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 その日、朝から孤児院ではなく修道院の院長室へと呼ばれた私は、呼ばれる意味が分からないまま院長室へと辿り着いていた。


「何の用かしら? 特に問題なんて起こしてないし…。あ、刺繍の依頼とか? まぁ、聞いてみないと分からないから、とりあえずノックしましょう」


なんてことを小さな声で呟きつつ、院長室の扉をノックした。


「院長様、マージェリー修道女です」

「入りなさい」

「失礼いたします」


扉を開ければ、いつになく表情を硬くした院長様が一人用のソファに座っていて、院長様の左側の三人掛けソファには副院長様お二人も揃っていた。


(あれ? 何か非常に面倒なことでもあったのかしら?)


「朝から申し訳ないね。とりあえず、座って」

「はい」


 よく分からないけど、私は副院長様方と対面するソファに座った。そこでミアー副院長様がローテーブルの上に置かれたティーポットから紅茶をカップに注ぎ私へとカップを置いてくださり、院長様が口を開いた。


「前置きなしに用件を伝えよう。

実はね、ある貴族の方からなんだが…マージェリー修道女の刺繍の腕を買われたということでね、その貴族家のお抱えの刺繍師にとお話があったのだよ」

「……え?」

「要するに、マージェリー修道女を修道院からその方の家へとお迎えしたい、ということらしい。つまり還俗してほしいという申し出だね」

「…お抱えのお針子的な立場で、でしょうか?」

「まぁ…援助のようなものだと仰ってはいたんだが…。所謂画家や音楽家のような…」


院長様の言葉が途切れる。何やら言いにくいことだろうか? 言葉だけでなくやはり表情もあまり芳しくないように見えるし。そう思っていると、カード副院長様が口を開いた。

正直なところを言えば、修道院から出て生活することは、マージェリーが望んでいないし私も望んでいない。だから、非常に困惑している。でも、それは表情には出ない。


「院長様、代わりに私がお話をしますよ」

「あ、ああ」


院長様の代わりにカード副院長様が声を出された。それに院長様が応じる。


「マージェリー修道女、非常に良くない申し出だと思ってほしい。あなたを還俗させたいと声を掛けてきた貴族というのは、マクマホン侯爵家の御嫡男だ。

マクマホン侯爵家は芸術に関して秀でた者達を後援している家でね、多かれ少なかれ名の知れた芸術家は侯爵家と繋がりがあると言われているんだ。

そんな家の嫡男があなたを還俗させてまで侯爵家に置きたいということなんだ」

「…えっと、何が問題なのでしょう?」

「侯爵家には問題はないのだろうと思う。ただ、嫡男に問題がある。芸術家の卵達を支援する一方で、悪い噂が立っている」

「悪い噂とは?」

「私達のような信徒にとって避けたいような教義に反するような行い、と言えば…分かるんじゃないかな」


 とても言い辛いのだろうと思われる話があるのがよく分かる、カード副院長様だけでなく皆一様に表情が暗い。


「…あ、あー。分かりました。なんとなくですが、最悪のほうの噂を想定するほうが良い感じでしょうか?」


 私の考える最悪のものは、乱交パーティのようなもの。そこまでではないかもしれないけど、もしかしたら…女性達を侍らせて、なんてことも普通にあるのかもしれないな、と。…むしろそれ一択? もっと悪い?


「その認識で間違ってないよ。で、彼の嫡男はあなたの姿絵を見たことがあると口にしておられた」

「……ええ、それってもしかしなくても、刺繍の腕を見込まれてるっていうより私そのものを見込まれてる感じですかね」

「その認識で合っていると思う。だから、この申し出は受けて欲しくないというのが、私達の総意だ」

「まぁ、孤児院のこともありますし…申し出に関してはお断りしたいです」

「良かった…」


 カード副院長様の言う悪い噂というのは、所謂女癖の悪いって方向なのは確定でしょ。

話をしている間中、院長様も副院長のお二人もずっと暗い表情のまま、今も変わりない。ということは、お断り出来ない可能性でもあるのかしら?


