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+ 9 +  *side:ジュディ*

 副院長から貴族令嬢との相部屋を頼まれたのは、彼女…マージェリー修道女がやって来る一週間前のことだった。

修道院に来る前に、王都で問題を起こしたというのを聞いた。貴族学院の卒業パーティでのことらしい。詳しくは聞いてはいない。聞いたところで、意味もない事だから。

ただ、噂はどうしたって聞こえてくるもので、卒業パーティで誰かを負傷させたらしい、ということだった。

このステラ修道院は修道士や修道女への面会は基本的に無理だとされているためか戒律が厳しいという噂が異様に広がっている。

外から噂を持ち込むとするならば、稀に訪れる修道士や修道女の面会人、もしくは修道院で作っているチーズやワインなどを買い取っている商会の人間くらいだ。そして、新たにやってくるという令嬢の噂を持ち込めるような面会人はここしばらくなかったはずなので、ほぼ確実に商人だろう。

だからなのか私の聞いた噂というのはあくまでも断片的で、全貌は把握し切れていない印象だった。


 私は貴族のような特権階級にいた人と最初に必ず相部屋になるという、ちょっと変わった責任を請け負っている。

自分でも充分自覚していることだけど、私はあまり表情が変わらない。もっと言えば、常に不機嫌だと相手に思われてしまうような表情で固定してしまっている。

だから、初めて会う相手にはいつも「不機嫌なの?」とか「私のこと嫌い?」というようなことを聞かれる。

 つまり、私の態度…というか表情から、相手がどういう人物か人間性を推し量るような役目を担っている。

そういう意味では、マージェリー修道女は初めての人だった。私の表情を見て、ムッとした様子も見せないし、こちらの機嫌を見ている様子はあったけど、そのことを指摘することもなかった。

初日に修道院を案内しながら、一緒に過ごしてみた彼女の印象は、本当に問題行動を起こすような人物なのか? という疑問が浮かぶくらいには、接し易いし話し易いし、気遣いも感じられる所謂「いい人」だった。

 彼女からは私への嫌悪は一切感じられなかった。むしろ好意を感じるほどだった。

私の不機嫌に見える顔を気にしない人物なんて初めてで、戸惑ったのが本音だ。毎日彼女と過ごすうちに、正直に言ってしまえば、とても親しみを感じるようになった。ほんの数日で。

 彼女は誰もが見惚れるだろう華やかな容姿をしている。目鼻立ちはハッキリとしているから、遠目からもその美貌が分かる程。少々目力が強い印象がないこともないけど、顔立ちにキツイという印象は然程与えない。

多分その辺りは、彼女の表情のせいだと思う。性格も案外緩い部分があり、そのためか基本的ににこにこと笑っていることも手伝って親しみ易さを感じさせる。

だから、誰も彼女が無表情でいる場面を見たことがないだろうし、彼女に対し冷たい印象もないはずだ。

他の修道女に彼女の印象を訊ねたことがあるが、「ほがらか」「にこやか」「案外抜けてる」「気さく」と、比較的力が抜けた、でも決して悪い印象は与えていない。

 そんな彼女は、自身の容姿を誇ることもなく、他の修道女達を下に見ることもないし、何より平民である私に対しても身分のことを口にすることすらない。いや、寧ろ彼女は「私は貴族じゃない」と口にしていた。

 今回のマージェリー修道女との居室の相部屋は、彼女が起こした問題の大きさもあり、私と言うリトマス試験紙的な立場の人間への接し方を見るという、ある意味このステラ修道院での彼女の立場を見極めるためのもの。

そして、私の彼女への印象としては、人として親しみ易い人物であり、友人として好ましい人物、という評価になった。

彼女が孤児院の奉仕を任されるようになり、接する時間は大幅に減ったけど、彼女が奉仕から戻り、自分のための時間を孤児院の子供達の為にかなり費やしている様子を目の当たりにしている。

そして、それら一つ一つが全て子供達へ向けられた純粋な動機で、彼女との会話はほぼ子供達のことで埋め尽くされているという現実もある。

彼女が子供好きだということもそこから窺うことが出来る。それでも、私に対し気遣いの言葉や労いの言葉を掛けてくれる。


 以前に何度も経験しているけど、私と相部屋となった貴族出身の令嬢達は、ほぼ確実に第一印象から私に対して悪い印象しか持たない。それだけなら、話をしていくうちに解消されることもたまにはある。でも、基本的には私のことを侮って、最終的にこの修道院よりももっと厳しい修道院に移されることもあったし、元の家に戻されることもよくあった。

 この場に留まり、修道女として奉仕している人達は穏やかな人柄ばかりになる。そういう人が残るようにしているわけではないはずだけど、この修道院の院長が決めた私の役割は、案外人を振り分けるためのもののようだ、と気付いたのはいつだったか。

そうと気付いてから、この修道院の修道女達が穏やかな気質の人が多いことにも頷けたし、それと同時にこの修道院が外で言われているような厳しい場所ではないことにも、理解は出来た。

とにかく、院長の決めたことだから、私は気に留めることもない。というより、気に留めてもどうしようもない。だから、まぁ…粛々と今後も、私のこの不機嫌な表情に見える無表情な顔を、ここへやって来るであろう貴族階級の令嬢や御夫人に見せ続けることになると思う。

 叶うなら、マージェリー修道女のような少し風変わりな、でも楽しい人と出会えればいいと思う。

私自身は、孤児院で育ちそのまま修道女になったけれど、この場所がいつまでも私の家であってほしいと思うから、やっぱり一緒に過ごして心地よいと思える人が家族同様になってほしいと思う。だから、私はこのまま不機嫌顔を続けていくと思う。

でも、少しだけ。マージェリー修道女に言われたことがある。


『ジュディ修道女は、笑うととっても可愛いのよ。そんな顔を神様にも見て頂きたいわ』


 嬉しい言葉だった。私が今二十歳だから、間違いなく彼女は年下。私よりも年下なのに…お姉さんみたいだな、と思った言葉だった。

お読みいただきありがとうございます(*^^)


初めて主人公視点ではない回です。

マージェリーと同室の修道女のジュディですが、マージェリーが「初めての修道院を快適に過ごすための助っ人」みたいな予想は実は違ったよ、という話でした。

次回からはまた主人公視点に戻ります。

本当は他の登場人物の視点も入れられるといいな、と思ってます。修道院の関係者とか、孤児院の子供達とか。

だいたいはマージェリーが振り回したり振り回されたりする年下男子になると思いますけども。


気付いたらブックマーク登録してくださってる方が地味に増えてて驚きました。

ありがとうございます! どれだけ確かめてないんだか…(笑)


次回もよろしくお願いします<(_ _)>

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