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本日も前回に引き続き二話投稿する予定です。

二話目は夕方の投稿になると思います。

 孤児院の男の子達の就職先としての選択肢を増やすことが出来て、一安心した後のことだった。お母様から話し掛けられた。


「エクルストン公爵御嫡男のアーヴィン様と御婚約者のステファニー様に改めてお詫びの言葉をお伝えしたの。お二人からはもうこれ以上は、とやんわりお断りされたのだけれどね。

貴女は直接謝る機会もないままこちらへ来てるわよね。ちゃんとお手紙で謝意をお伝えした?」

「はい、伝えました。ただ…どれだけ言葉を尽くしても、正しくは伝えられないことだけは分かっているので…結局は、丁寧に言葉を重ねることしか…出来ていませんが」

「そうよね。結局そうなるのよね。直接お会いする以外には…」

「機会が与えられるのなら、ちゃんとお詫びもしたいと思っていますが、この場所から外へ出ることはないですから、難しいです」


 お母様が小さく頷くと、少し私をじっと見つめて、それから「そうね」と言葉を続けた。


「それでも、言葉を途切れさせてはいけないわ。貴女がしたことで傷付いた方がいらっしゃるのだから。でも、だからと言って、貴方自身が自分に閉じこもっていてもいけないの。

もしね、いつかお二人に会う機会があったらでいいのよ。その時には本当のことを伝えるべきだと思うのよ。

それが貴女にとって辛いことだとしてもね。お二人には真実を知る権利があるのだから」

「はい、お母様」


 そうだった。()という人格を、前世の私という存在を思い出したばかりの頃だったこともあり、アーヴィン様からどうしてステファニー様を害したのか問われたことがあった。

ただ、あの時の私は混乱している状態だったから、型通りの言葉しか返すことが出来なかった。きっとそれで納得はしてもらっていないと思う。でも、私自身がマージェリーという貴族令嬢に転生したのか、それとも憑依したのか、全くさっぱり分からなくて、しかもマージェリーが加害したという事実があることも混乱するには充分だったし、それ以上に自分の状況を受け入れるには時間が必要だったわけだし。ただただアーヴィン様に問われたことをちゃんと言葉に出来なかったのは本当のこと。

 私が前世の私そのままだったから。マージェリーの記憶も思いも考えも、まだ共有出来ていなかった…状況だったかしら。ちゃんと記憶も思いも考えも分かってはいたけど、それが私のものとして出来ていなかったという事実があったから、本当に他人事だなって…。

 まぁ、考えてもらえれば分かるんだけど。いきなり別人になっていて、しかもその別人が何かしらの罪を犯していて、自分が別人の犯したその罪の償いをしろ、と言われたら…混乱しないほうがおかしいわよね。

まぁ、そんな状況にあって私は比較的すぐに受け入れた方だと思うのよ。

でもね…私がアーヴィン様の問いにちゃんとマージェリーの気持ちを伝えたことはなかったし、ステファニー様にも謝罪を出来ていないというのは事実だから。


「いつか、機会が得られたら必ず、お二人には自らの言葉でちゃんと謝罪をしたいですし、向き合いたいと考えてます」

「そうね」


 この後はまたいつものように、家族水入らずの時間を過ごした。

アーヴィン様とステファニー様が結ばれるために存在するこの世界が改めて物語の世界だということを思い知らされながらも、それでも物語通りに展開していない事実と、私がある意味アントニア様に成り代わったような状況なんだな、と思い知らされてもいた。幸い死ぬことはなかったけど。

 ()()()がステファニー様を害したわけじゃないけれど、それでも今の私はマージェリーという令嬢の体の中にいて、私自身はマージェリーに転生したんだろうと最近やっと思うに至っている。どこかでまだ認めたくはなかったのかな、って思うけど。

私が彼女を害したわけじゃない。これは本音。でも、この体が彼女を害したのは本当。それなら、やっぱりいつかはちゃんとマージェリーとしてステファニー様に謝罪をすべきたと思ってもいて、それが叶う事なのかはこの時の私には知る由もなく。

