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本日は二話投稿しています。
一話目の+21+を読んでいない方はそちらからどうぞ。
バザー最終日は、とても人が多かった。貴族家に仕えている人達も個人的に欲しい物を買っているようだったし、追加を買い足すために来ているという様子の人達もいた。
「…え? こんなに売れちゃったの?」
と、つい言葉が漏れたのも仕方ないことだと思う。だって、サシェは午前中に完売。去年よりもかなりの数を準備したのに。
「あの…サシェは、まだありますか?」
そう声を掛けてくれたのは、使用人らしいお嬢さん。申し訳ない気持ちを思い切り顔に出して、言葉を返した。
「大変申し訳ないのですが…、全て売れてしまいました」
「そうなのですね。それじゃ、こちらのハンカチをいただきます」
「分かりました。それでは、お包みしますので、お待ちください」
「ええ」
サシェがないなら刺繍入りのハンカチ。買うものを変えることにはなるけど、結局はお買い上げしてくださる。非常にありがたい状況だったんだけど…でもなぜサシェから在庫がなくなるのだろうか?
その答えをくれたのは、後のお客だった。
「やっぱりサシェはなくなってしまったのね。私もハンカチを頂くわ」
「はい、ありがとうございます。お包みしますのでお待ちください」
「ええ、お願いね。それにしても、こちらのサシェの香りをハンカチに移して、意中の方にお渡しすると両想いになれるって噂があるの」
「こちらになります。お支払いはどのようにされますか?」
「使用人が支払うわ。それよりサシェの移り香を付けたハンカチで想い人と心を通わせ合えるなんて…本当なの?」
ハンカチをお渡ししたのは使用人だという年配の女性。そしてお会計も済ませる。私もすぐに他のお客に…と思ったけど、タイミングがいいのか悪いのか、お客が途切れたところだったから、そのまま貴族の御令嬢らしい方とお話を続けることになった。
「あ、あの…そのお話初めてお聞きしたもので、よく分からないのですが…」
「まぁ! だったら益々本当なのだわ。もし、こちらでそのことを謳い文句にしているのだったら、眉唾ものだと思ったのよ。でも、そうではないのよね。
ということは、本当に恋が叶った方がいらっしゃるということ! つまり、本当ということよ。それに…少なくとも私が聞いただけでも、五人はそういう方がいらっしゃるわ」
「…そ、そんな効果はないはずなのですけど」
嘘! そんなおまじない的な効果なんて付与できる人いないし、この世界って魔法なんてないわよ。というか、この世界に恋の神様的な存在もいなかったはずなのに! …カクラート神は愛も司る神だったわね。
神様ぁ、何かされましたかぁ? って聞いても返事あるはずないわね。
「そうね、普通はそうよね。実際にどうかなんて私も経験していないから分からないし、どちらでもいいのよ。ただ、そういう噂があるというのは知っててもいいんじゃないかしら? この孤児院の作るサシェのことなんだし」
「わざわざ教えてくださって、ありがとうございます」
「どういたしまして! というわけで、来年もまた来るから、サシェもっとたくさん準備しておいてもらえると嬉しいわ。ではね」
「はい。ありがとうございます」
お喋りが好きな方だったんだろうと思いながら、でも来年のサシェに言及していくあたり、かなりサシェが欲しかったのが想像出来る。きっと想い人がいるんだろう。
来年のバザーは、今年の三倍は作ろう…。そうじゃないとかなり不安。
なんて思っていたら、やって来ましたよ私の家族。一家勢ぞろいでやって来ましたよ。去年はお母様いらっしゃらなかったからね。
「マージェリー、元気だった?」
「お母様! お久しぶりです。お変わりないようで安心しました。私は見ての通り、元気にしております」
「良かったわ。私も元気にしていたわ」
「マージェリー、今年も会えて嬉しいよ」
「お父様、私もお会い出来て嬉しいです」
「「「マージェリー」」」
「お兄様方も、お元気そうで何よりです」
こんな調子で、末っ子を心配してやってくる一家とは、血縁関係はあるものの、貴族籍を抜けてるから形の上ではもう家族でもない。でも、この人達はずっと私のことを気に掛けてくれる優しい人達だ。
