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本日は二話投稿します。その二話目です。

まだ43を読んでいない方はそちらからどうぞ。

 デリック父とデリック兄、デリックと私という並びで向かい合う形で、ローテーブルを挟んで三人掛けのソファに座った。

修道院の院長様だけが、一人掛け用のソファに座る。うん、クイズ番組の司会者的な? まぁどうでもいい感想だけども。


「今日はデリック聖騎士殿に、確かめたいことがあって面会を願ったんだが…。レーメル国については御存知か?」

「レーメル国は、私の生まれた国だと育ての親から聞いています」

「! それでは、そのレーメル国のオスマンサス公爵家については…何か聞き及んでいるだろうか?」

「先代の公爵閣下が、私の祖父だと聞いています」

「…そこも、知っておられたか」

「お父様…」

「ああ。そうだな…」


 デリック父の一つ一つ確かめるように問うことは、デリックが出自を知っているかどうか、なんだろう。そして、デリックはそれを隠すつもりもないようだ。状況的に今更、だしね。

それにしても、髪と瞳の色はまるで違うけど、デリックとデリック父は本当にそっくりだ。

デリック兄がデリック父に何やら促したけど、なんだろう? デリック兄がデリックを見据えて、一呼吸おいて、口を開いた。


「デリック。僕と君はこうして顔を合わせてみるとまるで似ていないけれど、僕達は双子なんだ。僕はお母様によく似ていて、デリックは間違いなくお父様に似ている。

もし、デリックが嫌でなければ…公爵家に来ては貰えないだろうか?」

「……公爵家に?」

「そう。君が本当なら僕と一緒に暮らし、生活するはずだった場所だよ」

「…それは、どういう意味で来て欲しいと?」

「叶うなら、一緒に暮らしたいと、そう思ってる」


 デリックは少しも表情を変えることもなく、デリック兄を見据えている。きっと面倒だな、とか行きたくない、とか考えているのだろう。

でも、心が揺れないはずはない。もし、公爵家に戻ることになれば、育ててくれたという人達ともまた頻繁に会えるだろうし、先代の公爵夫妻(祖父母)とも会えるわけだから。

少なくともデリックは育ての親のことを慕っている。今でも一年に一度だけど彼らが会いに来てくれている。その意味もちゃんと理解しているはずだから。


「無理ですね。私は聖騎士ですから、このステラ修道院から離れることはありません。それに、この場所が私の家でもありますから」

「…そ、うか。それは…残念だ」


にべもなくデリックが答えを返すから、デリック兄は少し俯いてしまった。私はデリックが自身の家族を拒絶してるのか、それともただ受け入れられないだけなのか、別の考えがあるのか、少し気になった。隣に座るデリックの腕を軽く突いてみる。

 私の方へ少し顔を向けたデリックが、いつもと変わらないにこやかな笑顔を見せた。


(…そっか、単純に受け付けてないだけかぁ。確かおじい様達のことはずっと知ってたんだもんね。それでも…実の父親に拒絶されてたのは気にしてない? どうなのかしら?)


 デリックはすぐデリック父やデリック兄に視線を戻す。また無表情になってしまうのは仕方ないことなのかな、と思いながらも私も目の前の二人に視線を戻した。

二人の関心は明らかにデリックに集まっている。こちらには一切視線が来ないから。それを考えると、私の立ち位置はデリックが万が一暴走しそうになったら、宥める役割ってことですかね? 院長様? チラリと院長様を見ると、私ににこりと笑ってくださる。なるほど、そうですか。

 内心、面倒臭い役を押し付けられちゃったのかしら? なんて思いながら、デリックの様子を見守ることにした。それに、支援のこともお聞きしたいしね。どういう意図があるのか。支援=刺繍作品の買い取り、の意味がよく分からないし!


