吸い出しがひと段落した頃に千歳が口を開く。
「渡航先でのきみたちのポストを用意してある」
スーツの男はそう返した。
「ポスト?」
恵美だ。その疑問に、
「実は、ここと同じような実験施設は我が国にもあるし、現在も実験は続いている。だが、どうしても[ロボット感]がぬぐえなくてね。聞けば、きみたちは相当なところまで研究が進んでいるそうじゃあないか」
そう言って嫌な視線を三人に向ける。
――まぁ、この数年でだいぶ進化はしたけどさ。
だが、それもすぐに元に戻って、
「予想では人体実験の有無を危惧しているのだと思うが?」
と返した。千歳がその言葉に頷くと、
「それについては心配いらない。こちらにいた時も相当の数が供されたようだが、我が国もその辺りについては手配済みだ。きみたちが必要としている実験に必要な種類を、必要な数だけ用意しよう。あぁ、そうそう、先ほどポストを用意している、と言ったが所長補佐、つまりは副所長の次に立場のある椅子だよ」
男はそこまで言うと一旦三人を見回し、
「本当を言えばね、今回の[保護]はきみたち三人が目的なのだよ。今現在の世界情勢は知っていると思うが、いずれこの国は[大陸の国々]に取り込まれるだろう。我々の軍も既に一部は撤退を始めている。そんな中、この施設に目が行った、そこで突出している三人に目が行った、そういう話なのだ」
――それだけ買ってもらえるのはありがたいが。
スーツの男は更に、研究者たち全員を連れて行く案もあったが、主要メンバーだけ連れて行った方がいいと判断した、とも言っていた。いずれ何かあった時の為の[保険]としてこの施設を残していくのだ、と。
「それならいっそ爆破していった方がいいんじゃあないの?」
恵美が作業をしながら口を出すと、
「きみたちには失礼だが[うす汚れた]部分をあえて残せば、のちのちの為になる、そう判断したんだ。それに[大陸の国々]も同様の研究はしていると聞く。どの道持っていかれるなら骨抜きにした状態で渡してやった方がいい、とね」
「何かめんどくさいのね。研究データが渡るって分かってるのにその芽を摘まないなんて」
千歳が同じくデータを吸い出しながらそう応える。
「色々なオプションを考慮に入れたうえでの判断だ。それ以上は私に言われても困る」
と返したその男は、
「ここまで話しておいて今更だが、この部屋はオフラインという事で間違いないか?」
と聞いてくる。
――おいおい、今更かよっ、てオレも言われなければ忘れてたけどさ。
カズが[この部屋は盗聴の類は無い、と理解している]と返すと、
「それは結構。では今からちょっとした物騒な話をしよう」
男の言う物騒な話。それは、三人以外はいざとなったら被検体にしてもいい、というものだった。要は[秘密を知っているが成果の上がらない]人間は殺すのでも、解放するのでもなく実験に使え、と。
「それは渡航先の人間についても同様だ。我々の研究所でも[使えない]ものは処分してもらって構わない。その為の所長補佐なのだから」
彼の言う所長補佐、それは実験の決定権も付与されているとの事だ。つまり、その気になれば気に入らない人間を全員実験に供することも出来る、彼はそう言っているのだ。
「どうしてそんな権限まで?」
と聞く千歳に、
「それだけきみたち三人を高く買っているという事だと理解してもらえれば」
と返って来る。
――ちっと待って。という事は、場合によっては都合よくこちらから連れて行く人間を間引くことも出来るな。
と考えた自分にカズは、驚愕した。
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