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 聖騎士デリックと婚約し私の生活は一変…するわけもなく、いつも通り孤児院で子供達と戯れる日々を過ごしている。

婚約に関しては当然のように家族である辺境伯家にも伝えていて、その事情も婚約前に伝えているし、今回の婚約もそもそも私を修道院から連れ出そうとする人間の対策だということも伝えている。

まぁ、伝えたのは私じゃなくて修道院の院長様なんだけど。詳細はそこで伝えてくださってるから、私の方は問題ないよ、大丈夫だよ、毎日元気だよ、なんてことを手紙で伝えるだけだった。

でもまぁ、実際そうだから問題ない。うん、問題ない!


「デリックがいくら公爵家の御子息だとしても、今は平民なわけだし…私もそうだし、万一本当に結婚なんてことになったとしても問題ないわね」


 つい、そんな言葉が零れる。

今はたった一人で子供達の服を洗濯したものを干しているところだった。日当たりのいい、けれど人目につかない孤児院の庭の隅。子供達も庭に出ている時間帯だけど、洗濯物を干すような場所では遊ばない。洗った物が子供達の遊びのせいで汚れるのも困るから。これは孤児院のお約束だ。

だから、今は一人。おかげで、私の言葉を拾う人間もいない。


「さて、全部干せたわね。それじゃ、洗い場の片付けを終わらせたら厨房に行って、手伝いましょう」


 独り言が多いのは、前世の私の癖だと思う。次の行動をついつい口に出しているところが。間違いがないように声に出しているのかしら? 癖ってどうしてそうしているのか分からないものよね。

 洗濯物を入れていた籠の持ち手へ手を伸ばして前へ屈みこんだ時だった。

背後に人の気配がした気がして、動きを止めた私の背中を覆うようにして洗濯籠を持ち上げた人物がいた。それが誰かなんて、見なくても分かる。

 私の背中に互いの着ている服越しにゆるく体温が伝わってくる。そんな風にするのは、基本的には子供達だけど、身長があまりに違うから誰かなんて考える余地がない。


「デリック…、驚くから背後から近付かないで。もし来るなら声を掛けてといつも言ってるでしょ?」

「あ、ごめん。ついねマージェリーの後ろ姿見つけたから、声掛ける前に近付いてしまったよ」

「…まぁいいわ。次から本当に気を付けて頂戴ね。でないと、拳を叩き込むわよ」

「了解。マージェリーの拳は…うん、痛いからね」


 片手を上げながら私から離れていくデリックのもう一つの手には、洗濯籠がある。私が洗い場へ戻るために歩き出せば、デリックも一緒についてくる。そして、肩が触れるくらいの距離感で一緒に歩く。

こんな調子でデリックは、何か理由を見つけては私の側にやって来る。そして、何かしら体が触れるようなことを多分故意にしてくる。だけど、それは一瞬のことで、あくまでも偶然そうなってしまった、となるようにしている気がする。

その事を私がデリックに指摘することはない。というか…指摘するのもちょっと自意識過剰って気もするし、婚約してから必要なことがない限りは殆ど手を繋ぐこともないし、もっと言うと抱き締められたり、キスされたりもない。そこは、カクラート教の教義にそうあるからだと思うけど。

 婚約したからって必要以上に触れ合ってはいけない、っていうようなね。慎み深くありなさいって言葉がとーっても効いていると思います、ええ。

貴族同士の婚約でも純潔が尊ばれるけど、そんなの目じゃないくらいに修道院の修道士や修道女はピュアな人が多いなと思います。

 そこは…意味合いの違いなんだろうな、と思う。

貴族同士の場合は、きっと血統の問題があるから。結婚前に婚前交渉があり子が出来てしまった場合、その子供が本当に正しい血筋の子供か怪しくなる、疑わしい、ということになるんじゃないかなぁ、って誰でも思う。そして、そんなふうに結婚を待てずにそういう行為をしてしまうというのは、やはり下衆な勘繰りをしちゃうからかなぁ? なんて思う訳で。

『本当に相手は結婚相手だけだったのか?』ってね。

 そういう意味では、本当にありがたい環境なわけですよ、この修道院にいられることが! デリックも同じ教義を信じる立場だから、互いに慎み深くあることを求められてる。多分、若い男の子なんで大変なのはデリックのほうだよね…。私からはアクションを起こすつもりはないし、それが正解なんだけど…申し訳ない気分に少しくらいはなる、かな。まぁ、建前としてね。本音としては、デリックのことはやっぱり弟でしかなくて。だから、距離感が近くてもあまり気にならないというか…。

