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 翌日、孤児院の朝食の準備から始まり、洗濯をし、部屋の掃除もそれぞれの先輩修道女がこなしていく。私も先輩達について回って手伝っていく。一人で出来るようになるために、頑張って追いかけている。

昼食が終わり、午後の勉強の時間になる。

 女の子達の針仕事の勉強は、得意な子は楽し気だけど、苦手になりかけている子にとっては、かなりツライ時間になるだろうというのも分かっているから、そういう子に私は付きっきりで、分からないところや、苦手な部分、そういうところを助けていく。すると、コツが掴めてきたのか、どうしてもうまく縫えなかったところがちゃんと縫えるようになったし、そうなると一人でも大丈夫になっていった。

 ある程度皆が出来るようになったところで、昨夜作っていた袋とは別の、自分用のものを私も皆と同じように作るためにパッチワークした生地を取り出し、作ることにした。

子供達に興味を持ってほしいというのもあるし、同じ物でも違ったもののようにもなるというのを見せたかったから。それに、将来大人になった時に、着れなくなった服から使える部分だけを集めてパッチワークにすれば、予想以上に可愛らしいものが出来ることも、知っていれば布を色々変化させることが出来る。そういう思惑もあって、女の子の針仕事を教えている先輩に許可を貰って、私も作ることにしたわけ。


 子供達は私が取り出したパッチワークにまず目を惹かれたようだった。自分の作業もしながら、私の手元に目がチラチラとしているのが分かるから。正直面白かった。

先輩修道女がそんな子供達の様子に笑いながら、休憩にしますよ、と声を掛けた。すると、子供達は私のところに集まってくる。

年長の女の子だけだから、三人しかいないけど。


「修道女様、この布はどうしてこんなふうに縫い合わせてるんですか?」

「あら、いい質問ね。実はね、この布は私が子供の頃にお気に入りだったシャツを小さく切って、縫い合わせて作ったものなの。小さな頃は剣術や体術の時間に着ていた服を汚してしまって、洗っても使えないなんてことが多かったの。汚れたところは少しだけど、服として着るには問題があったから、そういう服を汚れたところだけ切り取って捨てて、後はこうやって生地を切り取って別のものに生まれ変わるようにしているの」

「修道女様のような…服がたくさんある人達ばかりじゃないと思います」

「そうね。でも、少し考えてみてね。将来結婚して、子供が生まれたと想像して。子供達は元気いっぱいよね?

そんな子供達が服を汚したり、破ったりして着れなくなることもあるわ。それらを捨ててしまっては勿体ないわよね? 何年かそういう布を溜めて、こういう形で改めて端切れを一つの布にして、何かを作れば…素敵じゃない?」


 私は昨日ジュディにあげた袋を借りてきていたから、それを子供達に見せた。端切れとして使った生地は小花だったり、大ぶりな薔薇だったり、女子なら好物! って感じの柄ばかりを集めたものにしていた。

すると、子供達はわっと歓声を上げた。


「これ、すごく可愛いです!」

「ありがとう。でも、あなた達が作ってる袋と同じものよ?」

「え? あ、本当だ! 生地が違うだけでこんなに変わるなんて…」

「あなた達だってこれくらい作れるわ。だから、針仕事がんばって覚えていきましょうね」

「はい! 私がんばる!」

「私だってがんばるわ!」

「私も負けないから!」

「大丈夫。今のみんななら、絶対に上手に作れるから」


 というわけで、年長の女の子達の掌握完了。その後は子供達の楽しく笑う声と、担当の修道女の嬉しそうな話し声が響く中で時間は終わった。

私? 私はしっかりもう一つ作り上げ…るのはちょっと難しかったので、中袋の概念だけ伝えたの。

それから、私が作りたい形も伝える。子供達の作っている袋に紐を付けることで、ポシェットのようにも出来るから、ポケットのない服を着る時には便利よ、と話したりして。

要するに、巾着袋に肩紐を付けたものになるのを見せただけ。子供達の作っている袋は底になる部分を裁たないように長方形に裁断し、半分に折り、左右の脇を縫っただけのもの。後は紐を縫い付けて、開いている部分から中に入れたものが落ちないように紐でぐるぐると巻いて閉じる仕様。

本当に簡易的な鞄…というか、袋。

これだとポケットのないスカートだと困るから、ポシェットみたいに出来ればいいなって。紐を調達するのも大変かもしれないけど、これも端切れがあれば、なんとかなるのよ。例えば、ズボンやスカートみたいなボトムだったら丈の長い生地が多いから、不要だったり着れなくなったそれらから細長く切って肩紐になるくらいの長さのものを数本作るの。麻紐は比較的安く手に入れられるから、麻紐数本を芯にして、切った布をらせん状に麻紐に巻きつけていくの。布のほつれ防止も兼ねて麻紐に巻きつける時に使うのは、この世界特有の糊。前世の接着剤みたいなもので、乾いてしまえば濡れても剥がれないし、手についても濡れてる間に手を洗えば問題もない。しっかり乾かせば布のほつれも気にならなくなる。というわけで、それを三本作ったら、今度は三つ編みをしていくの。そして、それを袋に縫い付ければ、立派な肩紐になるのよ。三つ編みにすることで、重い物を入れても肩への食い込みが少ないから負担感が減っていいのよね。

 子供達に作り方を簡単に伝えれば、一人でも出来そうと喜んでいた。


「あの…マージェリー修道女様、私は針仕事ってすごく苦手かもと思ってました。でも、思ったよりも楽しいって分かりました…だから、あの…。ありがとうございます!」

「本当? 良かったわ。苦手なものが楽しく感じられたなら、それは素敵なことだもの。どうしても難しいところは、得意な人に助けてもらえばいいのだし、がんばりましょうね」

「はい!」


 そして、私は年下の女の子達と時間を過ごすために、勉強を終えた後の僅かな休憩時間を狙って、皆のいる談話室へと向かった。そこでは小さな子供達に本の読み聞かせをしている先輩修道女の周りに子供達が集まっていて、楽しそうに物語に耳を傾けていた。一つの物語が終わったところで、男の子と女の子の間で、次に読んで欲しい物語についてケンカが始まってしまった。先輩修道女は一人だけが読み聞かせとしているだけで、他の先輩達は夕食の支度に洗濯ものを取り込んだり、他にもこまごまとした奉仕に忙しそうにしている。それなら、と私も読み聞かせするから手伝います、と先輩に伝えれば、男の子は先輩が、女の子は私が読み聞かせするということにして、女の子達を集めた。そして、何を聞きたいかを確かめていく。すると、やっぱりと言うかなんと言うか、女の子らしいお姫様の物語がいい、と。

 私は子供達が特にお気に入りだというお姫様が主人公の物語の本を手にした。そして、臨場感たっぷりに役者になったつもりで、読み進めれば、気付けば男の子達までこちらの話に聞き入っている状態に。

それに気付いたのは、読み終えた後だったのだけど、子供達みんな楽しめたみたいだったから問題はないわね。

 その後は子供達の自由時間。修道女達は夕食の準備。年上の子供達が年下の子供達の面倒をみている。そうやって大人になって親になった時に、役に立つことがあるのかも? なんて思いながら、私は…前世では結婚してなかったのでは? と思ったけれど…まぁそれは問題じゃないわね、と切り捨てたのだった。

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