「でも、まだ問題があってね」

「どのようなことでしょう?」

「あなたがもしこの申し出を断った場合には、マクマホン侯爵家からのステラ修道院への寄付を取りやめる、と言っているんだ」

「えっと、つまり院長様や副院長様方は私を守りたい、そう仰ってくださっているんですね。でも、寄付金が…多分決して少なくない額がなくなる可能性が、ということでもある?」

「……そういう、ことになる」


カード副院長様はとても苦しそうな顔をされた。なるほど、寄付金を取るか私を取るか、ってことですか。なるほどー。これはお父様案件ですね、ええ分かりますとも! 間違いなくお父様がしゃしゃり出て…いや、お母様かなぁ。うん、これはもうお二人に投げていい案件だなと思いますよー。


「それで、お返事は急ぐのでしょうか?」

「それは大丈夫。一月ほどの猶予をいただいているので」

「良かったです! それでは、私が辺境伯家に連絡させていただいていいでしょうか? 一応両親にも相談すべき案件かと思います。それにそれくらいの時間があるなら、きっと大丈夫だと思いますので」

「ああ、問題ないよ」

「それでは、一度戻りますね。両親から返事がありましたらまた院長様にお話に参ります」


 私が両親のことを口にしたからだろうか、院長様達の表情が少し硬さが取れた気がした。私はにっこり笑って礼をして院長室を後にした。


「なんてこったい! 変態野郎に目を付けられたのか、マージェリーさんは!」


 思わず口に出ちゃったよ。思わず周囲を何度も確かめてしまった…。周りに誰もいなくて良かった。

本当嫌になるー。マージェリーは美貌の母親似だから、この顔に一目惚れとかした人間がいてもおかしくないとは思うけどね。でもさー、修道女を還俗させようとかどうなのよ? しかも、むしろ愛人枠で囲おうとかってのが透けて見えるようなお誘いとかどうなのよ?

 非常に不愉快なので、お父様に泣きついてやる。お母様が本気出すと非常に怖い結果になるんだけどなぁ、あの人実家が公爵家だから。しかもお祖父様もお祖母様も御健在で母を育んだ人達なんで、色々激しいんだけどなぁ。まぁいいか。あの二人に丸投げしておけば問題ないよー。

 今日はこのまま両親に泣きつく手紙を書いて出す手配をしたら、すぐに孤児院に行かなくちゃ。ジーンがまだまだ私から離れたがらないから。でも、子供達がジーンのために色々気遣いをしてくれるようになったのが良かったのか、私と離れる時間があっても、大丈夫になってきている。

なんていうか…私の弟妹達すごくない!? もうね、可愛くて仕方ないの! 誇らしいわ。孤児院に行ったら皆の事褒めないとね。ふふふ。

 はっ。良くないわね。思わず酷くにやけた顔をしていたわね。きっと私のこと気持ち悪い奴って目で見られちゃうから気を付けなくちゃ…。


 この時の私は、私自身の未来があんなに変わることになるだなんて、想像も出来ていなかった。

お読みいただきありがとうございます(*´꒳`*)


マージェリーさんに問題が発生しました。

やり過ごすには面倒臭い感じがしないでもないですが、なんとかなりそうな感じで終わってますし、本人が全く気にしてなさそうな感じですね。

きっと人に丸投げして終了! って考えてるんでしょう。

それよりも一番の問題がジーンなので、気持ちはそちらが優先なんでしょうね。

マージェリーさんは自身が貴族ではなく平民になってると思ってますが、辺境伯家の家族とは仲良しなままなので、連絡をすることに躊躇いはありません。

その辺りは前世の感覚が大きいと思われます。


先日書いた〇〇メーカーのお題ですが、書けたので活動報告にUPしました。

興味がありましたら、覗いてみてください。

タイトルは「誘惑と言うよりは」です。


ブックマーク登録、いいね、ありがとうございます(*˙˘˙*)ஐ


次回もがんばります( ´ ▽ ` )ノ

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