ただ、マージェリーが私と馴染んでいくうちに、私が彼女を害したわけじゃないという思いが、私が彼女を害したわけではないけどマージェリーの気持ちを知ることが出来るのは私だけ、という考えに変わったから。

いつかちゃんと謝ろう。もしこちらの事情を伝えることが出来るなら、私自身とマージェリーの違いも伝えられればいいけれど、と思いながら…言い訳めいたことになりそうだから、きっと伝えることなんてないんだろうとも思っている。


 ⁑ ⁑ ⁑ ⁑ ⁑


 家族との時間も私以外が満足することはなかったけれど、この後のこともあるし、家族も修道院から出る時間が迫ってきていることもあり、次に会うのはまたバザーの頃…つまり来年の夏と約束して別れることになった。皆寂しそうにしていたけれど、さくっとお見送りしたのだった。

 そうして私が子供達のいるバザーの会場へと戻ると、もう終わる時間も近いためか、色んなものが完売状態で、残ったものを買い求めてくれている人達が残っている、そんな様子だった。


「ポリー、どうかしら? 品物はもっと増やしたほうがいいと思う?」

「あ、マージェリー修道女様! そうですね。もっとあっても大丈夫だと思います。去年よりも多くの人が来てくださってるから、来年はもっと多いほうがいいかもしれません」

「そうなのね。後で詳しく教えて頂戴ね」

「はい」


 その場にいた十五歳になったばかりのポリーに声を掛けた私は、やっぱりバザーで売る品物の数が足りないと感じていることを確かめることになった。

子供達が準備することもあって、ある程度の数までは大丈夫でも、それ以上は難しいという問題が出てくるのは分かっていたけど、予想よりも早くにそれが露見した気がした。

ちょうど孤児院を卒業したオーレリアとヴィヴィアンが修道院の近くの街で働いていることもあって、助けてくれたけど、今後もそれを当てにしてはやっていけない。二人だっていつかは結婚するだろうし、子供が生まれたら孤児院の手伝いも難しくなる。というか、それは五年も経たないうちにそうなるはず。この世界の結婚は早いものだから。

そう考えていると、助っ人としてバザーの品物の一部を作ってくれたオーレリアとヴィヴィアンが一緒にやって来た。


「二人揃って来てくれたの? ありがとう。二人のおかげで、バザーもなんとかなったのよ。助かったわ!」

「いいえ、私達の方が孤児院でたくさんのこと教えてもらったから、働くようになって本当に助かってます」

「本当ですよ。あの、それで…修道女の先生方にご報告があってやって来たんです」

「…オーレリアが報告? それともヴィヴィアンもかしら?」

「オーレリアだけですよ。私も早くご報告したいですけど、まだちょっと難しいですね」

「?? 何かしら? ともかく、建物の中へ入っていてね。もうすぐでこちらも終わりだから、片付けが終わったら私もそちらへ行くわね。先に他の修道女様とお話していてね」

「「はい」」


 二人の話からいい話題だというのは分かったけど、具体的に何なのかは私には分からなかった。でも、側で聞いていたポリーがなんだかニコニコと笑っている。まさか、ポリーにはオーレリアの報告が何か分かっているの? もしかして私だけが分からないの? なんだか疎外感が…。

ま、まぁ。気を取り直して、バザーの終わりまでちゃんとしましょう。お客様に気持ちよく帰っていただくのも大事よね。


「ありがとうございます。また来年もお待ちしております」


 そう最後のお客様に言葉を伝え、クッキーと刺繍をしたハンカチをお渡しし、お見送りした。

後は片付けが残っているから、それも子供達と一緒にがんばる。とは言っても、孤児院の庭に出した数脚の子供達用の椅子と小さなテーブル六脚をそれぞれ汚れを拭いてから孤児院内へと戻す。

後はそれぞれの品物を入れていた木箱も中へ運び入れて、ゴミが落ちていればそれも拾い集めて、そうして片付けが終わると子供達と一緒に中へと入っていった。

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