4.その人物たちは唐突に訪れた-明日、荷物をまとめて飛行機で発ってもらう-
全42話予定です
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そんなある日、その人物たちは唐突に訪れた。
「あなた方は一体誰なんです?」
そのスーツの一団は研究所に来るなり[資料を出せ]と言ってきたのだ。この研究所は職員に対してだけでなく対外的にもセキュリティーはしっかりしているはずである。二十四時間態勢で警備がなされているし、実銃も携行している。
だが、その警備の人間も手が出せなかったのだ。それは当時の、日本と米国のパワーバランスを考えれば必然ともいえる。彼らは何の前触れもなくカズたちの前に現れ、
「重要なデータをいただく」
と言って研究所をあさり、上位者リストを手に入れて、その人物たちに[明日、荷物をまとめて飛行機で発ってもらう]という前述の言葉を言って回ったのだ。
「所長は何と?」
とカズは食いついてはみたものの、向こうからは、
「話はもう付いている」
と言われて会わせてももらえなかった。当然、拒否しようとも考えて行動に移そうとしたのだが、スーツの胸元から銃が見えた時に[すべては言っても無駄なんだな]と悟らせるほどには頭は回っていた。
「親や友人と最後に会話したいのだが」
ダメもとでカズはそう尋ねた記憶がある。
その回答は、
「このまま我々の手配した飛行機で発ってもらう」
つまり、ダメだという事である。
「研究所の職員と会話がしたいのだが」
と言ってみても、
「このまま我々の手配した飛行機で発ってもらう」
の一点張りである。
カズはこの時、千歳たちとはセクションが違うところで研究をしていた。千歳と恵美は同じセクションである。
――せめて千歳たちと話が出来れば。
そう思ったが、右手をスーツの胸元に入れながら[早くしたまえ]と言っている彼らの手前それは不可能な事は火を見るよりも明らかだ。
仕方なく研究資料をまとめていると、
「貴方がカズ、か?」
と問われる。カズが[そうだが]と答えると、
「ちょっとこちらに来い」
と言われて連れてこられた先、そこには千歳と恵美がいた。
「あれっ、二人はどういう……」
そこまでカズが口にした時、
「きみたちは特別だ。なので今から直ぐに支度をして研究資料と共に渡航してもらう」
スーツの男はそうカズたちに言い放ったのだ。
「ちょっと、ちょっと待ってください。少しは説明をしてもらえませんか?」
カズが思わず口を出す。
すると、
「きみたち三人はこの研究所の中でも特に優れている。それは日本政府も我々も認めているところなのだよ。ちなみに、ここ最近で友人や家族に連絡を取った人は?」
と聞かれた。三人とも[ここしばらくは連絡していない]と言うと、
「我々が日本から研究成果を持ち出そうとした段階で、日本政府の中にいる勘のいい連中が動いたようでね。きみたちの家族、友人は既に政府の監視下にある。言ってみれば[人質]という訳だ。残念ながらこちらとしても手は出せない。それは現在のお互いの国の関係が、形だけとはいえ保たれているからだ。逆に言うとそれだけの価値がきみたちにはある、という証拠にもなる。これで分かったね?」
とまで言われれば、黙って手を動かす他なくなる。
――形だけなら手を出すくらいの事は出来るはず。それをしないという事は、目的はやはりオレたちか。
カズはそう思いはしたが、それ以上の事が出来る訳もなく、黙って身辺整理を始めていた。
それは他の二人も同じようで、現にスーツの男がそう言い放ったあとは二人ともあきらめたようにパソコンに向かって作業を始めた。
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