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本日は二話投稿します。

その一話目です。

 朝から慌ただしく孤児院で奉仕をしていた。バザーが終わり、前世で言えば夏休みの終わりの頃だった。

二日前に孤児院へやって来たばかりの七歳の男の子に手間を取られ、他の子供達との時間を大幅に削られてしまっていた。私自身は手間だとは思ってはいないけれど。

 男の子の名前は、ジーン。家族は年の離れた姉が一人だけだった。両親は幼い頃に流行り病で亡くなっている。両親が亡くなった後はしばらく父方の祖父母に育てられていたけど、その祖父母も亡くなり、その後は姉と二人で暮らしてきたそうだ。その姉が結婚することが決まったのが一年前のこと。姉の嫁ぎ先の家がこのステラ修道院の近くの街にあり、こちらへ来ることになったそう。嫁ぎ先の家で姉弟ははじめのうち親切にしてもらっていたけど、暫くすると姉の夫や夫の家族からジーンが蔑ろにされるようになったそうだ。

 それに気付いた姉が弟のジーンを守る為に庇うようになると暴力をふるわれるようになったそうだ。そんな暴力から身を挺してジーンを庇ったのは良かったものの、姉はそのさい負傷してしまい、それが原因で亡くなってしまった。それを切っ掛けに姉の夫とその家族は街の自警団に捕まり罪に問われたらしい。でも、ジーンは行き場もないため孤児院へ来ることになったという経緯を私は聞いていたのだけど…。

 ジーンの姉に私が似ているらしく、初日から私はジーンに懐かれてしまったことと、まだジーンが幼いことと、しかも身内を亡くしてすぐということもあり、他の子供達もジーンを気遣った結果…私がジーンの姉代わりに対応する形になってしまっていた。

 仕方ないこと、と思う状況ではあるものの…いつまでもこのままではいられないから、孤児院の院長様達とも相談しながら、しばらくはジーンに寄り添う形でいこう、という話になった。

そして今朝もジーンが私にしがみ付いたままで離れようともしなくて、ちょうどハグをしようと膝を床についたタイミングだった。孤児院の庭に面した掃き出し窓が突然に外から開けられ、湖を渡って来た風が部屋の中に流れ込む。

湖で冷やされた風は心地好さよりも肌寒さを呼ぶことがある。今朝はそんな風だった。けれど、窓の外は明るく、夏の陽射しで空気が既に熱気を孕み始めていた。北部の湖沼地帯はそろそろ空気に秋の気配が混じり始める。でも、陽の光が当たる場所はまだまだ夏が居座っている。

だから、窓から入って来た風が部屋の中の空気を冷やし過ぎたと感じて、そばにいたジーンをきゅっと抱き締めていた。そんなふうにジーンを気遣った時、私の耳が先日帰って来たばかりの聞きなれた声を拾った。


「やっと戻ってこれたよ…、孤児院にはなかなか来れなかったから」


抱き締めたジーンが私の修道服の袖をぎゅっと握り込んだことに気付いて、声の主を確かめるよりもジーンへと視線を移したところだった。突然腕を掴まれ、もっと近い位置でさっき聞こえた声が届いた。


「マージェリー修道女様、やっと話せます。これからは毎日でも会えますよ」

「!」


 私は声のほうへと顔を向けようとしたけれど、ジーンがその前に声を出した。


「ダメ! お姉ちゃんはあげない!」


 ジーンを見ると、酷く怒ったような顔で声の主だろう相手を威嚇しているようだった。何をそんなに威嚇しているのか私にはわからなくて、でも、そんなふうに他の人に対して感情を剝き出しにすることなんて一度もなかったジーンに、ちょっと安心しながらも…でもケンカになることはダメと伝えようとするけれど、出来なかった。


「無理だな。私はマージェリー修道女様の未来を貰い受けると決めてるから。君だろうと他の誰だろうと渡せない」


 いや、だから。小さなジーン相手に何本気になってるの? というか、人の将来を勝手に決めるなって前に言ったじゃない! そもそも私の意思は無視か!


「勝手に人の未来を決めないでほしいと思うのだけど…。デリック」

「マージェリー修道女様。ずっと会いたかったです」

「……ふぅ」


 帰って来たデリックは、巣立った時から更に体を鍛えた成果があったのが分かるくらいには、体が大きくなっていた。背も高くなっていたのも大きいのだろうけど、肩幅もそうだったし胸板も厚くなっているのが分かった。何より顔つきがとても男らしくなっていた。まだあの頃は少年らしさがあったけど、今見るデリックには欠片もなかった。立派な聖騎士になれたんだろうと思う。

 でも、そんなことを考えるのも僅かなことで、すぐさまジーンに意識を戻すことになった。なぜって、ジーンが私の修道服をもっと強く握り込んで私を引っ張っていこうとし始めたから。


「ジーン! 引っ張らないで、服が!!」

「や! あの人嫌! マージお姉ちゃんあっちいこ!」

「わかったわ、分かったから引っ張らないでね」

「…うん」

「ありがとう。じゃ、向こうへ行くのね」

「うん」

「デリック、また後でね」

「あ…はい」


 こうして私とデリックとの改めての再会は、ジーンという小さな男の子に邪魔されることであっさりと終わった。この後もデリックが私と話そうとするたびにジーンが邪魔をするため、二人の間に大きな越えられない溝が出来上がっていくことになる。

静かににらみ合う二人の間には常に私がいることになり、正直言えばとても居心地が悪いというレベルではなく、身の置き所がない感覚になるため、私は逃げ出したいなぁ…といつも思う羽目にもなり、ため息をたくさん吐くことにもなった。

 ジーンの境遇は先輩修道女からデリックも聞いたらしく、決してジーンを嫌うということはデリックはなかったものの複雑な気持ちのようだった。でも、その複雑な気持ちについては、私はスルーするだけ。私にはどうすることもできないことだから。


『私は誰とも結婚するつもりもないし、子供も作るつもりもない』


この世界に転生した時点で、私の意思とは関係なく決められていたようにも思えたけど、まぁ…マージェリーがした事の結果だから、私が代わりに受けているという感覚にはなるけど。

それでも、きっと私はマージェリーが何もしなくて、私と言う存在がこの世界で意識を取り戻したら、やっぱり結婚なんて考えられなかったような気がする。

前世での私がどういう人間だったのか抜け落ちている記憶のせいではっきりとしないことが多いけど、子供は好きだけど…だからと言って結婚を望むかどうかは別だと思うから。

お読みいただきありがとうございます(*^^)


二話目の投稿は16時以降になると思います。

デリック視点の話です。

この話からの続きになるので、続けて読んでいただくと分かり易いと思ったのと、ちょうどキリ良く30話だなー、という特に意味のない理由での二話投稿です(*'▽')

28話後書きで書いた青い鳥さんちのお題の件です。

初めにデリックで出たお題で書いてみたんですが、なんだかちょっとネタバレ含んだ年齢制限かかりそうな空気が漂ったので、表に出すのをやめました。

改めてお題を貰ってみたら、デリックじゃなくマージェリーさんが面白いかも、と思ったのでそちらで書いてます。

近々活動報告に持っていけるといいな、と思いつつがんばってます。


次も続けて読んでいただけると嬉しいです(*^^)


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