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元気に走り出した子供達は、私の手を逃れるために四方八方へと逃げ出した。私はその中で一番足の速そうで、年上の子供に狙いを定める。確か名前はデリック。
私が今履いている靴はヒールのないフラットシューズだから、走るにはもってこいなのよ。迷いなく私が年上の…デリックを狙い定めたことで、幼い子供達は少し足を緩めながら逃げているし、私達の周りから距離を取りながら、こちらを見ている他の子供達もやっぱり足を止めはしないけど、でも私を気にしている。
そして、マージェリーの中の人こと私は、マージェリーが異様に足の速い子だったという事実に正直言えばガクブルですことよ! 瞬発力もすごいし、ちゃんと狙った少年の動きが見えてるの。動体視力も優れてるみたい。さすが辺境伯令嬢だわ、とマージェリーを褒めながら追いかけてる。
デリックもさすがに年齢が高いだけあって、速い。それに勝手知ったる孤児院の庭だから、こちらの理解の及ばない逃げ方もする。
背の低い垣根の向こう側には畑が広がっているのが見えるけど、その手前には小道があるなんて、孤児院側からは見えないから分からない。だから、私はそんな垣根を飛び越える選択肢は持ち得ない。でもデリックは軽く飛び越えて逃げてしまう。
私はなるほど、と思いながら違う方向へと走り込む。デリックが私の追撃を免れたと油断するか、それとも違う方向へと逃げていくかも確かめながら、別の子供を追う振りをする。
すると、デリックは慌てたようにこちらへ近付いてくる。
(なるほどね、自分が標的になるように他の子供達のことをさり気なく守ってるみたいね)
私はそんなデリックの心意気に酷く感心しながら、でも他の幼い子供達に声を掛けながら走っていく。もちろん、彼を追っていた時みたいには早く走らない。
遊ぶことが目的なのだから、小さな子供達もそれなりに楽しめないとダメだと思ってるから、捕まりそうで捕まらない、というのを楽しんでほしい。
デリックは私がおにだから、本当に近くに行くことが出来ない。でも、私が追いかけられる位置にはいるようにしているみたい。子供達との賭けは今の時間はちょっと忘れて、小さな子供達とのおいかけっこを楽しんでしまってる私がいる。
みんな元気に笑っているから。その笑顔に私が嬉しくなったから。
そんな小さな子供のうち、一番幼い子供…トビーだったと思うんだけど、石に躓いて倒れそうになった。私の手の届く範囲で。
迷いなくその子の手を引いて抱き込み、自分の体を反転させて、倒れるなら私だけ、子供のクッションに自分がなるように、と条件反射で動いていた。
そして、その通りに子供のクッションになった私は見事に地面にお尻をぶつけることになった。
「いたたたた、大丈夫だった? 痛いところなかった? 立てる?」
「う、うん…」
「どれどれ? 足は…うん、ケガをしてないね。腕も…大丈夫そう。どう? 触られてもいたくなかった?」
「うん」
「良かった…。あ、今のはケガをしないためのものだから、捕まえたわけじゃないよ?」
「…う、ぅ……うぇ、うぇぇええん!」
「え? あわわ、だ、大丈夫? どうしたの? やっぱり痛いところがあった?」
「わーん、わあああん!」
私が助けた子供が突然泣き始めるから、私は慌ててしまったのだけど、その頃には子供達が集まってきていて、私達と同じようにしゃがみ込んでいた。
「大丈夫だよ、誰もケガしてないから。大丈夫」
そう言って、私の助けた子供を私がずーっと追いかけていたデリックが抱き上げて、慰めていた。
「こいつ…トビーの親がさ今みたいにこいつを庇ってケガして、亡くなってるんだ」
「あ…。そうなのね、つらいことを思い出しちゃったのね…」
「でも、あんたは悪くない。こいつを助けたんだし」
「だけど…泣かしちゃったのは、罪悪感しかないわ」
「…。さっきの、勝負のことだけど。トビーを助けてくれたからもうなしで。みんなもそれでいいよな?」
「うん! それでいいよ」
「俺も」
「ぼくも」
なんだか子供達に私は認められたらしい。なぜ?