多分、兄達が私のことを幼い頃からずっと構い倒していて、身内の距離の近さに慣れてるのも原因なのかも、とは思う。バザーの時にしか会えないから、今はそうでもないけど。修道院に入る前は常にハグなんて当たり前だったみたいだし。その感覚は私にも馴染んでしまってる。前世でもそういうことがあったのかも。身内とは言え、異性からのハグなんて普通はないものでしょ? 日本人の親元で生まれ育ったなら。

それなのに、違和感ないのだから…元々平気なのよ、私は。

 それはそうと、デリックとの関係は私にとっては異性とは言っても、身内感覚でしかないの。どうしたって自分の事とは思えないものだから、どうもダメね。デリックに毎日翻弄され続けるのも困るけど、ほどほどの距離感でいてくれるのは助かってる。私の気持ちがぶれないままでいられるから。

『結婚なんてするつもりない』という気持ちは欠片も変わりない。だからデリックに左右されたくない。叶うなら私は婚約を解消したい。でも、きっとそれは難しい。だから、多分デリックとはいつか結婚することになるんだろうと思う。


「…はぁ。孤児院から離れたくない」


 そんな言葉が漏れるのも仕方ないわよね。デリックにも聞こえていないみたいだし、問題ない。

幸いなのはこの本音が誰にも届いていない事。だけど、きっと子供達には気付かれていること。ただ、私の奉仕はきっと結婚をしてしまえば、全てなくなってしまう気がする。特に孤児院の奉仕は。刺繍は…奉仕としてすることはなくなっても続けることが出来るし、間違いなく続けていくと思う。だけど、孤児院のことは別だから。


「マージェリー、どうしたの?」

「孤児院から離れることになるんだったら、結婚したくないな…」

「一応、修道院の院長様とか孤児院の院長様とか、マージェリーが結婚後も孤児院に残れるようにお願いしてるんだけど」


 少し肩を落とし気味に、俯き加減でデリックが答える。私はただその言葉に驚く。私の気持ちをデリックもちゃんと分かってくれていたのだから。


「え! デリックったら院長様達にそんなお願いしてくれてるの? ありがとう! それだけでも嬉しい!!」

「そ、そうなんだ…。俺の努力も報われた気分だ。マージェリーの希望が叶うようにもっとがんばるよ!」


 照れ臭そうに、でもはにかむデリックに私の気持ちが揺れる。そう、揺れる。


「あはは! デリック可愛いなぁ。うん、可愛い!」

「あ。子供扱いやめてほしいんだけど」

「子供扱いしてないよ?」

「だって男に可愛いとか有り得ない!」

「ふふふ。そういうところが可愛いんだけどね」

「な!」


 自分の気持ちの揺れを自分に誤魔化すために、デリックの背中を何度も叩く。ただ笑って誤魔化す自分(彼女)がいることに気付いていながら、気付かない振りをするために。

痛がって文句を言い始めたデリックに、一層笑い声を大きくする。

()は私の気持ちすら受け入れられないでいる事実を、きっと見ない振りをする。それが、()()()()()()()()()()()だと感じている。…これは、多分私じゃない、マージェリーの思い。

きっと、私はデリックに絆される。案外簡単に絆される。そのブレーキ役がマージェリーなのかもしれない。


 デリック、君の恋は案外茨の道だね。がんばって。私が君に落ちるのは、案外簡単だったみたい。でも、マージェリーは君に落ちるつもりがないみたい。だから、この先きっとデリックがマージェリーを落とすのは本当に大変だよ。

 でも。私だって結婚するつもりなんてないんだけどな。…婚約を受け入れて、その先のことも仕方ないと受け入れた時点で負けだったんだろうけど。

…デリックを応援するつもりなんてないよ。例え私がデリックのことを焦がれるくらいに好きになるとしても。

マージェリーが、()()を傷付けた自分を許さないから。幸せになる権利なんてないって、思ってるから。

お読みいただきありがとうございます(*´꒳`*)


マージェリーさん葛藤の巻、という感じですね。

デリックがんばれー(棒読)


ブックマーク登録、評価、いいね、ありがとうございます(*˙˘˙*)ஐ


次回もがんばります( ´ ▽ ` )ノ

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