「ちょうど他のお客様も少ない時間だから、少しこの場を離れるわね」
「マージェリー修道女様、ご家族がいらっしゃったんですね。どうぞ、ごゆっくりしてください。後はおまかせを!」
「ありがとう。それじゃ、また後で」
「いってらっしゃい」
その場にいた子供達に声を掛けて、去年同様に孤児院の談話室を借りて家族水入らずで過ごすことになった。
この時にお父様、お兄様達に相談をさせてもらおうと思ってたことがあったから、丁度良かった。
「今年も孤児院のバザーに来てくださって嬉しいです。孤児院の子供達の面倒をみるのが私のこの修道院での奉仕なので、本当嬉しいです」
私がそう切り出せば、皆目を細め微笑んでいた。
「お父様、それにお兄様方にもご相談があるのです」
「なんだい?」
「この孤児院にいる男の子達なんですけど、聖騎士になりたいと努力を続けている子供達が何人かいます。でも、聖騎士になれずに終わる子供もやっぱりいるんです」
「なるほどな、要するに聖騎士になれなかった子供の受け皿を辺境伯領内で見つけたい、そういうことか?」
「はい! 孤児院で文字の読み書きと計算は教えているので、市井にいる子供達よりも教育は受けている状態です。後は手に職を付けられるようにと男の子達は剣術、他にも本人の興味のある分野を可能な範囲で学べるようにと街の職人さん達とお話しています」
「うむ、なるほどな」
「でも、それでも職業に就けないことも、どうしてもあるので…そういう子供達が独り立ち出来ずに、修道院で修道士修道女として残ることもあるようです」
「そうか…」
「ですから、子供達が孤児院、修道院から出て、広い世界をちゃんと自分の足で立って歩いて、たくさんの経験をしてほしいんです。その為にも、お父様やお兄様方の御協力をお願い出来ないか、と」
「まずは、聖騎士になれなかった者の受け皿が欲しい、ということか」
「はい。もし可能であれば辺境伯家の騎士団で。そちらが無理でも街の守りの要でもある衛兵なら…と。辺境伯騎士団と同様に辺境伯家での雇用になりますし」
お父様は顎に手を持っていくと、軽く撫でながら考えている。少し無謀なお願いだっただろうか、と考えているとお父様が手を下ろした後、私を見据えるように視線を移した。
「子供達の資質もある。適性なしと判断することもあるだろう。それでもいいのなら、希望する者を連れてくるといい。試験くらいはしてやろう」
「お父様! ありがとうございます!!」
お父様の言葉に私は子供達に少しでもチャンスが与えられると安堵した。そして一番上のお兄様からの問い掛けがすぐにあった。
「マージェリー、因みにだけど。子供達の剣術を教えている方はどなただ?」
「聖騎士様のユーイン・ポッツ様です。体術はハリー・キーン様です」
お二人の名前を伝えれば、お兄様は黙り込んでしまった。何か思うところがあるような様子も見せる。なんだろう?
「ポッツ卿にキーン卿…父上、確かお二方共聖騎士団では相当な腕の方だったのでは?」
「ああ、間違いないな。でも何年か前に負傷されて、遠隔地に行かれたというのは聞いていたが、まさかステラ修道院におられたとはな」
「お二人から学んでいるのなら、子供達に期待してもいいのではないでしょうか?」
「そうだな。例え辺境伯騎士団は無理でも衛兵なら。各街の治安維持には必要だし、優秀な者はいくらいても問題ないしな」
やったー、子供達の就職先にちょっと可能性が広がったわー。良かったわー。やっほーい! ハッ! またやってしまったわ。ついつい浮かれちゃうと脳内だけとは言っても、前世の私が思い切り出てきちゃう…反省反省。
とにかく、これで男の子達の職場の選択肢が少し増えて良かった、と思ったのだった。
お読みいただきありがとうございます(*^^)
小説家になろうさんに昨年初めて投稿をした日から一年経ちました。
まさかまだ続けて投稿してるとは思ってませんでした。
読んでくださる方がいる、それだけで随分違うんだな、と思います。
その上評価までしてくださるわけだから、どれだけ励まされてるのか、と。
いつもいつもありがとうございます!
ブックマーク登録、いいね、ありがとうございます(*^^)
今後もがんばりますので、よろしくお願いします<(_ _)>




