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+ 42 + *side:デリック実父* 2

「お父様! 僕には双子の弟がいたというのはお祖父様やお祖母様からお聞きしました。一体どういうことなんですか!?」


 ある時、所用で外出先から帰宅してすぐにサイラスに詰め寄られた。

ちょうど領地から両親が王都の屋敷に来ている。近く王宮で国王主催の夜会があるためだ。貴族は必ず参加しなくてはいけないものの一つのため、両親も領地から出てきている。

そんな両親が亡くなった妻のことをサイラスに請われ、どんな人だったのかを話していたそうだ。そのさい母がデリックのことをつい口にしてしまったらしい。


『可愛いお嫁さんだったあなたのお母様が、サイラス、あなたの次に生まれてきた子のっ』

『おい!』

『あ!』

『お祖母様、僕の次に生まれてきた子…というのは、どういうことでしょう?』

『あ、あのね。…あぁ、なんて言えば…』

『サイラス、お前ももう十歳だ。成人まで六年あるとは言っても、この国の公爵家嫡男として知っているべきだろう。今から大切な話をするから、ちゃんと聞きなさい』

『はい、お祖父様』


 両親は戸惑うばかりのサイラスに、母親がデリックを生んだ後、亡くなったことを伝えたそうだ。デリックという双子の弟がいるということも。そして、デリックが生きていることも。

これは、両親が私に突き付けてきたデリックを未だに厭うのなら容赦なく私を排除するという意味があるのだと理解した。

 私にはもうデリックを厭う理由がない。妻が大切に育んでほしいと望んだのは、サイラスだけではなくデリックもなのだと、今は分かっているのだから。

サイラスには自身が生まれて、母親が病気になり亡くなったと伝えていたため、今まで聞いていたことと違い驚いたようだ。

 両親の思いと、サイラスの気持ち、それに私自身の愚かさに酷く気持ちは沈みそうになったが、サイラスに全てを伝えることにした。あの頃の私がいかに愚かだったのか、そして妻を亡くしたことがどれだけ苦しく私を苛んだのか。

けれど、そのことが子供達の健やかな日々を奪ったことも、情けない親の姿を晒すことになると分かっていても、伝えた。今はそこを問う場面じゃない。

サイラスには、愚かな親の姿を見せることで、失くしてしまった家族を示すことが必要だと思ったからだ。

体面ばかり気にしていては、失うばかりで全てがダメになってしまうと、もう私は知っているから。

デリックがこの家にいないことがその最たるものだと、私はサイラスに伝えた。

 サイラスは、黙って最後まで聞いていた。けれど、時折鼻をすする様子があった。サイラスの顔を見ることが出来ず、俯いたまま情けない父親の姿を息子に晒しながらも、私は全てを伝えた。

私の弱さから、妻を失った原因をデリックのせいにしてしまったこと、そのために両親がデリックの命の危険を感じたこと、両親がデリックを手元で育てることすら危険だと思う程の私の荒れ様に私にはデリックが死んだと言ったこと、そしてすぐにデリックを育てられない今を後悔したこと、今は…デリックが生きていると分かって心から安堵していること。

何よりサイラスに弟がいて、二人きりの家族ではないということに、救われていること。

でも、デリックを家族として迎え入れられるか分からないこと。両親が…許してくれるのか。デリックが受け入れてくれるのか。だからと言って家族でいられないわけじゃない。いつかは、会えると信じていることもサイラスに伝えた。


「お父様…僕、は…、弟がいることが、嬉しいです。でも、お母様が…デリックを生んですぐに亡くなったことは……悲しい、です」


 押し黙ったまま話を聞いていたサイラスは、気付けば私と同じように俯いて、けれど、言葉を一つ一つ選ぶように話始めた。


「お父様の、お気持ちを…考えたら。デリックの…せいで、お母様が亡くなったのだと………思ってしまうのは、仕方ない…かも、しれません。でも! 僕は! それなら僕も!! デリックと同じく、お母様の命を奪った原因ではないのですか!?」


 サイラスの、最後の言葉は…悲鳴だと思った。サイラスもまた母親を亡くし、弟も失くし、そして私は…そんなサイラスを、大事に…してきただろうか? ああそうだ。サイラスだけを自分の子供だと考えたはずなのに、結局は妻だけしか考えていなかったのだと、今初めて気付いた。