 私達の誰が口を開いても、和やかな空気は自然発生しないな、と感じながらつい遠い目をしてしまいそうになるくらいには、沈黙で部屋が埋め尽くされそうになった頃、デリック父…オスマンサス卿がポツリと言葉を漏らした。


「もうずっと、後悔し続けていた」


 院長様が仰ってたことを思い出す。

『デリックのお父上はね、後悔されていらっしゃる』

私にとっては自業自得とも思えるけど、私…というかマージェリーにも身に覚えがある感情だと気付く。あぁ、そうか。院長様が私をそばに居るように言ったのは、デリック父のためか。


「デリックとサイラスを生んだ母親()は、二人の事を心から愛していた。…いや、今も愛しているはずだ」


ポツリポツリと言葉を紡ぐデリック父は、酷く苦しそうで、とても後悔しているのだと隠すこともなかった。少なくとも私にはそう見える。デリックは表情を揺らすことがまるでない。何を考えているのか私では分からない。でも、感情的にならないようにしているんだろうということは、分かる。


「彼女が、デリックのことを最期に口にしている。『私が傍にいられなくなるのだからちゃんと育てて、守ってあげて』と。

実際には、デリックを生んだために彼女が死んだと、そう思い込むことで自分の喪失感や………やり場のない怒りや、悲しさをぶつける対象にしただけ…だった」


その言葉は、確かに子供にとって身勝手だと思うし、自分のせいで母親が死んだと言われてしまえば、確かにそうなんだろうと思えるし、でも「だからどうしろと?」としか言えないし、相手の気持ちを慮ることも出来るけど、それは大人になった今だから言えることであって、子供の頃であればそんな思いは欠片も出てこない。寧ろ親に…下手をすれば兄にも蔑ろにされ続けることになったかもしれないのだから、恐怖しかない。もしくは絶望。

 そんなことが頭の中を駆け巡ってしまえば、デリックの置かれた状況が祖父母のおかげで、幾分かマシになったのだろうか、と思わないでもなかった。それでも、祖父母の許で暮らせる方法がなかったのか、と考えてはしまうけど。

 自分を厭うた相手の言葉に心を揺らす様子のないデリックを見て、なんとなく…幼い頃のデリックが見えるような気がした。

だから、だと思う。私はデリックの手にそっと自分の手を重ねていた。それに気付いたデリックが、こちらを見る。少し困ったような、でも嬉しそうな、やっぱり戸惑っているようにも見える顔を向けてくる。それから、小さく頷いたように見えた。そしてデリックが口を開いた。


「貴方が私の血の繋がった父親だということは、祖父母から聞いて知っています。ただ、兄という人の事はあまり聞いていないので、申し訳ありませんが知らないとしか…言えませんが」


 デリックは落ち着いた声で、ただ静かに言葉を紡いでいく。気付けば私の手を握るようにしている。


「今回の面会については、自分の家族だという人達を少しでも知れれば、それでいいと思いこの場に臨みました。そちらのご希望は、先程サイラス様が仰った件だけでしょうか?」


 淡々とした声は、いつもの明るく笑うデリックのそれとはまるで違っている。でも、デリック兄の声とよく似ている。兄弟は声が似るものなのだろう。

その時、握られている手に力が加わるのが分かった。そうなんだね、やっぱりデリックだって不安だよね。落ち着いているように見えるけど、不安を感じないわけない。私もデリックの手を握り返す。大丈夫という気持ちを伝えるために。


「ここへ来たのは、君達二人の婚約のこともあってだ。今の二人は貴族という立場ではないだろう? だから、せめて二人の後ろ盾になれたら、と考えてなんだ」


私は、最初に感じたことを思い返す。私の刺繍の支援のことは、これなのか、と。デリックも納得するところがあったようだ。私の刺繍師としての支援は、院長様からデリックにも伝えられていた。それの意味を図り兼ねていたから相談もしていた。こちらにとっては特に困るような状況にならないだろうし、今後も問題になることもないように感じられた。それでも、もし悪意があってのことであれば、遠くない未来で問題が起こるかもしれない。だから、デリック父の気持ちが知りたかった。

お読みいただきありがとうございます(*´꒳`*)


諸事情により、予約投稿をしているこの後の話のほとんどが軽い見直しも出来なくなるかもしれません。

いつもなら、出来る限り誤字とか誤字とか誤字とか見直してるんですけど、いつもより見落としが多くなりそうです。

誤字多いな、変換ミス多いな、と思われることが増える…かもしれませんが、脳内変換して読んでいただけると非常に助かります。


お盆を前に慌ただしくしてるのもありますが、お盆直後から一週間程自宅にいないので(予約投稿してるので、投稿は普通にあります)帰宅後も色々片付けでゴタゴタしそうです。

誤字とか色々やらかすの前提で話してますが、それは否定出来ないので、本当に申し訳ないですけども。

出先で見直す時間が取れれば、後書きで何か書くかもしれません。

…文明の利器ってすごいな。


そういうわけで読み辛い状況があるかと思いますが、よろしくお願いします<(_ _*)>

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