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 副院長を見送ってから、扉を叩いた。部屋の中から返事があって、扉を開けた。

部屋の中に入り、副院長から聞かされた同室のジュディが私を出迎えてくれた。酷く不機嫌な表情で。


(これは、()()()が良すぎて歓迎されていないってところかしら?)


なんて予想が出来てしまうわけだけど、まぁそんなものよね、と私は思うだけだった。


「初めまして、マージェリー・マクニールと申します。今日からお世話になります。よろしくお願いいたします」

「私はジュディ。平民だから姓はないわ。言葉遣いもお貴族様みたいなのはやめてちょうだい。よろしくね。

私のベッドと机、クローゼットはこの部屋の扉を入って右側ね。あなたは左側。

早速だけど、修道服に着替えてね。ベッドの上に置いてあるからサイズが違い過ぎるなら変えないとダメだろうけど、大丈夫よね。荷物は、とりあえず今はクローゼットに入れておけばばいいわ」

「分かったわ。鞄はクローゼットに入れて、着替えるのね」

「ええ、そうね。着替え終わったら、修道院内を案内するから」

「ええ」


 私は不機嫌な顔のまま淡々と話をするジュディをなんとも不思議に思いながら、彼女の言うようにした。着替え終わると、部屋から出る。言葉通りにジュディは修道院内をちゃんと案内してくれた。

必要最低限度知っているべき場所だけ、というわけじゃなく…懇切丁寧に説明をしながら、案内してくれた。

 例えば、食堂は修道士と一緒になる場所の一つなわけだけど、基本的に修道士達と話をすることがないこととか、修道士と修道女では座る位置が決められていて、その辺りはかなり厳格なので間違えると、口煩い修道女から長い間「男好き」「やっぱり女を武器にしたがる」だのとない事ばかり言われるから絶対に注意するように、なんて具合に。

 他の場所も同じように避けるべきことを教えてくれた。だから思ったのよ。不機嫌に見えた表情は、もしかしたら、それが標準装備なだけとか、緊張のあまりそうなってしまうとか、何か理由があるのかも? って。

 全ての施設のことを教えてくれた後は、時間的に昼食時だったこともあり、ジュディと一緒に食堂で食事を取ることになった。

二人で仲良く並び、トレーに皿を取り、二人揃ってテーブルに着く。そして食事の前に手を合わせ祈る。そして、私は初めての修道院での食事を堪能した。あっさり薄味だけどよく煮込まれたスープは野菜からの旨味が味に深みを出していて、日本人の感覚を思い出した私にとって、非常においしいものだった。でも…貴族出身の修道士も修道女も、慣れるまでは不満ばかりという話。

そう言えば辺境伯家での食事はちょっと味付けが濃いものだったな、と思い出した。確かに体はそれに馴染んでいる気がする。でも、日本人だった記憶のある私としては、違ったみたい。食事内容に関して言えば、さすがに湖の島にあるだけあって、お魚がよく主菜として登場することも教えてもらった。ただね。


「出汁ほしい。醤油味が恋しい」


なーんてことになりそうな予感はするけど、濃い味付けは特に求めてないから、きっとこれはマージェリーじゃなくて良かったことなのかもしれない。あら、やっぱり私がここにいて正解だったわ。


 ⁑ ⁑ ⁑ ⁑ ⁑


 昼食後は、一日の奉仕の流れを教えてもらった。

起床後は、祈りの時間。その後に朝食。午前中は役職のない一般の修道士と修道女は掃除などの日常的な奉仕。それが終わると学問の時間。そして昼食を取り、それぞれの与えられている担当の奉仕をし、夕方の祈り、そして夕食。その後は居室へ戻って一日の汚れを落とすための沐浴の時間。祈りは全て礼拝堂で行われるけど、夜だけはそれぞれの居室で行う。その為、夜に修道院の時間を知らせる鐘ではない鐘が鳴らされる。その鐘の音が祈りの時間を知らせる合図になっている。

祈りが終わると、後は各自が自由になる時間がわずかにあって、手紙を書いたり、経典を読んだりと学ぶ人が多いのだとか。

 奉仕を全て出来るようになると、担当と呼ばれる自分の奉仕を受け持つことになるのね。私はどれくらいその誰でも出来る奉仕を続けることになるのか分からないけど、でも楽しそう。だって、機密事項が保管されている部屋でない限りは、基本的に掃除のためにあらゆる部屋に出入り自由だもの。あ、各修道女の居室は別ね。

…入り浸りたいのは図書室。カクラート教に関わる本しかないのは…想像に難くないけど、でもきっとね、宗教画はあると思う。なので、それを眺めたいなーなんて。

私は絵心なんてない。ただ見たままを写し取るように描くことだけは出来るけど。

絵を見ていると、それを刺繍したくなるという悪癖があるだけ。そこは…マージェリーと同じというのが…興味深い共通点よね。ま、手慰みに刺繍が出来る可能性! と思って、少しだけ刺繍糸や針、端切れを持ってきてるけど、それはそれ、これはこれ。

今は奉仕をがんばる時よね。というわけで、修道院の各部屋や割り振られる奉仕の内容をメモしながら、ジュディから教えてもらってる。

貴族の生活をしていた頃だと、ちょうどお茶の時間になるまで続けた後は、「一旦居室に戻って、少し休憩しよう」ってジュディが。

 彼女の表情を見ていて気付いたけど、不機嫌そうな顔が標準装備のようね。だったら、彼女の気持ちがどこにあるかは見て慣れるしかなさそうだから、迷うことなく彼女との距離は縮めましょう。ええ、そうしましょう。そのほうが絶対に楽しいわ。

 自分でもちょっと変なスイッチ入った気がしたけど、誰もそんなこと気付かないし、どうでもいいわね。

…そう言えば、こういう修道院ですべき事って、お勤めって…前世のお寺とかでなら言ったような言わないような気がするけど、ここでは奉仕なのね。面白いわ。


(つい()()って言いたくなるけど、気を付けましょう)

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