「お母様が亡くなったのが、デリックのせいだというのなら、僕もその一因を担っているはずです。僕達は双子なのですから。二人がお母様の負担になったはずです」


 サイラスの言葉が私に刺さり続ける。


「それに、お父様は…僕を家族として認めて、公爵家に置いてはくれていますが……僕のことを、気に掛けてはいませんよね」


 返す言葉がないことに気付く。そんなはずない、と言葉にしようとしてその言葉を出すことが出来なかった。そんな私を真っ直ぐ見据えるサイラスは、ただ私を責めるでもなく、デリックを慮るでもなく、事実だけを告げているんだと、そう瞳で訴えてきた。


「いつだってお父様は、ご自分の部屋か執務室で過ごしてらした。僕と顔を合わせるのは食事の時くらい。特別なことでもない限りは、お父様と話すこともありません。今みたいに、時間を作っていただくことすら難しい。

家族らしい会話がどういうものなのか、僕は知りませんが…少なくとも、食事以外でも一緒に過ごす時間があるのが家族なんだろうと想像くらいは出来ます」


 そうだ。妻のことばかり考えて、サイラスとの時間も蔑ろにしてきたのだと、思い知らされた。

淡々と言葉を紡ぐサイラスは、どこか諦めにも似たものが見え隠れしていた。


「ですからお父様。僕はデリックを必ずこの家に連れ戻します。きっとお祖父様達はデリックの居場所を御存知です。でも、教えてはもらえませんでした」


 ああ、そうか。両親がサイラスにもデリックの居場所を伝えなかったのは、私に伝わることがないようにという配慮なのだろう。そして、サイラスは私が今もデリックを厭うていると考えているのかもしれない。

もうずっと両親からの信頼を失った状態なのだと理解するには充分だったし、サイラスの言葉からも…サイラスの信頼がないと理解するには充分過ぎた。


「お父様が屋敷にいない時も一緒に過ごす家族がいたら……と、思いますから」


 ただサイラスの本音だろうと思えた言葉は、サイラスも家族を求めていることに気付かせた。そして、その家族の中に私が存在しないのではないか、という事実にも。


「サイラス…。デリックにそれほど会いたいのか?」


その問いは自分自身へのものでもあった。どれほどデリックを厭い、遠ざけた事を悔いてきたのか。ありありと自身へと突き付ける問い。

サイラスは、小さくコクリと頷いた。


「そうか。……分かった。私もデリックに、謝りたいと思っている。だから…私も一緒に探そう。そして、デリックに会いに行こう」

「! 本当ですか!?」

「ああ、本当だ」

「あ、りがとう…ございます。お父様!」


 まだ十歳という小さな体を小刻みに震わせ、サイラスは俯き、声が震えないようにと堪えていた。


「サイラス。長い間、済まなかった。これからは、少しでも一緒に家族の時間を…取れるように、努力をするよ」

「…っ、はい!」


 デリックが生まれたことで、この家族はバラバラになった。私はずっとそう思っていた。けれど、実際にはそう考える私のせいで、この家族がバラバラになってしまったのだと、今頃気付いた。

サイラスが、どれだけ寂しさに耐えてきたのか、想像することも出来ない。デリックだって、家族を知らずに育っている。サイラスにもデリックにも同じように、辛くあたっていたのだと気付くのが、あまりに遅くなってしまった。

 謝ることしか出来ないけれど、それでも二人の父親として出来ることをしていくしかないから。

今は一番近くに居るサイラスのために、家族として、父親として、守っていかなくては。

昨日に引き続き、お読みいただきありがとうございます(*´꒳`*)


デリック父、実は後悔してたという。

そんでもって、デリック兄はまだ見ぬ弟に会いたくて仕方ない。

母さえ無事だったら、違ってたんだろうな、なお家事情でした。

そうなると、今頃マージェリーさんはどうなってたんだろうか。

…修道院のために身売りしてたかも。


ブックマーク登録、いいね、ありがとうございます:.* ♡(°´˘`°)/ ♡ *.:


次回もがんばります( ´ ▽ ` )ノ

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