41.少数精鋭-お互いがお互いの情報を共有する事が求められた-
全42話です
明日(12/27)の第42話で完結になります。読んでくださって本当にありがとうございます!
続いて同じく明日(12/27)に次作である「レイドライバー 9 -隷属を望んだ者と、自分の家族を望む者は-」を寄稿したいと思います
次話の前書きと後書きにリンクを貼っておきます、もし引き続き読んでくださればとても嬉しいです!
それだけ第一世代を送り出した数年前とは、技術力が格段に上がっている。それは結果としてカズの行っている[人員整理]も関わっているとも考えられる。
カズは日本人の研究者を実験に使用しているのだ。もちろん、渡航先のこちら側の人間にもそれは行っている。
少数精鋭。
つまりはそういう事なのだ。そして研究者はお互いがお互いの情報を共有する事が求められた。
カズがいた日本の研究施設では、基本、自分の行っているセクション以外の研究には触れられなかった。それは[自分の研究だけして、他社の研究は必要時に立会いの下で行う]という所内取り決めがなされていたからだ。一見すると内部的なセキュリティー抜群のこのシステムも、実は重大な欠陥を抱えている。
それは第三者の意見が入らない、という事である。
誰しもがそうとは言わないが、人間、研究などという仕事にに没頭すればするほど周りが見えなくなるものである。そして周りが見えなくなれば、引いて見ていた時には出来ていた[気付き]という事も極端に減るのだ。
カズたちが渡航して、当時クリスチャンが所長だったのを千歳が引き継ぎ、研究はそれだけでずいぶんと進んだ。もちろんクリスチャンが無能、という訳ではない。それほどにカズ、千歳、襟坂の三人が特別だった、という事なのだ。
そして、何もかもが順調に進んでいたある日、それは起こった。
千歳が実験中、爆発事故に巻き込まれるという不運があったのだ。
今となっては何故そんな事故が起きたのか分からない。本人は[バキュームは入れていた]と言っていたが、それは機能していなかったのだ。彼女は両腕と、体表前面の皮膚を失う事になる。
治療の見込みが立たないまま、唯一の手段であった千歳をコアユニットにして実験に供するという手段が採られた。
そして、当時所長だった千歳からその座を譲り受けたカズは組織改革に舵を切っていったのである。
その一つが先の[人員整理]であり、カズがいないところでの非人道的な実験の禁止であったり、お互いにより情報共有する、という事なのだ。
お互いにより情報共有する、と一言でいうが、これは毎日の日課として日々の業務に取り入れられた。
毎日の朝にはそれぞれのセクションの人間が極力専門用語を使わずに他のセクションの人間がいる場で説明する、というものである。そして質問を受けるのだ。勿論その質問にも極力専門用語を使わずに説明して返す。
そうする事で研究所全体のポテンシャルが、千歳の時と比べても上がったのである。そしてそれは皆が皆の研究を知っている、つまりは不正の防止にもつながる。功を焦って研究データを捏造されては困るのだ。
実際にそういう例が無かったわけではない。もちろん不正にかかわった人間の末路は言うまでもなかろう。
ある時期までは一人、また一人と研究者は減っていった。当然政府からは[大丈夫なのか]と問われた事もあった。
だが、カズはこのやり方を曲げなかった。
毎日、職員全員が集められて時間をかけて昨日行った研究を発表しあう。そして研究成果が出ない、出せない人間は被検体として実験に供される。
それは研究者たちにとって相当プレッシャーだったであろう事は容易に想像がつく。実際に気がふれた研究者もいた。リボルバーで笑いながら自分の頭を打ち抜いた人間もいた。
それでもカズはこのやり方を曲げなかったのだ。
そうしていくうちに職員の人数は三分の二までになった。が、そこからが変わっていったのである。
それまであった、予定調和のような研究のスピードが一気に加速したのだ。それはある実験は直ぐに試験段階へと進み、実用段階まで持っていく。
第一世代のレイドライバー四体がロールアウトしたあと、その勢いは加速した。それは今でも続いている。なのでこんな短期間にコアユニットの廃止、自我のあるサブプロセッサーの生成、更には政府に[無人機]を検討させるに足るだけのデータまで用意したのだから。
現在、日本人の研究者はカズやゼロゼロを除く職員としての人数は二人だけ、である。もちろんカズが日本人を優先して被検体にしたのであろう事は想像に難くないのだが、それは一概にカズだけのせいには出来ない。
それほどに日本の研究のやり方がクローズドだったという事の証ともいえるのだ。自分のやっている研究は理解出来ても、それを伝える力に欠けていた。つまりはそれだけかみ砕いて説明出来なかったのである。
ちなみにその残った二人というのは、研究成果は出せていたので直ぐに、とは言わないもののやはりカズのやり方にガッチリハマることが出来ず、被検体に供出予定も検討されていた二人である。
だが、ここで政治的な話が出てくる。
カズと、今でいうところのゼロゼロ、チトセ。その三人以外の日本人がいなくなればどうなるか、という話だ。
その疑心は当然所長であるカズへと向かうのは必至である。誰だって所長権限は怖い。言葉は悪いが[誰でも、何でも好きに出来る]のだから。極論を言えばあの副所長のクリスチャンにさえ命を提供しろ、と迫ることが出来るのである。
しかしながらそれは、カズの目指すところではない。彼は何も人殺しが進んでしたい訳ではない。あくまで研究の加速、まだ見えていないその先を見たいだけなのだ。
しかしながら、そこに日本人研究者が三人、千歳は死亡扱いとはいえ生きているし生かし続けている。そして皆が友人関係となれば、表には決して出てこないとは思われるものの[カズは他の二人をえこひいきしているのではないか]という猜疑心が皆の心に生まれてもおかしくはない。
だが、これはカズにとって、いや研究にとってとても都合が悪い。放置すれば間違いなく研究の鈍化がみられ、最悪の場合は崩壊の危機だってある。
ではどうするか?
そこでカズはあえて二人残したのだ。もちろん前述のとおりそれなりに研究成果を出していた、という事実もある。だが、それよりも[組織の秩序]を優先して選んだのだ。
二人にはカズの言う事を絶対に守るように言ってある。
それが他の研究者を手に掛ける事であっても、自分の愛しき人間を手に掛ける事になってもだ。この秘密を守らせ、言う事をきかせる。何があってもカズの言う事に首を横に振る事は許されない。
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