「それにしても、あんたすごいな。ずっと俺のこと追いかけ続けてて、息が全然あがってない。俺でもちょっときつかったのに。その上で、さっきの動きもすごかったし」
「…えーっと、私言ったわよね? 辺境伯家に生まれたって。あのお父様の子供だからなんでしょうね。体力は異様にあるの。鍛えているお兄様達は当然もっとあるのだけど」
「……え? 貴族のお嬢様ってだけじゃ、なくて?」
「ええ。あ、でも私家を出てるから、もう貴族じゃないわ」
「いや、だって! そんな…綺麗な人だし、きっと……走るのも、続かないって思うじゃないか!」
私はデリックから言われた言葉を頭の中で反芻させてみて、首を傾げていた。
「顔はお母様譲りらしいから、まぁ…そうね、整ってるほうだと思うわ。それに、辺境伯家の人間だから、幼い頃から剣術も体術も習ってきてるし、普通の貴族の子息よりは体力があると思うわよ」
「…体力おばけかよ」
「ふふふ、褒めて頂けて光栄ですわ」
「やめろよ、もう…」
デリックがぐったりしたように、表情を失くしていくのを見ながら、にこにこと笑う私に、さっきまでぐずっていたトビーが私の方へと手を伸ばしてきた。
何も考えずに、その手に応えるように私はトビーへと腕を伸ばすと、トビーが私に抱っこをせがむように体を私のほうへと移してきた。
難なくトビーを抱き留めて、背中を優しく撫でていると、周囲の子供達の様子が変わったことに気付いた。
「どうしたの?」
「…お貴族様なのに、小さな子供の扱いに慣れてることにちょっと驚いてるんだと思う」
「そう? 小さな子は抱っこされるの好きよね」
「そりゃ…。それ以上に親がいない子供達だからな。そうやって抱き締めてもらえたら、嬉しいだろ」
「ふうん、そうなのね」
私は悪戯心がむくむくと湧いてきてしまって、でもきっと何も考えてなかったのだと思う。
トビーを抱っこしたまま、他の子供達を手招きをして、私の近くに集まってきてくれた子供達だけだったけど、片手でだけど、子供達を軽くハグしたの。
みんなビックリした顔をしてたわ。悪戯成功! って思うじゃない? 抱っこしてるトビーも笑ってるし。
トビーを下ろした後、他の子供達にもハグしたの。もちろん、みんなまとめてって感じにね。その時たまたまデリックもその輪の中にいたのね。あまり気にしてなかったんだけど。
そうしたら、デリックがすごく真っ赤になってて、顔がすごいことになってて私驚いちゃったわ。みんなはあまり気にしてなかったみたいだから、普段からすぐ赤くなるのかしら? なんてのん気に思ったくらいだったけど。
この後はもう男の子達の掌握は出来たから、次は女の子達だ! って女の子達が何をしているのか子供達に確かめてから、孤児院の中へと戻っていったの。
女の子達は、女の子らしいことばかりをするわけじゃないってことは知ってたけど、それでも女の子らしいことにも飢えていたりもするのよね。
がんばって女の子達とも仲良くするわよ!
お読みいただきありがとうございます。
暫くの間投稿をお休みします。
理由は、慣れない書き方をしたせいで、筆が進まない状況に陥ったから。
最初から書き直すことも含めて、一度見直しをする為に時間をちゃんと取ろうと思います。
この作品を見てくださってる方が幸いというかあまりいらっしゃらないので、ちょっと我儘をさせていただきます。
ブックマーク登録してくださっている方、評価してくださった方、ありがとうございます<(_ _)>
必ず戻ってくる気でいますし、書きたい気持ちは萎えてないので、完結マークが打てるようがんばります。
お待たせしてしまうと思いますが、お待ちいただける場合は、そのままブックマーク登録をしていただけると嬉しいです。
よろしくお願いします<(_ _)>
⁑ ⁑ ⁑ ⁑ ⁑
1~6話の修正を終えたので、少し楽になりました。
続きも修正入れながら、まだ書けていない先の展開を…頭抱えつつ書いてます。
がんばります…。