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そう言えば、と思うような出来事…というか記憶というか、やっぱりか、と思うことがあったの。
実は私が転生したみたいって軽く思うに留めてたわけだけど、あれ…本格的に転生、しかも異世界への転生ってのをしちゃったのね、と思える具体的な記憶が私の中から出てきたの。
「そう言えば、マージェリーってエクルストン公爵の御子息が好きだったわね。…なーんだかマージェリーじゃなくて私に記憶がある気がするのよ」
って呟いた時だった。婚約者がステファニー様で、元の婚約者がアントニア様。そこまで名前が出てくると分かってしまったの。
「あらあらあら? 確かアントニア様はアーヴィン様に殺害されてなかったかしら? ん? でも、今アントニア様と言えば養子に入られたお義兄様とご結婚されて…る、あらあら?」
私の前世の記憶にウェブ小説で読んだであろう物語の流れがしっかり入っていたことに気付いたわけ。それと同時に、アントニア様が今も御健在で元気だというのは、あの日の…卒業パーティで聞こえてきた話で知っていた。何より、アーヴィン様と貴族学院に入学するよりも前に婚約を解消されてたという事実を、マージェリーが一番重く受け止めていたわけだから、そこに気付くべきだったと今頃思ったけど。
つまり、私は本当に異世界に転生したと考えるべきなのだと気付いた瞬間でもあった。
でも……私の中にマージェリーが眠っているような、そんな感覚は間違いなくある。ということは、マージェリーがいずれ目覚めれば、私とマージェリーは人格統合がされるってことかしら? うーん…それはそれでいいけど、マージェリー大丈夫かしら? まぁその時にならなくちゃ分からないか。未来の私に丸投げしましょう。
そうして私はマージェリー・マクニールという貴族の令嬢だった人物へ転生したことを把握した。そしてもっと言うなら、私が前世で読んだウェブ小説の世界だろうということも把握した。把握したけど。だけどね?
私がそのウェブ小説に転生したのは百歩譲って良しとするけど、マージェリーなんて令嬢、登場すらしてなかった。辺境伯令嬢なんて言葉すらなかった! どういうこと?
確かにマージェリーがあの小説のヒーローに想いを寄せていて、ヒロインに手を出しちゃったのも記憶にあるから理解はする。でもね? それって本来アントニアがすることなのに、どうしてマージェリーがしてるの? どういうこと? なんだかよく分からない…。
と、ともかく。現時点でマージェリーがあの小説とは違って悪役令嬢的な立場になって、その結果断罪されて修道院に送られた ← 今ココ って感じなのね?
実際、今ココって状況なわけだし、ハッキリ言ってしまえば…前世で日本人だった記憶があるから、貴族としての振る舞いだとかマナーだとか、マージェリーが体に覚え込ませた部分については、私も完璧に振舞えるみたいなんだけど、考え方とか思考回路とか、そっちは受け付けない。理解は出来ても私がそういう考え方とか出来そうもないっていう結論は出てる。というわけだから、私としては修道院での生活に対して、あまり不満はないかしら。というか…思ったよりも楽しい、わね。
同室のジュディも不機嫌顔なだけで、素直で可愛らしい人だし、話し掛ければちゃんとそれに返してくれるし。副院長様も優しい方だって分かってるし。他の…元貴族らしい人達も案外優しい方達だったし、何も問題はなさそう。
そういう日々を送り、まだまだ下っ端社員的な気分で過ごしていた。でも、とうとう私にも担当すべき仕事…えーっと訂正訂正、奉仕の機会が与えられたの。
実はこの修道院、辺境の地ということや二十年前まで隣国が戦争をしていて、難民として隣国から逃れてくる人達が多かったこともあって、否応なく戦争孤児なんて子供達もいたものだから、孤児院が併設されているの。
正直、私が前世でしていた仕事って、保育士だったのか教師だったのか、子供に関わる仕事だったような気がしてる。本当記憶が完全に思い出せなくて、虫食い状態なのには困ったものだわ。
ともかく、私は親を亡くした子供達、親に捨てられた子供達のお世話をすることになったの。孤児院の子供達相手の奉仕ってことね。
正直言うと、私の天職だと思えたわ。
だって、子供達みんな可愛いんだもの。…でもまぁ、子供達に受け入れてもらうのに少し工夫は必要だったけれど。
⁑ ⁑ ⁑ ⁑ ⁑
「初めまして、マージェリー修道女です。今日から皆さんのお世話をすることになりました。よろしくお願いしますね」
