16.我々の作戦参謀が首相にお話がある-外交カードに使ったわけではない、と?-
全42話予定です
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「事情は先ほどのとおりです。ではこれでお開き、と言いたいところですが、我々の作戦参謀が首相にお話があるとの事で」
クレイグがカズの方を見る。
――いよいよか。こればっかりは避けて通れないもんなぁ。
カズはそう思いながら、
「紹介いただいたカズ大尉であります。ここでは触れにくいお話をさせて頂く事になりますがよろしいですか?」
と日本語で話す。
「名前から察してはいましたが、日本人なのですね。それで、どういったご用件で?」
一柳が応じると、
「この国にはある研究機関が存在していたはずです。生体応用工学研究所、名前はご存じですよね?」
カズは微笑みを浮かべながらも真っすぐ一柳の顔を見ている。
当の一柳は傍にいた秘書官と何事か話をしたあと、
「それについては、ノーコメントとお伝えしたはずですが」
想定通りの答えが返って来る。
その言葉に、
「ノーコメントの旨は伺っております。ですが、一部の研究者が渡航する際、その研究者の関係者が[保護]という名目で軟禁状態に置かれたと聞いております。その方々は今、どちらにおいでで?」
と言って返す。
そう問われた一柳はまたもや傍にいる秘書官と話をしたあと、
「それについては既に解放した、と聞いておりますが」
「では連絡も取れる、と?」
「ええ、皆さん普通に生活しているはずですが」
カズはこんな事もあろうと自分[たち]に関係したリストを作っていた。そのデータが入ったメモリーチップを日本側の秘書官に渡して、
「そこに入っている名簿に載っている人について、あなた方の[保護]対象に入っていないと確約して頂けますか? 面会制限や通信制限、行動制限なども一切受けないと確約して頂けますか?」
カズはやはり微笑みを絶やさない。あくまで冷静に、それでいて相手にはっきりと迫る、そんな口調だ。
――それが確約されない限りオレは帰られないんだよ。
一柳はディスプレイに表示された名簿のリストを秘書官と何事か話しながら見ていた。
そして、
「ここは正直に言いましょう。一部の人はまだこちらで[保護]しています。ですが、勘違いなさらないでください。それは、帝国が統治に来た時に危害が及ばないように、という目的で[保護]したのです」
という言葉に、
「決して外交カードに使ったわけではない、と?」
言葉を滑り込ませる。
「もちろん、もちろんですとも。決して外交カードに使ったわけではないですとも」
少しの動揺。だが、カズはそれを見逃さなかった。
「ではここで彼らと通信できますか?」
とつないだのだ。
これには一柳も、
「それは……」
言葉に詰まる。
そんな一柳に、
「私は人型のパイロットとしてもそうですが、研究者の代表としてもここに来たのです。解放が確約出来ない場合、少し状況が変わってきますので、ご了承願います」
カズはわざと日本語特有の、すごくぼやかした言い回しをする。だが、それは同属の日本人にはとても良く効いた。
現に、
「わ、分かりました。ここで話を反故にされては困る。今[保護]している人たちは全員解放しましょう」
「いつまでに?」
言葉に被せる。
「今晩には」
一柳は明らかに動揺していた。
「皆さん、お聞きいただけたでしょうか? 一柳首相は現在[保護]の名目で軟禁状態に置かれている人々を即日解放する、と言ってくださいました。これはとても大きなことです。何故なら、その安否を気にしている人間も多いからです。一国の首相の発言としてその決断に感謝します」
カズはわざと同盟連合の第一言語でそう話した。それはここにいる同盟連合の人間にも分かるように、という意味もあるし、玄関で挨拶したように一柳には理解出来るように、という意味合いも持つ。
「では一柳首相、よろしくお願いします。研究所の件についてはこれ以上の追及はしませんので」
どうやらここでの会話はカズに軍配が上がったようだ。
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