20.ゼロゼロ置いていったでしょ?-少しだけ彼女と話をしたよ-
全42話予定です
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「そう、内陸の方にね。オレがいない間何かあった?」
そう聞くと、
「ゼロゼロ置いていったでしょ? 少しだけ彼女と話をしたよ。同じ学校の同級生だったんだね」
――おいおいおい、どこまで話したんだ? 秘匿事項だぞ。
カズが顔色を変えたのが分かったのか、
「あっ、そんなに深くは聞いてないよ。どこの出身か、とかは一切聞いてないよ、大丈夫。ただ、ゼロゼロってカズの事を話そうとする時、ちょっと嬉しそうなんだもん」
それはゼロゼロの[元]となった人物が深く関係している。
今でこそゼロゼロと呼ばれるその子というのが、襟坂恵美という、カズたちの同郷の娘だ。カズたちが県外の大学に行く、という事になった時に一緒についてきたという経緯がある。
実は恵美の事は、カズは高校時代に告白されたのを振っている。ので[一緒についていく]と言われた時はカズは戸惑ったものだ。
だが、
[もう気にしてないよ]
と言われ、その言葉を礎にして当時は[友達関係]が成り立っていた。
だが、本当のところはまだ未練がある、といったところだろう。何といっても県外の、一緒の大学の、それもカズと同じ学部に進学したのだから。
そこでカズと共に順調に進学し、直ぐには就職せずに二人とも大学院に行き、生体応用工学研究所に一緒に就職したのだ。
千歳も同じ研究所に就職したのだが、ここまで一緒だとやはりカズに想うところがある、そう思わざるおえない。
現に、恵美自ら第一号の自我を持ったサブプロセッサーになる事を望み、その身体は現在は冷凍保存されている。それは、きたるチトセ解放の際に自分の体を提供する、その為の冷凍保存なのだ。
[たとえ脳は千歳ちゃんになっても、きみが[好き]って言ってくれるのは私の躰なんだ]
当時の恵美は確かにそう言っていた。笑みを浮かべたまま、ボロボロ泣きながらそう言ったのだ。その心中たるや想像に難くないだろう。
そんなゼロゼロこと恵美はカズの事を楽し気に話したのであろう事は容易にわかる。
――ボロさえ出してなければ、いいか。
カズも恵美に引け目がある、とまで言わないものの、やはりそれに似た感情は有している。何と言ってもその経緯だ、同じ高校、大学、そして研究所。
おそらくは千歳という存在がいなかったら間違いなくカズは恵美と付き合っていただろう。
「そうか、話し相手になってもらっていたんだね」
カズが話を合わせる。
「うん、少しだけね。話してる途中でクレイグ准将が[お前たちは機密事項なんだから用が済んだら揚陸艦に戻れ]って」
――どこまで話したのやら。
「そうか。まぁ[こちら側]の人になったきみになら少しは話してもいいか。内陸にある生体応用工学研究所っていう古巣にね、行ってきたよ。研究所は既にもぬけの殻だったよ。で、一応爆破処理して東京に戻って首相たちと会談、現在に至る、と」
神崎の事は伏せておいた。余計な情報で相手の気持ちを揺らしてはいけない、そんな気になっていたのと、純粋に[神崎って人、誰なの]と聞かれるのが目に見えていたから。
「そっか、残念だったね。元居た場所なんでしょ?」
その質問に、
「いや、戻りたい場所ではないからね。それにオレは今、同盟連合の研究所で所長をしているんだ、いつまでも未練を残すわけにはいかない。っていうのもあるし、日本には悪いけどこれ以上の研究をされても困るんだ。だから爆破してきた」
実際にそうなのだ。それだけカズの中で生体応用工学研究所の存在は大きいのだ。
――三人で一緒に暮らした場所だからね。
そう思うカズの心中は、本音を言えば残しておきたい、といったところか。だが、前述のとおり、日本にはこの分野で研究を行ってもらっては困るのだ。
「これからあたしたちはどうするの?」
レイリアにそう聞かれたカズは、
「明日、明後日にはここを発つよ。休息も大事なんだけど、オレたちには時間がないんだ。一刻も早くアルカテイル基地に戻らないとね」
何と言っても七体のうち五体が日本に来ているのだから。
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