私は孤児院の院長をされていて直属の上司となるコンスタンス修道女と一緒に子供達の前で挨拶をしたの。子供達ったら、まるで反応がなかった。正直私舐められてるのねって思った。まぁ、一緒に働くことになる先輩修道女の数人もいたというのに、彼女達には子供達は親し気に接するのに、私には「こいつ誰? 胡散臭い」みたいな目を向けてきたし。
まぁ、仕方ないかなって思うけど。
子供達も一応自己紹介をしてくれた。子供達は全員で十五人。男の子が八人、女の子が七人。
小さな子は少しおどおどとした様子だったり、こちらへの不安な様子を見せながら、大きな子達はあからさまに不信感のような表情を隠しもしなった。
年齢の低い順にトビー(男)四歳、エイミー(女)五歳、ヘレン(女)五歳、ハリー(男)六歳、ジェフ(男)八歳、ジャッキー(女)十歳、ギル(男)十一歳、ケイト(女)十二歳、サム(男)十三歳、ダレル(男)十三歳、ポリー(女)十四歳、オーレリア(女)十五歳、ヴィヴィアン(女)十五歳、アレン(男)十五歳、デリック(男)十六歳。
私に向ける視線には信頼できる大人かどうかを見極めるためのものだったのかも。子供達にとって必要なことなんだって思う。
信じてきた親に捨てられた子供達は特に。親と死に別れた子供達は、その後に接してきた大人達の態度で充分に大人への信頼感も薄いだろうって想像出来るし。
私は元々…マージェリーよりも年上だったという記憶はある。だから、子供達の相手をするのに大人対応が求められる…なーんてことは、思っちゃいけない。ハッキリ言えば、暫く子供達は私の様子を見ていたの。私が彼らにとって有用な人間か、信頼に足る人間か、要するに私を見極めるために。
だったら、私と言う人間が君達と同じただの人間だって理解してもらえればいいや、ってそう考えたの。そう頭を切り替えたら、後は早かったわ。
「コンスタンス院長様、子供達と一緒に遊んできてもよろしいでしょうか?」
「ええ、もちろん! 子供達のことお願いするわね」
「はい!」
という許可を取った後、ちょうど子供達が遊ぶ時間に入るところだったから、手っ取り早く男の子達についていった。
男の子達が遊ぶとなれば、ほぼほぼ体力勝負の遊びが多い。そこは見ていてすぐに分かったのもそうだけど、前世だってそうだった。というわけで、前世での記憶を頼りに、気軽に遊べるものがないかと考えてたんだけど………。子供達の遊びって、眺めてるとやっぱりおいかけっこ的なのが一番手っ取り早いらしくて、現在も子供達が走り回ってる。
「そっか、おいかけっこはどこの世界線でも子供達にはお手軽で人気なのかな。…なわとびとか出来たら、変化もあって楽しそうなのに。あれなら女の子達も好きだったよね…」
なんて呟きつつ、他にも子供の頃よく遊んだものを色々考えていて、やっぱり手っ取り早い遊びのほうが子供達にはいいのかな、なんて思ったことで今日の時点では子供達に付き合うことにした。
幸いにも辺境伯家の人間だったというだけでも、実は体力おばけと言われるくらいには、このマージェリーには体力がある。実はこのお嬢様、幼い頃から最低限度の剣術と体術は習っていたようなの。その上で貴族令嬢としての作法も完璧だったのよ。ということは、知らず体幹を鍛えてる…というお嬢様だったわけでね?
修道院に来てからはおとなしくしてたから、ちょっと体力的に不安がないわけじゃないけれど、がんばるわ!
「ねぇ、私もまぜてもらってもいいかしら?」
「え?」
「は?」
「元お嬢様だろ? 俺達についてこれるわけないだろ?」
「あら、やってみなくちゃ分からないわよ?」
「へー。一緒に遊んでやってもいいけどさ、きっとすぐ疲れて走れなくなると思うぜ?」
「ふふん、だてに辺境伯の家に生まれてないわ。それなら勝負しましょ!」
「勝負!? よーし! それなら、俺達が一人でもあんたに捕まったらあんたの言うことを聞いてやるよ!」
「分かったわ。それじゃ…私が負けたら、あなた達とは関わらないようにすればいいかしら?」
「…とりあえずはそれでいいか。みんな、それでいいよな?」
「「「うん」」」
まぁ単純! なんて思いながら、私がおいかけっこのおにになるってことね。しかも一人でも捕まえることが出来ればいいみたい。
案外この子達紳士的だわって思った瞬間よ。だったら私も精一杯彼らの意思を尊重させていただこうって思ったの。
「私があなたたちを捕まえる役で、あなたたちが逃げる役ということでいいかしら?」
「ああ、それでいいぜ」
「それじゃ、開始!」
「逃げろー!」
「つかまるなー! にげろー!」
そうして子供達は走り出し、私も走り出したの。
お読みいただきありがとうございます。
サブタイトルの数字横に「+」を加えました。
単純に自分が数字をクリック&タップし辛いな、と思いながらずーっと放置してて、やっぱりこれ無理と思った結果です(^^;)
これで少しは楽になったかな、と。
それ以外の変更は特にはないです。