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 刺繍の奉仕のために修道院側で用意してくれた部屋で一人過ごしている。

穏やかな日差しが降り注ぐ窓際に立ち、薄く窓を開けて少し冷たさの混じるようになった風を招き入れる。

風が室内を駆け抜けると一瞬で清涼な空気に切り替わったように感じる。そして、私は次の課題と決めた修道士棟に飾るための刺繍の図案を考え始めた。


 ゆるやかに日々が過ぎる中、私は相変わらず子供達と過ごし、時々刺繍で唸ったりストレス発散したりして、毎日が充実していた。その中にはデリックとの時間も僅かにあった。僅か、というところが私の中でのデリックの扱いが知れる、かも。ごめんね、デリック。

 そう言えば、最近のデリックはちょっと私に対する攻略方法を考えている…気がする。どうしよう?

私自身はデリックに対して、嫌だと感じているわけじゃない。もっと言うなら、多分好きになっているんだと思う。まだ引き返せる程度のものだけど。だから、今よりも距離を詰められると、あっさりと落ちてしまう、かも…しれない。

でも、マージェリーは違うみたい。

マージェリーとしての生き方というのかしら。そういうものが私の中にもちゃんとある。おかげで前世の私が前面に出てる状態だとしても、マージェリーとしての生き方とか考え方とかちゃんとあるから、そういうものが前世の記憶だけで色んな状況を判断するのを制止するのよ。

 マージェリーが修道院に入る意味をちゃんと受け止めていて、受け入れていて、自分の幸せが個人的な幸せであってはいけないと思ってるみたい。だから、私の気持ちよりもマージェリーの気持ちがどうも強く出てる気がするの。

『修道女になったのだから、結婚は有り得ない』このマージェリーの思いと、()の『結婚はしない』と基本的な意味は同じだから、デリックへの気持ちを育てる気がない。もし、マージェリーの思いが結婚に傾いてしまうようなことがあるなら、事情は変わると思うけど、今のところそれもなさそうだし、初志貫徹できそうだと思えるから、デリックとの婚約は悩みどころなんだけど。どうしましょう?

 デリックとの婚約のおかげで、私のことが修道院の枷にならずに済んだという事実があるから、今も安心して刺繍を刺していられるわけだけど。もし、デリックがいなかったら、いたとしても婚約なんて無理と言われていたら、きっと今頃私は自分を身売りした気がする。

…多分、それなりに好きに生きていく方法もなんとか見つけて、やり過ごせた気もする。でも、デリックは聖騎士で、そんなデリックとの婚約も当然のように成立してしまってる。


「私、本当にこのままでいいわけないわよね?」


 思わず独り言が零れ落ちる。うん、もうずっとこんなことを考えてる気がするけど、なるようにしかならないか、とも思うし。結局のところ、流されて生きてる気がする。

………仕方ないよね。だって、修道院守りたかったんだもん。自分一人のせいで、修道院に迷惑かけたくなかったし、修道院の院長様も孤児院の院長様も私がいなくなると困ると、直接的だったり婉曲だったりの違いはあっても言われちゃってるし。


「流されるままに結婚したら、私の気持ちはきっとないままなんだけど、デリックはそれでもいいのかな?」


 そんなことを言ってみるけど、これ政略結婚だと考えたら問題ないのかも、と思い至る。うん、それならそれでいいんだな、と。

そして修道院に残ることが出来るんだし、孤児院から離れることになるかもしれないけど、関わる手段がないわけじゃないと思う。刺繍を教えるとかね。奉仕として一日ずっと関わるのは無理でも、短時間だけならお手伝いとかありだと思うし! そうね、それなら問題ないわね。私としては!

 あー…マージェリーが問題だったのよね、そうよね。……やっぱりデリックに頑張ってもらうしかないのかしら?

とは言っても、私もデリックのことを好きになりかけてる自覚があるんだけど、別にこの気持ちを大きくしたいわけでもないのが問題かしら? あら? あらあら? 私ったらデリックの最大の壁はマージェリーだと思ってたけど、案外私自身も壁じゃない? だって、デリックのことを好きになってると気付いたのに、落ちる気がないんだもの。

……ま、デリック自身ががんばるしかないものね? がんばって、と言う以外何もかける言葉はないわね。ええ、そうね。なんだ、結局何も変わらないんだわ。ふふ、良かった。


「なるようにしかならないのよ、結局。だったら、マージェリー(彼女)にとって本意じゃないでしょうけど、問題ないわね。ということだから、流されていきましょう。カクラート(この世界の)神様の御心のままに」


 そして、私は考えることを放棄して、刺繍の図案を考えるためスケッチブックを取り出し、本や羽ペン、インク、様々な物の模写を始めた。


「次のモチーフは、どうぶつ達の暮らす森で借金(ローン)返しながら動物達を誑しこ…いやいや、仲良くなるゲームのアプリ(ポケット)版にしましょう。図書館の家具が素敵だったのよ。あれがいいと思うの」


なんてことを口にしながら、前世の記憶を思い出して懐かしくなる。課金してたなぁ、なんてことも思い出しながら。眼鏡かけた猫が可愛かったな、とかそういうことも思い出していたら笑いが零れた。


「前世の記憶をこういう形で生かすのは、問題ないわよね」


そうして私は初めて、模写ではなく、頭の中にある記憶だけを頼りに絵を描き進める。

それと同時に、自分自身の前世でどういう人間だったのか、やっぱりちゃんと思い出せないところが腑に落ちないままだった。


「どうでもいいことは思い出すのにね。不思議よね」


そう呟いてしまうのも仕方のないことだと思いながら。

お読みいただきありがとうございます(*´꒳`*)


ポ〇森でのんびり遊んでた頃が懐かしい…。

タブレットを新調したらそちらに引き継ぐ予定で今はお休みしてますが。まだまだやる気…(笑)

明日から夏休みですね。多分日本全国的に。…夏休みが早くに終わる場所に従姉妹がいるので、夏休みが短い地域があるのは知ってるんですけど。

それはともかく、最近の暑さが異様で、夏休みはもう少し長くてもいいのかも、とか思います。


ブックマーク登録、いいね、ありがとうございます(*˙˘˙*)ஐ

次回もがんばります( ´ ▽ ` )ノ

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